第二話 ラスタ村の騒動 その一
不定期更新
今回ちょっと冗長かも
まず俺が転生後、目覚めたのはどこかの木の下だった。
優しい木漏れ日が俺を目覚めさせた。
やわらかで温かい風が頬をなでる。
遠くから羊のような声が聞こえた。
風にそよぐ草木はさらさらと音を立てていた。
俺がゆっくりと体を起こし、立つとまず激烈な体の違和感を覚えた
ない
24年間出番のなかった相棒が
ちなみに服もない
生まれたままの姿、すっぽんぽんというやつだ
そしてある
この胸にたわわに実るやわらかな果実が
とりあえず辺りを見回して立ってみた。
辺りには柵と羊と…遠くに家が見える。
「挨拶しておくか…」
ふっと独り言を漏らした俺は体を伸ばした後、はだしで歩き出した。
はだしでやわらかな草を踏むのは何年ぶりだろうか。
というか
歩きやすい
ふと下を見た。
このキャラは巨乳に作った覚えはないが自分の足が見えない。
前に胸とは見る大きさと生える大きさとはわけが違うとどこかで──たぶんまとめサイト──で見た気がする。
やわらかな風に包まれながら恐らくこの牧場の主であろう人物が住んでいる家に向かっている途中だった
「だ、誰っスか!?」
後ろの方から驚きの声が聞こえた。
振り返るとあの…なんていうんだ…牧場の人が持ってる…あのね…バカでかいフォークみたいなね…あの牧草をね…
えいや!って…こう…あれするやつ…を俺に向けている少年が震えながら立っていた。
少なくとも味方とは思われていないようだ。
誰だ?
そういえば俺はその問に対する答えを持っていない。
だってさっきこの世界に来たんだもん。
名無しの権兵衛どころか赤ちゃんもいいとこだ。
もし仮にでも異世界第一村人に
【どーも、田所智也です】
とか言いたくはない。
八頭身エルフの名前がそんななのは俺が嫌だ。
どうする?
名前、名前かぁ…
「"誰だ"って聞いてるッス!!答えてください!!もしかして獣使いッスか!?…というかまず…何か服を…」
そう言う少年は震えながらあの…デカい…もうフォークでいっか…をこちらに突き付けてきた。
しかし顔はこちらを向いておらず下を向いていた
ちょっと待って!!今考えてるから!!
ていうかマジで服はどうなったんだろうな?
あんな必死こいていい感じのコーデ探したのに、今は全裸だ。
一つ結びの髪留めもない
あ、思いついた
「おr…私の名前は、【レッダ・リヴァーサ】ッッ!!!この世界を"直す"ものッッ!!!」
俺は即席の決めポ-ズと共にそれっぽい名前を言い放った。
決まった
と同時に俺はこの先の人生のタイトルとも言える名前をノリで決めちゃったな、と思った。
風が吹いた。
少年はフォークを構えたままだった。
あ、そうだった
「つまりお…私は獣使いなどではないッ!!」
その後、少年と色々話し合い、この少年は家の主であることが分かり、いろいろなことを聞いた。
ここはのどかな山の中の牧場の村のラスタ村。
この少年、アクトはラドとよばれる羊に近い動物を飼っているが他にもチャホやコペも飼っている家もあるという。
なんだよチャホだのコペだの。
「それにしても…ごめんなさいッス!!獣使いさんだと決めつけちゃって…申し訳ないッス!!」
少年の家にお邪魔して話を聞いていたがこれで謝られたのは23回目だ。
律儀というかなんというか…
俺が現状住所不定無職だと説明するとアクトは俺をこの家にしばらく置いてくれるという。
これも異世界転生の恩恵というのか。
家は見た感じ質素だが、今は感謝すべきだな。
シンプルだが着る服もくれた。下着は少し緩いが。
とりあえず髪の毛を束ねておくか。
そう思っていたら家のドアがガチャリと音を立てて開いた。
「ねーちゃん!」
アクトは家に入ってくる大きな荷物を背負った女性に嬉しそうに駆け寄った。
「あら~ただいまぁ~…あれ?あっくん、その方は?」
ねーちゃんと呼ばれた大荷物の銀髪の女性はアクトを抱いたまま不思議そうに俺を見ていた。
輝く銀の髪の毛、やわらかな表情、青空を思わせる水色が輝く淡い瞳、清らかなワンピース、豊満なバスト、ふくよかな腰つき。
俺はその美しい女性を見た瞬間、電流が走った。
一人目だ!!!!!!!!!
そう思った。
え、だって異世界でしょ?
俺、チート持ちでしょ?
まだ使ってないけど
いやこれはもう…ねぇ?
ハーレムだよねぇ!?!?
俺ついにハーレム築いちゃうんじゃあねぇの!?!?!?
そんな思考と電流が駆け巡る俺の体は心臓の鼓動がバクバクと高鳴るばかりで一向に動かない。
そんな俺を察してくれたのか、アクトがお互いの紹介を始めた。
「あのエルフのおねーさんがレッダさんで、こっちのねーちゃんがねーちゃんッス!!」
「えへへ~ねーちゃんで~す」
女性は自身の体に抱きついているアクトの頭を撫でながらデレデレの紹介をした。
この姉弟はとても仲が良いようだ。
だが人としてどうなんだ?
「改めて、私は【レッダ・リヴァーサ】ッッ!!!この世界を"直す"ものッッ!!!」
俺はさっきの決めポ-ズと名前を言い放った。
「ではこちらも改めまして、私は【エリーゼ】。アクトとは血はつながってないけど、私の弟なんだ~」
そう言って彼女はしゃがんでアクトの頬に自分の頬を擦り付けた。
アクトはこそばがゆそうにしている
ああ、この人ノリがいいだけで常識はあるのか
そう思った。というか
あれ?
これもしかして、入る隙間ない感じ?
俺が困惑しているとアクトはエリーゼに事の顛末を伝えた。
彼女は表情豊かにアクトの話を聞いていた。
そして
「ごめんなさい~!!この村最近ちょっと荒れちゃってて~…でもでも!!ごめんなさい!!」
エリーゼなる女性は弟のように俺に頭を下げた
通算24回、いや25回目だ。
しかし引っかかる事を聞いた
「荒れている?この村はのどかなんじゃあないのか?」
アクトとの説明と齟齬が出る。
直球の疑問をぶつけるとエリーゼは荷物を部屋の角の方に下ろしながら語った
「最近、獣使いが出るってうわさが流れちゃっててねぇ~」
獣使い…俺が容疑をかけられたやつだ
「この辺、野生のブリムも生息してるんだけどね~普段は撫でちゃえるくらい大人しいんだけど、最近妙に獰猛になっちゃって。
ブリムが暴れまわって牧場の子たちもケガしちゃうし、他の人の家とか壊しちゃってね~、あまりにも突然だったからそんな変なうわさまで流れちゃったんだ~」
「ふもとの町の学者さんたちも原因がわかんなくてお手上げなんだ~」
大変だなぁ
そう呑気に思った瞬間、
外から動物の叫び声が聞こえた。
鳴き声というよりも断末魔みたいな、そんな声だった。
その音を聞いた姉弟は青ざめた顔を見合せ、何も言わず勢いよく外に出た。
そんな様子を見ていた俺は野次馬魂全開で姉弟の後について行った。
少し傾いた日が照らしていたのはまさに猪突猛進といった感じに暴れている3匹の大きなイノシシたち。
そしてその大暴れに巻き込まれた羊たちの姿だった。
それを俺は姉弟の後ろから見ていた。
「あっくんはラドたちを!!おねーちゃんはブリムを引き寄せるから!!」
「わかった!!」
と指示を出すと、エリーゼは腰に下げていた角笛を思い切り吹いた
ブオオという獣のうなり声のような音が辺りに響き渡る。
すると、イノシシたちが一斉に彼女を見た。
そして大きな地鳴りと共にイノシシたちがエリーゼを目掛け走り出す。
その隙をついてアクトはけがをした羊たちのもとへと向かう。
ぐんぐんと近づいてくるイノシシたち。
ついに目の前にまでイノシシが迫っている。
「あと…二歩、今ね」
彼女はそう言って殺意マシマシに突進してくるイノシシの壁を
音もなく飛び越えた
優雅に空を舞う彼女はまるで白い美しい鳥のようだった。
思わず俺はそれに見とれてしまった
パンツは白なんだ
ハッとして俺は空ではなく視線を落とし、前を見た。
目標を見失ったというのにイノシシたちは突進したままだ。
ということは
俺は姉弟の後ろから見ていたので俺の前には誰もいない
エリーゼがイノシシを回避したためイノシシはそのまま突っ込んでくる訳だ
俺目がけて
まるで大きな壁が時速何十キロという速さで迫ってくる。
俺は転生早々死を覚悟した
その瞬間だった
迫りくるイノシシたちに対し俺はとっさに頭に浮かんだ言葉を叫んだ
「うわあああぁぁ!!!!ウミウシパンチィィィィ!!!!」
そう叫ぶと体が勝手に反応し、俺は地面を殴った。
地面に突き立てた拳から周囲の地面に音を立ててひびが入った。
するとそのひびからものすごい水圧で地下水が噴き出し、イノシシの壁を下からかち上げた。
その噴き出す水に飛ばされたイノシシたちは空中に投げ出させれてどこかに飛んで行ってしまった…らしい。
これは後で聞いた話だ。
実際は地面を殴ってからエリーゼに肩をたたかれるまで、しっかりと目をつむっていてなにも見てれなかった。
手に残った感触はビリビリと覚えている
「ラドたちは軽いけがで済んだみたいだよー!」
アクトの声が聞こえ、そこに駆け寄るエリーゼの後ろに俺はついていった。
そこにはもこもこの白い一角獣が座っていた。
愛らしいその動物の脇腹には拳ほどの大きさの淡い赤のシミがあった
エリーゼはそのシミのついた毛をかき分け、傷を見ている
「…うん、これなら薬を少し塗っておけばすぐ治っちゃうね~」
アクトは自身のポケットから小さな巾着袋を取り出し、羊を診ている姉に手渡した。
「他の子は誰もケガしてなかったみたいだよ」
「そっか、見てきてくれてありがとうね~…それじゃあ、ちょっと染みるよ~…」
そう言って彼女は手渡された巾着袋の中身を指ですくい、羊の傷に塗り付けた。
それなのに羊は大人しくしている。
薬が染みないのか、彼女との間にとてつもない信頼関係が築かれているのだろうか。
その様子をただ指をくわえて見ていた俺の裾が突然引っ張られた。
その元を辿ってみると目を異様に輝かせたアクトがいた。
「今のどうやったんスか!?いきなりドッバァアアって水を出すやつ!凄いっス!」
彼はどうも興奮しているようで、身振り手振りで俺に色々聞いてきた。
と言われましても…
恐らくさっきの技はここにくる直前に爺さんが言っていた"チート"の一環だろう
だがここで"チート使いましたw"
と言って通じるかどうか…
というより、この希望に満ち溢れた瞳に対して
"ズルしましたw"
というのはあまりにもひどいと思う。
なので
「きっと、お前にもできるさ」
と質問に答えずに気休めを言っておいた
するとアクトはより一層目を輝かせ自分の拳を見つめていた。
ふん、ガキは簡単だな。
ってあれ?
そんなに水出てたらなんらか他の被害が…
そんなことをしていたらエリーゼは手当を終えたらしく羊を羊小屋に戻してきたようだ。
エリーゼは改めて俺の方を向き、言った
「さて、今日からクラウディアさんにはしばらくの間泊めてあげる代わりに、この子達のお世話を手伝ってもらいます!」
むふんと胸をたたいた彼女は実にかわいらしかった。
その日は簡単に寝床や着替え、水浴びの場所などの説明を受けた後、異世界チックな原材料不明の夕食を食べて寝た。
その夕食は見た目はよかったが、材料については勇気が無くて聞けなかった。
というわけでそれからしばらく、と言っても一週間もなかったか、俺の人生初の酪農体験が始まった。
朝 時刻:朝日が顔を出すころ
アクトにたたき起こされ、ラド羊の世話。
小屋はあるとはいえ、基本は放牧のため牧場にとっ散らかっている。
なので個々によって食べさせる餌の違う羊たちを見分けて、それぞれに合った餌を与える。
この餌、というか羊たち、バカみたいな量を平気で平らげるので一度に大量の餌を運ぶ必要がある。
死ぬほどきつい
肉体労働などしたこともない上、羊たちに懐かれていない俺は一頭に餌を与えるのが精いっぱいだった。
しかもあいつら近づくと逃げるだけでなく、たまにご立派な角でどついてくる。
きつい
そんな作業をエリーゼたちは軽々こなしている。
働く人って本当に凄いんだなと心の底から思った。
少なくとも今日この世界に来た俺には重労働だった。
昼 時刻:餌やりが終わって一休みした後
この時間が相対的に一番楽だった。
昨日のイノシシたちはどこかに飛ばしてしまったので俺が泊まってた時は来なかった。
なので羊たちを放したまま羊小屋を清掃、次に牧場のある区画に餌を山積みに。
これで勝手に餌を食べてくれるようだ。朝もそうすればいいのに。
その後は羊たちの見張りだ。平和過ぎる、何も起こらん。
一日目はエリーゼと共に見張りをしていた。
以前の俺なら女性と二人きりというだけでド緊張していたんだろうが、
分泌する女性ホルモンのおかげか不思議とリラックスできた。
なのでちょっぴり気になっていたことを聞いてみた
「あのさ、昨日言ってた獣使いってやつの話なんだけど…」
同じ木陰に座る彼女はその言葉を聞くと途端に気まずそうな顔になった。
だが俺はつづけた。だって気になるもん
「ただ単に、イノ…ブリム?が暴れてるだけなんでしょ?なんで"獣使い"が出てくるの?」
昨日から引っかかっていたのだ。
ただイノシシとかの野生動物が暴れているだけなら、彼らのテリトリーで何か起こったとかそういう話が上がるはずだ。
にもかかわらず、まるで人が関与しているような噂話。
転生二日目の赤ちゃんでも違和感ぐらいわかる。
エリーゼは自分の髪をひと撫でしてから口を開いた。
「この村、最近引っ越してきた人がいるらしいの。」
そう言って少し遠くに見える大きな館を指さした
その周りは森で囲われている
「あのお屋敷、ちょっと前に急に出来たんだ~。何の前触れも、工事の音一つせずにね~。」
「その頃かな~、ブリム達が荒れちゃったのは。」
その館はつい最近建てられたというよりも、何十年も前からそこにあるような存在感を纏っている。
なのでこの村の大事なところなのかと思いきや、何とご新居さん。
そして話を聞くに一夜城という奴か。
「村の人が挨拶に行ったんだけど、まだ帰ってきてないんだ~。もう三日かな~?」
「ただのお屋敷じゃあないのは確かかもしれないけど、ただそれだけなのに色々収集つかなくなってきちゃってね~。
『あの屋敷は人食い屋敷だ!』とか『あの屋敷の住人はブリム達を操ってこの村を潰そうとしている!』とか…
変な噂が流れちゃって。アクトも半分ぐらい信じちゃってるし。もう大変だよ~」
要はあの館はある日ポンと現れ、そのせいでブリムなるイノシシが暴れ、この村が迷惑被っていると。
「大変だなぁ」
ぽつりとつぶやいた言葉は彼女にも届いていたらしく、ため息交じりに
「そうだよぉ~」
と呟いていた
夕方 時間:空が橙色に染まってきたころ
なんともノスタルジーな夕日が牧場の平原を照らすのをさぼって空を照らしている
まずは羊を小屋に戻す作業だ。
これはエリーゼの担当らしく、今日は経験のため見学だ。
てっきり羊たちを追い回して小屋に入れるものだと思ってたが、どうやら違うらしい。
小屋の前の椅子に座った彼女は、茶色の木の実と黒い石を取り出し思い切り打ち合わせた。
うまく形容が出来ないが、美しいっちゃ美しい、それでいてどこか素朴な、そんな音色が牧場に響いた。
するとゆったりと羊たちが小屋に集まってくる。
しまいには自ら小屋の中へと入っていくではないか。
彼女は小屋の出入り口で入っていく羊たちの名前をを呼びながら彼らのもこもこな毛をひと撫でしていった。
ちなみにその勢いに乗って俺も羊たちに触れようとして手を伸ばしたが、角であしらわれたので二度とやらん。
家畜共めが。
夜 時刻:月が顔を出した頃
正直もうへとへとだが、それと同時に、ここの人は昼ご飯を食べない習慣らしく、昼から何も食べていない俺に強烈な空腹が襲いかかる。
それはこの兄弟も同じらしく、揃っておなかの音を鳴らしながら夕飯の支度をしている。
俺は料理などしたことが無いため、水を汲むなどの料理とはかけ離れた作業をしていた。
こんな村でも一家に一つ井戸があるようだ。地下水脈が豊富なんだろうか。
一方姉弟は姉妹で分担しながら料理しているらしい。
空腹からか意識して観察できなかったが、弟のアクトは主に切り作業、姉のエリーゼは火の作業と言ったところか。
そんなこんなで出来た夕食は
ツリェモッデとモンベガルのポヌ(どう見てもトマトとレタスのサラダ)のテギ(塩みたいな味)和え
ホムペルのガモ(白身魚をフライパンで焼いた感じ)
ファーぺセヲ(コンソメスープに醤油垂らして水で4倍に薄めた感じの味)
そしてパン(この世界でもパンはパンらしい)
という意外に質素な味付けに割と栄養バランスの整ったように見える料理だった。
だが労働明けの体にはよく染みる。
ただ量が多い。
朝はパンとチーズっぽい何かだけと、やたら軽かった反動だろうか。
それでも全て食べるのは意外と容易だった。
そういえばこの日だったか。
俺は用意された部屋で眠りにつこうという時の話だ。
与えられた部屋のベットに寝転がって意識が遠のくのをを冴えた頭で待っていた時だった。
「あら?意外と夜更かしさんなのね、田所…いや、レッダさん?」
どこからか艶めかしい声が聞こえてきた。
うっそ、この部屋幽霊出るの!?
心臓が跳ね上がり、俺は久しぶりに頭まで布団にもぐりこんだ
「んもう!そんなんじゃあないわよ!…まぁ仕方ないわね、壁に鏡がかかってるでしょ?」
この声の主は俺の心の声も聞こえるのかよ、こわいこわい
そういえば、この部屋の窓の横に鏡がかかってる。
あちこちから悲鳴を上げる体を起こし、吸い寄せられるように鏡に近寄った。
鏡は俺の頭から腰までの大きさだ。
なんだこの美人…あぁ俺か
「あら?意外と素直に来てくれるのね。気に入っちゃった」
鏡の中の俺の隣に見知らぬ女の子が立っていた。
心臓がドキリと跳ね上がる
俺はとっさにバッと振り返りこの部屋を見回したが、この部屋には俺しかいない。
だというのに鏡の中には確かに青い髪の貧相な胸の不思議な格好をした女の子が立っていた
呼吸が乱れてしまう。
肉体労働の後の心霊現象は心と体にとてもくるものがある。
「ちょっと!貧相って何よ!私はラーナっていう"大人"の女性なの!」
女の子は言ってもいないはずの言葉にキレながら唐突な自己紹介を始めた。
「あなたにとっては昨日の話かしら?カミナ様、あのお爺さんの…部下みたいな者よ」
ああ、あのキャラクリから一日経ったんだ
「今日はちょっぴりお話しましょ」
頭が疲労と情報過多で何も考えられない俺を置いてけぼりにラーナなる女は鏡の中のベットに腰掛け
話をつづけた。
「まずは…そうね、聞きなれない単語についての説明ね」
「もういくつか聞いた単語があると思うけど、あなたの世界と類似した物体や物質、動物、事象については
あなたの世界の単語に近いものに聞こえるようにあなたの認識を改めておいたわ。カミナ様に感謝しておきなさい?」
なんだこいつ
もう訳が分からない
「例えば…ラドって生物たち、基本的にはあんたの知ってる羊と大差ないから羊って言っても通じるってわけ。
逆にラドってあんたが聞いても羊って聞こえるわ。その他も色々とね。
ま、今はわからなくてもいいわ」
半ばあきらめたような感じで説明してくれた。
鏡越しに目を合わせながら
「ここからが本題よ。二~三個あるから寝ないでよ?」
「まず、チート能力からね。
今日の昼にあんたが使った…ふふ、ウミウシパンチ…だっけ?あの超人的な力。あの能力の詳細はね…あら、シンプルじゃない。
【危機を打開する】だって。それに…わお、【打開した後は元通りに戻る】…水が噴き出した後にすぐ戻っちゃったのはそういうことね」
ラーナはどこからか古めかしい本を取り出し俺の力を解説した。
するとその本をしまったと思ったら瞬きもできないほどの一瞬で鏡に映る俺の隣に移動した。
指で俺の体をなぞりながら話を続けた。
「今のあんたはそのチート技しか使えないわ。理由はね、まだあんたが"器"として完成してないのよ。あんたはこの先、いろんなことをして
チートを使うにふさわしい"器"になってもらうわよ。…具体的には何するかはこれからね。」
鏡に映る俺の体に触られているはずなのに、体に一切触れられた感触が無いのがより一層恐怖を引き立たせる。
「で、早速やってもらうのが獣使いの特定よ。…大口開けてないでよ、ちゃんと聞いてるの?まぁいいわ。
このラスタ村を騒がせてる獣使い事件…あんたがカッチリ解決して見せなさい?そしたらカミナ様も力を与えてくださるわ」
「…こんなもんかしら?それじゃあそろそろ彼が来る頃だから、しっかり寝なさいよ?
おやすみなさい」
彼女はそう言って手を二回鳴らし、忽然と鏡から姿を消した。
今見たものに困惑していると俺の意識が飛んだ。
「起きてくださいッスよー!!」
次に気が付いたのはベットの上でアクトに布団をひん剥かれて叩き起こされた時だった。
寝ぼけ眼で朝食のパンと丸っこいチーズのようなものを頬張っていた
にしてもこのチーズ、なんというか独特の中毒性というか、そんなようなものがあってかなりおいしい。
それが茶菓子のごとく食卓の真ん中のかごに山のように積まれている。いいねこれ
俺がその山から一つずつチーズをもりもり食べているとエリーゼは言った。
「お口にあったみたいでよかったぁ~、羊の睾丸。」
…え?
その後俺は転生3日目にして吐いた。
吐いている途中に昨日の夢だかを思い出していた。
確か…単語が知ってるものに置き換わった的なこと言ってたっけあの女。
そういえば昨日はラーヅなんとかって言われてたな、あの…金玉。
それに地面を割って水を噴き出したやつも、もうどこにもそんな跡はない…。
すると…多分あの…ラーナのいう事は正しい…はず。
ということは…獣使いとやらの正体も暴かないといけないのか…
「大丈夫っスか?…調子悪いなら今日は休んだ方が…」
吐いている間背中をさすってくれていたアクトが吐き終わった俺を見て言った。
気が利くじゃねえかこいつ
「いや…大丈夫…それより…獣使いに会いに…あの館に行ってみないか?」
俺がそういうとアクトの俺の吐しゃ物を地面に埋める手が止まった。
そのまま沈黙しているアクト。俺はすかさず後押しする
「俺はあの獣使いに用があるんだ。だがこの辺の土地勘は無い。だから案内役が欲しい。だから…」
そう言いかけた瞬間、
「もちろんッス!!行くッス!!そうと決まればすぐに行くッスよー!!」
アクトは吐しゃ物を埋めるのも忘れ、俺の手をグイっと引いて館の方向へと歩きだした。
…この小僧、気が早い
3話はまだまだ作ってないよ