作業進捗状況7 酒と儲け話③
作者です。私は『卿』という言葉の使い方を間違えていました。早速修正しました。全部他の言葉で置き換えてあります。
注)神々に対しては誠に申し訳ない話ではございますが、まだ【回想シーン】なのですよこれが!
必ず全ての報告書を書き上げて、提出するようにいたしますので、ご容赦いただきたいと思います。
ノンデル・ンカ・ヒルマッカラより衝撃の事実が告げられた。
「1本が900デネイ(≒18000円)だって?通常地元でも1900デネイ(≒38000円)なんだぞ!? 何をどうすれば、そこまで買い叩けるのか俺にはよく分からないんだが!?」
「結局な、酒蔵でもそれは分からんだろうよ。たまたまの不況ってやつかもしれん。しかし奴らにも生活がある。今まで儲けてきたんだ。一回位は捨て値で吐き出してくれることもあるさ」
正直に言えば滅多に無いことだとは思う。
もちろん一軒だけの分量では無いだろう。そして保存は効く商品ながら、保管の危険を避ける方を選択出来るぐらいには潤ってるということでもある。
俺は南側のアナダラーケン領でこの酒を1本辺り3500デネイ(≒70000円)で売りさばこうとしていた。
そうすると2600デネイ(≒52000円)が儲け額ってことになる。2600✕8万本だから全部はければ2億800万デネイ(≒41億6000万円)の差額が出る。
ここで分け前をざっと計算しておかないといけない。
まず兵隊さん2500名は、一人辺り4万デネイ(≒80万円)もらうことになるだろう。これは月々の給料の4倍の特別手当てということになる。
残りの1億800万デネイ(≒21億6000万円)が俺とノンデルとワロー軍団長、北の税関役人、南の商人、南の偉い御方の懐に入る。
配分については欲張り振りと、それぞれの背負う危険も考えないといけない。
一番ヤバいのは俺とノンデルだと思う。次がワロー軍団長と南の商人だろう。言い逃れがいくらでも効きそうなのは南の偉い御方と、北の税関役人である知り合いのあのヤローだろう。
次に費やす労力という点で言えば、一番大変なのはワロー軍団長と南の商人ということになると思う。
したがって、南の偉い御方と北の税関役人に支払った残りを俺たちで4等分することになるだろう。
ワロー軍団長とノンデルにはもちろん意見を求めたが、特に反対されなかった。
「おヌシやっぱり良いやつだな。もらう額はそれで問題ない。それよりな、おヌシらの知り合いというその税関役人だが、俺にも紹介してくれんか?」
俺は当然そうするつもりだったし、ノンデルはと言えば面白がっていた。
「シェカラシカ様、奴は食えない男ですぞい。腐れ役人の鏡みたいな性格ですから、信念ですとか帰属意識ですとか倫理観なんていうモノに期待は出来ません」
「それでもおヌシら仲は良いのだろう?ヒルマッカラよ。別に俺もそんな男に兵士の様な信条を期待したりはせんよ。ただ他国に対して何か伝手でも有れば、便利なこともあるかもしれん」
ノンデルの言う『腐れ役人』だが、結構付き合いの長い『心の友』だったりする。
俺たちみたいな『国境破り』の悪タレの間では、それなりに有名人でもあり『鋼のザル』という固いんだか抜けているんだかよく分からないアダ名で呼ばれている。
そういう人物であるから当然のように金回りも良く、最近出世もしてムリスジー領で税関の責任者をやっていた。真に気味の悪いタイミングであるとしか言いようが無い。
変人ともいうべき国境役人は名を『ダーレニー・ディモ・シオタイオ』という。
かの御仁は山間街道の件もあって忙しいと思っていたが、意外にもわざわざ会いに来てくれた。
俺の方から会いに行こうとは思っていたが、俺の執事みたいな事をしているネイデスが気を利かせて繋ぎをつけてくれたのだ。
外見だけは絵に描いた様な神経質そうな男だった。官吏が好んで着るような、ゆったりズロ~ンとしたローブ姿ではあったが、ほつれもシワも極端に少なかった。
険しいシワが眉間に寄っていて、細いが怜悧な印象のある顔はいかにも冷酷そうでもあった。
きっと相手の胃に穴を開けるのが三度のメシより好きに違いないと、会う人間全員が思うであろう人物だった。
「ユアセイラじゃないか! 久しいな! また旨い儲け話があると聞いてな。急いでやって来てやったぞ! しかしココ意外に良い温泉宿だな」
「やあ! ダーレニー。温泉宿は『偽装』だが気に入ってくれて嬉しいよ。実は見逃してほしい物があるんだよ」
ほの暗い水底から浮き上がってくるニヤニヤ笑いというのがあるのだとすれば、まさに目の前の御仁が浮かべているのがそうだろう。
俺は人の顔が、ここまで劇的に変化する例を他に知らない。怜悧な印象のある顔が、別の意味でヤバい表情になっていた。
「もらえるモノさえ貰えればな。どうせ酒か何かなんだろう? ヒルマッカラの奴がこっちに来たんだな? 私の懐のこの辺にでも、気持ち程度の心付けを入れてくれたらそれで構わんよ」
「400万でどうだい、ダーレニー?」
「ハハハハハ、こっちも丁度そのくらいの小遣いが欲しいと思っていたところなのだよ。でも、もうちょっと乗せてくれんか?」
「ウ~ン、高い酒を扱うんでこっちもカツカツなんだけど、450万でどうかな?」
「ハハハハハ、そう来たか! 仕方がない。それで今回は手を打つぞ。私が出来ることと言ったら何も見ませんでしたって言うことぐらいだからな」
俺はこの御仁のことを実際に頭がいい人なんだと思った。自分の立ち位置を把握した上で、きちんと貰う物は貰う。
『逃げ』も好き放題打てるンだから楽な稼業だと思われがちだが、瞬時にこういう計算が出来るから、この御方は捕まりそうで捕まらない。
ついでに余計な事かもしれないが、本音を言えるのが俺たちみたいな『落ちこぼれ』だけだってのは皮肉な話だとしみじみ思った。
『ダーレニー・ディモ・シオタイオ』が温泉テント村を堪能して帰ったその後、俺はある御方にお願いに上がるために、南側のアナダラーケン領に来ていた。
皆様ご存知のアナダラーケン侯爵妃にご挨拶を兼ねて、この一件に手を貸していただけないか頼み込んでみるつもりだった。
まだ続きそうですぅ……