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作業進捗状況6 酒と儲け話②

作者です。私は最初、主人公を『婚約者のヒモ』にしようとしていました。

結局のところ主人公から「冗談言うな」と言われたと思います。

 

 注)俺はこの報告書を読んでくださっている異神群の神々に対して、ことわりを入れておかないといけない。

 今回は複数枚の報告書を出すんだが、1枚目の中段からこの後の5枚目までについては【回想シーン】って奴であって、もう1ヶ月も前のことになる。





 ノンデル・ンカ・ヒルマッカラが北側からやって来て、俺に『酒の密輸』の話を持ちかけてきた。

 俺はといえば、再びこの男と一緒に仕事が出来ることを喜んでいたし、運び屋をしてくれそうな御仁にアテがあった。


 俺はノンデルを自分のテントに(まね)いて、早速(さっそく)打ち合わせに入った。

 もちろん食事と酒と温泉を振る舞ったあとでだよ。


「ここ本当に良いところだな、ユアセイラ。お前が実家と完全に(えん)を切りたがってたのは知ってたが、とうとう本格的になってきたな。クーデレお嬢さんの入婿(いりむこ)にでもなれば完璧だぞい」


「ノンデル、その件なんだけど今は難しい時期になってるんだ。メディーアとのことをどうやって断ろうか考え中なんだよ。あと温泉テント村は『偽装(ぎそう)』だ。それよりどんな酒を扱うんだ?」


「この山脈の北はムリスジー領だ。ムリスジー酒に決まってる。あれ向こうだと1900デネイ(≒38000円)なんだが南側のアナダラーケン領だと4000デネイ(≒80000円)もするんだぞ」


「相変わらずバカみたいに高いよな、あれ……」


「まあな。何しろ関税と輸送費も乗ってるから他所(よそ)の土地に行くと、値段がどんどんヤバいことになっちまう」


 俺はそこで敷設(ふせつ)工事中の山間街道のことを思い出した。アレが出来てしまったら、酒の値段はもうちょっと安くなるんじゃないだろうか。

 因みに軍人さんの給料が月に1万デネイ(≒20万)くらいで、これは6人家族が一月食える様な(がく)だから、結構いい値段の酒だ。

 

「そうすると俺は通過中の酒の保管場所の確保と、売上の差額の管理と分配をするのか」


「そうなるなユアセイラ。俺の方はムリスジー領で酒の買い付けと、出荷の段取りをつける」


「そうすると後は……運んでくれる御人(ごじん)が必要だ。それからこっちのアナダラーケン領に居て、これを黙認してくれる上層部の御方(おかた)()るな」


「両方ともアテがあるんだな? さすがはユアセイラだ! 何て言うか段取りと逃げるのだけは早えな」


 こういうことは早く始めて、早く終わらせるに限る。

 今回は偶然が重なって何とかなりそうな雰囲気はあった。だがどうやって話を持っていくかは慎重にやらないといけない。


「ノンデル、必要な人間はそれで全員じゃないんだ。ムリスジー領から出る時に、見逃してくれる国境の税関役人が必要だ。それから運んできた酒をアナダラーケン領で金に変えてくれる商人に渡りをつける必要がある」


「これはまた慎重だが、まあ当然だよな。税関役人と言えばアイツがいるだろ。出世したみたいだぞ」


「最低限の用心はしておきたいんだ。クーデレのこともあるし、皆のことだって考えると、今回の一件は灰色(グレー)にしておける手段を取った方が良い。役人は良いとして、問題は南側の商人のことだよな」





 その時、唐突に声が割り込んだ。

 ここは俺のテントの中で、入ってこれる人間は限られている。

 入って来たのはもちろんその限られた御人(おひと)だった。この温泉テント村(偽装)の最上位のお得意様ってやつだ。毎回2500人もお客様が来たら、格安温泉宿も潤うこと間違い無しだと思うね。


「おヌシという男は、もうそういった仕事から手を引いたと聞いていたがな。俺の聞き間違いだったか、宿場長(しゅくばちょう)? 面白そうな話だ……偶然だが言い訳が効きそうな運び人を俺も良く知っているのだよ」


 そこに居たのは南側の国家正規軍、第2軍団長の『ワロー・タナ・シェカラシカ』閣下その人だった。


「これはワロー様、どういったご用向きでございますか? おいバナンデス! 軍団長閣下がいらしたら、すぐに知らせろと言っておいただろ!」


「宿場長、申し訳ありません。お供の方々も少なくて、今日は次回の連泊の件で相談に来られたとのことで。お止めする暇もありませんでした」


 接客対応の責任者である『ココガー・アナ・バナンデス』を俺は思わず非難してしまった。

 本当のところ、気が回る上にこの手の稼業もそつなくこなすこの男を俺は買っている。

 下はズボンにサンダルだったが、上は七分丈のシャツにエプロンが良く似合っていた。

 何処(どこ)ででも上手くやっていけそうな奴が何で俺みたいな『落ちこぼれ』の下にいてくれるのかよく分からないんだ。


 (ちな)みにこの業務中は、俺のことを『宿場長』と呼ぶように徹底している。


「その男は責めないでおいてやれ、宿場長。俺も気に入っているんだ。おヌシと同じでな。それより俺も一枚()ませろ。どうせ俺に声をかけるつもりだったのだろう?」


 ぶっちゃけると、この御仁(ごじん)はユルユルに見えて、絶対にバカでは無いと思っていた。だが、違う意味で俺たち並にバカなのかもしれない。

 銀色に光る鱗鎧(ラメラアーマー)に鮮やかな赤のマントのまぶしい短髪の偉丈夫(いじょうふ)は、人間にしておくには(まこと)()しい勢いで言い放ってくだされた。

 さらにはノンデルと俺に正規の仕事まで振ってくれた。


「ヒルマッカラとか申したか。おヌシにも宿場長にも仕事を頼みたいのだよ。造成中の街道の件なのだ。アレも意外と長いからな。この温泉よりムリスジー側に行くと、毎日帰ってくるわけにもいかん。食料の手配を頼みたいのだよ」


 俺もノンデルも二つ返事で引き受けたね。

 俺たちが御用商人(ごようしょうにん)として関わるのは結構大事だったりする。

 万が一にも初回の密輸で、官憲に捕捉された場合に「献上品である」とシラを切るのに必要な仕込みだった。


「ところでノンデル。仕入れの件なんだが、これだけ高い酒だと仕入れ額が凄いことになるだろ。その辺どうなんだよ」


「今回のキモはそこよ。2回乗り切れば結構な(もう)けになると思うね」


「いくらで買い叩いたんだよ……どうせ偶々(たまたま)売れ残りが結構あった月だったんだろう? 作るのに年単位が()かるんだからさ。せいぜい2回運べば良いんだったら、そんなに儲けにならない気がするなぁ俺は」


「それがなユアセイラよ。売れ残りは8万本あるんだよ。1本辺り900デネイ(≒18000円)で買い叩いたのさ!」

つづきますん。

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