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第一話 これが…俺か…

不定期更新

話をしよう


俺は死んだらしい。


暑い夏の日の夜、近くのバーガー屋に行こうとした俺はバッと通ったトラックに轢かれ、今はここ、なんか白と黒が入り混じる空間にいる。

だがこの運命は本来他の人間が辿る未来だったらしい。

つまり手違いで俺は死んだらしい。

とりあえず俺の目の前にいる神を名乗る爺さんはそう言っている。

爺さんは続けた


「…それでさ、君にはね?ちょっと…一回!一回だけ!…別の世界にね?…生まれ直して欲しいんだけど…どうかなぁ~って…」


多分、異世界転生という奴だろう。

爺さんは凄く申し訳なさそうな口調だった。


いや何を言っとるんだこの爺さんは


「その世界は…こう…いわゆる…【剣と魔法の世界】ってやつで…君がやってた…ゲームの世界観みたいな感じだから…

全部が全部悪い話って…訳じゃあないと思うんだけど…どう?」


口が動かない


俺は茫然としている以外できそうなことが無かった。


「…あ!そうだね…いきなり、こんな話されても~って感じだよね!…」


俺が返事をしないのを見かねて爺さんは説明を始めた。


「今、ワシが担当している世界の…言って伝わるかな?…光と闇の均衡が…そうだな…魔王!によって崩壊しようと

しているわけで…えと…君には光の使者となってね…世界のバランスを直して欲しいんだけど…ダメかな?」


と、言われましても…というのは俺だけが抱く感情じゃないだろう。

というか転生する目的が気になるって訳でもなく。

喪に服す時間が欲しいというか。


「いやでも!…その代わり、その世界で他を逸脱する程の力をあげるから!君の世界だと…チートって言うんだっけ?

それをあげるからどうか…!!」


いや何を言っとるんだこの爺さんは。


「えっとぉ…俺はこれ…現実に戻れる…とかそういう…のはぁ…あったり?」


と、俺はぐちゃぐちゃになった頭を整理しながら、頑張って声に出した。


確かにトラックに激突した記憶はある。死ぬほど痛かった。

しかし現代の医療技術を舐めるな。

いくら正面衝突だとしてもきっと…!!


「あ、ごめん…今、君の葬式…中なんだよね…」


は?

何言ってんだ?

死んだとしてもついさっきの話なはずだろ


「ここは…時間の流れが違くて…信じられないかもだけど…これ、見てみて」


そう言って爺さんは俺にどこからか取り出した水晶玉を手渡した


「…ッ!」

俺は思わず息をのんだ。

そこには俺が焼却炉に入れられる場面が映し出されていたのだ!


水晶が持つ手が震えた


「俺の葬式…親戚が…誰も来てない…」


横から覗き込んでいる爺さんですらショックを受けている


嘘だろ


毎年正月にまあまあな人の数が家に集まってたはずなのに。

父と母しか出席してない。

俺妹居たはずなのに。

しかもお坊さんが経を読んでいるというのに、両方ともスマホいじっている。涙など流す気配もない


「…ってな感じで…今ここにある魂があっても、肝心の肉体が無ければって感じで…生き返るのは…ちょっと…」


俺の絶望を少しでも和らげようとしたのかそうやって声をかけてきた爺さん。

空気よめないのかコイツ

俺は震える手で水晶玉を爺さんに返した


「…転生を…断ったら…どうなる?」


自分の葬式を垣間見た俺は少しでも自分に都合のいい方を選ぼうとした。

すでに心のどこかで転生する方に傾いてる自分がいる。

生きようともがく自分がいる。


こんな時でも生存本能は働くようだ。


爺さんは少し意外そうな顔をしてから答えた

「そうだな…多分、普通に天界に行ってから、そこで生前の行いを裁かれて…そのままって感じかな…」


つまりこのまま俺死亡と。

何も成せぬまま。


正直、YES以外の選択肢は用意されて無さそうだった。

だが理不尽にも程がある。


確かに俺は高校の留年をきっかけに中退し、バイトも就活も独り立ちもせずにそこまで好きでもないネトゲに時間をドブに落とし続け、

おかげさまで今年で童貞24歳となったが、そんなことでこうあっさりと世界から排除される筋合いはない。


なので俺は今できる限りの最大の抵抗、【クソほど嫌そうな顔】を発動した。


眉をお互いがくっつきそうなほど顔の中心に寄せ、口は二つに割れそうなほどへの字に折った

おまけに鼻の頭を眉間に寄せ、目はできる限りひん剥いた。


これで何か変わることはない。そんなことは分かっている。

それでも、現状を受け止めきれなかった。出来ることはこのぐらいだった。


俺の嫌そうな顔を見た爺さんは最初こそは目を合わせていなかったがついに耐えきれずに言った


「わかった!じゃあ、あの…人体錬成…じゃなかった、確か…キャラクリ!!キャラクリ…させてあげるから!!

少女にもドラゴンにもなれるから!!お願いだから!!転生して!!」


すると、水色の薄い板状のホログラムと共に爺さんの後ろにマネキン人形と共に不思議なパネルが現れた

その唐突さに俺は思わず立ち上がり、恐る恐るマネキンに近寄った


マネキンは人の肌のような質感であり、案山子のようなポーズと形をしている。

目も口もない顔は正直不気味だが、これを出されては流石に興味を惹かれてしまう。


爺さんは安心したように俺の隣に立ち、パネルの説明を始めた


「これを指で操作して…それ!」


爺さんが文字通りちょちょいのちょいとパネルを操作するとその不気味なマネキンにポンと髪が現れ,

はげたマネキンが一瞬にして黒のショートカットのマネキンと化した。


驚く俺を見て嬉しそうな爺さんは


「こんなこともできるぞ!」

と言って目の前のマネキンに目を付けたり、喋らせたり、変なポーズをとらせたり。

しまいには魔物のような見た目に変えて見せた。


ふざけるのはここまでにして、と前置きして爺さんはマネキンを元ののっぺらぼうに戻した後、

俺の肩をたたき、言った。


「今ここで作ったモデルがそっくりそのまま異世界での君の容姿になるぞ。どう?やらない?」

俺は大きく息を吸って、そして吐いた。


俺は堕ちた。





「とりあえず…かわいい女の子つくるか!」

俺は爺さんからひったくった操作パネルをいじりながら、意味もなく大きな声で言った。

このパネルは初めての俺でも扱いやすいなんとも使いやすいUIが採用されている。

これなら俺でもやり切れそうだ


「え?女の子作るの?性別を変えるなら右上の項目だけど…本気で女の子になるの?」


そう心配そうに声をかけてくる爺さんの説明を聞きながらマネキンの造形を進めた。


右上右上…これか

というか操作項目が多いな。

種族別でプリセット的な奴があるわけじゃあなくて文字通り自分でこの案山子から造形していく感じか。

これは時間がかかるぞ…。


俺は右上の…いわゆる♀マークを押した。

そうすると性別が変わるはずなんだが…。しかしマネキンの外見に変わりはない。

「そこを押すと脳とか分泌ホルモンとかのアレが女性のものになるんだ。いや何、性自認とかまでは

決められぬが…」


…なるほどこのマネキンは性別変えただけじゃおっぱいとか生えないのか

これが自由度が高すぎる故の弊害か。全部俺が決めなくちゃならない。

とりあえず顔から決めるか。

「てか爺さん、なんでそんなに女になることを勧めないんだ?」


体形の造形を後回しにして顔の造形に着手している間にもしきりに

「いやあ…」「ええ…?」とか言ってくる爺さんに流石にうんざりして聞いてみた


「だって…この世界…そんなに治安良くないよ?」

重そうな口をもごもごと動かしながら爺さんは続けた

「うちの世界は色々厄介な…魔物っていうのが伝わりやすいかなぁ…がいっぱいいてさ、その中には

人間の女の子だけを狙う…種族って言った方が正しかったかな…がいるから

お勧めできないなぁって…」


つまり凌辱される危険性があると


「おい待て、チートの話はどうなった?それがあればそんなことに巻き込まれないでしょ」


俺は平然とそう言い放ちながら、顔の造形を後回しにして目の色をどうするかという思考に脳の半分を使っていた。

緑系の色好きだからそういう感じでいいか。

薄めの緑が良い感じかもしれん


CMYKのあのパレットを指でタッチして色を微調整していく。

…こんなもんか。まぁいったん保留。

「それはそうなんだけど…万が一ってことがあるかもしれないし…」

終始釈然としない爺さんを置いて髪型の選択へ移った

てかこれ髪型なんて転生した後でもいくらでも変えれるだろ。

なんで今わざわざやってんだ?じゃあいまはとりあえず髪を長くしておくか。肩の後ろあたりまで伸ばしておくか


髪色もCMYKパレットみたいなので調節するだけのようだ

そこはまぁ一旦保留しておこう…


とりあえず他から…じゃあ…

「顔は作らんのか?」

爺さんは長い髪と目しかない頭の案山子を見ながら俺に言った。

そこなんだよ。

どうやら俺には造形の才能がないようで、鼻や口を付けるとどうも園児の粘土細工となんら変わらぬ顔になる。俺はダメ元で聞いてみた。

「これプリセットっていうか、なんか汎用パーツ的なのあるの?」

「え、あるけど」

あるんかい!

爺さんは俺とパネルの間に手を突っ込んで俺に説明しながらパネルを操作した。

なるほど左下の三角形からプリセットに行けるわけだ。いや気付かねーよ。

それはそうと顔だけでなく服や体のプリセットもあるようだ。これは助かる。


さてどのプリセットを使うかな。そのプリセットは途方もない種類があり、選びきれそうにないが…。

まぁ時間はあるだろ。そうしてなんかいい感じの顔プリセットを貼り付けた。

そのプリセットは75番、何というか顔が整っているっていうのは前提として、いわゆる美人系のやつにしといた。こういうのでなんか好きなキャラみたいな感じにする奴いるけど、俺はキャラクリでそういうコスプレはしない派なのだ。なのでこの顔はいい感じだった。なんか既視感がありつつも無いから。矛盾してるがそんな顔あるでしょ。あんな感じ。

俺として生きるとしたら年相応の大人らしさというのが欲しいからな。


次はおっぱい作ろう

見栄えするぐらいの大きさでいいか。さすがに頭よりか小さく作るか。

ああこれ乳首の位置もいじれるのか。でも乳首の位置っていつもの場所でいいよな。

やだもんなんか

肩の後ろの方に乳首が付いてたら

乳首をデフォルトに戻して次は…身長いじるか。


今は頭を見下ろせるほどの大きさしかない。別にこれでもいいけど、生活に困りそうだ。

ま、とりあえず今の俺の身長と同じくらいに…

あやべなんかめっちゃ細くなったw

これもう折れちゃうじゃんw

体は流石に健康的にしておこう。生前は不健康な体と生活だったからな。

太ももは…どうしよ。太ももは見る分には太いほうがいいんだけど、自分の体だと考えると…

こんなもんか。ああ、ウェストいじってなかった。お腹は…マジでどうでもいいかもしれん。これでえやろ。


そうして体を作っていると、いつの間にか転生に前向きな自分に気付いた。

今までは何も成せないままだった。だけど、ここで転生したら何か…何かを成せるかもしれない。

いつもは面倒くさいと言ってなるべく自分が動かない方の選択肢を選んできた…。

が、もう死んだ身だ。ここらがいい区切りかもしれない。


服も選べるんだ…いやこれも転生後に色々決めれるから別に…。

いや、転生後に全裸だったら色々やばいんじゃないか?あっち治安悪いらしいし。

じゃあなんかプリセットから…噓、ユニクロの服あるんだウケる。

今は裸のままじゃ邪念が渦巻いてしまうので、なんかユニクロ着せて後でちゃんと選ぶか。


声も一から選ぶのか…なら…

これもプリセットからなんかいい感じの…なんかこの沢城みゆきみたいな声でいっか。

正直声に執着は無いからプリセットまんまでいっか。よろしくお願いします沢城みゆきさん。


その内ある項目に気付いた

「なぁこの…人と犬が散歩してるアイコンはなんだ?」

「おお、それは【種族】だな。転生先だと色々な種族が生きておる。【巨人】、【獣人】、【エルフ】…その他いろいろのどれか一つになれるぞ。でも一つだけなんだ」

なるほど…【巨人】は力が強くて体がデカい。【獣人】はもこもこの毛皮と人間の数倍の身体能力、【エルフ】は不老の長命であり、耳がとがっている、と。他にも色々あるが…。

ここはエルフだな。こんなに頑張って作った体が老いてしまうのは普通にヤダ。

なのでエルフの長命はともかく不老の特性で美しく生きてやる。耳がとがってるのは誰も気にしないでしょ。




…そんなこんなで体感約20時間のキャラクタークリエイトが終了した。


「これが…俺か…」

キャラクリにここまで時間を割いたのは初めてかもしれない

それにここまで体力を使ったのも初めてかもしれない


艶めく一つ結びのライムグリーンの髪

煌めく切れ長の翡翠の目

目を引くとがったエルフ耳

俺よりも高い身長

大きさ、形共に整ったおっぱい

あと用意されたプリセットから改めていい感じに引っ張ってきた服


これが…俺…


「ほぉ!これは美人さんだ!」

集中していたからか、途中から存在を忘れがちだった爺さんは未来の俺を見て声をあげた

そうだろう?そうだろう?そうだろう?

俺は生涯で初めて作品と呼べるものを作り上げた気がして誇らしかった。尋常じゃなく。


だが未来の俺の事をそんな風に見るな、汚れる。


「さて、転生の準備は整ったようだね。」

爺さんは改めて俺の目を見ていった。


一気に空気がキリッと変わった

俺はそれに一瞬ひるんでしまったが今の俺には迷いなんてない。


「…いつでも大丈夫だ。」

そうだ

俺は完成したマネキンを眺めた

生気の無いそれは、まるで俺の魂を宿るのをを待っているようだった。

これからの俺はこんなきれいな姿もある。


このまま死ねば生前の行い的に地獄行きは回避できないだろう

だったら異世界で生きてみたい。


「よさそうだね。…それじゃあ!!」

爺さんは突如、それはもう失明しそうなくらいに発光し始めた

だんだん意識が薄れてくる


しかし、不思議と怖くは無かった


そして、長いライムグリーンの髪の毛と翡翠の目を持った身長182cmの八頭身美女エルフとなった俺は

異世界へと旅立つのであった…




以上のことを俺は草原を歩きながら事細かに、独り言のようにベラベラ話していた


「凄いっス!!師匠はそんな体験をしてたんスね!!」


俺の少し後ろを歩く茶髪の大荷物のわんぱく小僧は俺の話を楽しそうに聞いていた。


「あぁ凄いだろう…つかそんなことよりもさ…」


俺は足を止めて後ろを振り返り大きな荷物を背負った少年を見下ろした。

少年はきょとんとした顔で、死んだ目をした俺を見上げている。

俺は一度深く呼吸をして言った


「異世界に来て…一応、チート能力をもらって…美女になって…」

「昨日は…お前の村を救って…ちょっぴり、名前も売れて…」


遠い目をした俺の話をさえぎって小僧は言った


「はい!ホンットーに!助かったっス!!獣使いの正体を暴いてくれて!!ありがとーございますッス!!」


少年は純粋な目で俺にもう何度目かわからない感謝を伝えた。


「違うんだ…そこじゃないんだ…」

「なんで…」


俺には


「女がついて来ねぇぇーんだよ───!!!!!!!!!!!!!!!!」


草原に俺の声が響き渡った。


おかしい。

異世界転生といえばハーレムだろ

その事実に男も女も関係ない


というか体は女かもしれないけど、心は24歳の男のままなんだ


女が男についてきても別に普通だろ


普通、村を救えば女の一人二人、俺に惚れて付いてくるもんなんだよ


それに昨今はやれポリコレだのなんだのと言っているんだから外見が女でも女が付いてきてもいいだろ


なのになんだ

付いてきたのは弟子にしろとか言ってる10歳のガキが一人

しかも男だ


男だ


何が悪かったんだ

俺は困惑してるガキを無視して跪き頭を垂れ、地面を握りしめた。


涙が滲んできた。


なにが

なにがわるかったんだ


俺はここ最近の記憶を辿って敗因を探るのだった…

2話は期待しない方がいいかも

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