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作業進捗状況5 酒と儲け話①

会話が分かりにくい点を修正。抜けた文言も追加。


 今日もここ『スコッシホーレル山脈』の()()()()に近いダンジョン(予定地)では、朝から(なご)やかな食事風景が展開されていた。


 地下1階でも天井の明かりは充分あるし、換気と水捌けが完璧に良かったから、ジメジメした雰囲気は微塵(みじん)も無かった。


 食事中の俺の目の前には、白い色をした謎の金属で出来ている様な『超美人』が居て、音楽の様な美しい声を俺に振りかけていた。


 こんな心地よい声を浴びせられている俺という男は、きっと世界一幸せな奴に違いないと本当にそう思う。そう思い込みたい。


「聞いてくれていますか、ユアセイラ? (わたくし)は何もダンジョン造成の遅れについて不満があるわけでも、あなたが結婚というモノに対してグズグズとはっきりしない態度を取り続けていることについて不満があるわけでもありません」


「君にそう言わせてしまう(おのれ)不明(ふめい)を恥じているところだよクーデレ……その……」


「この間、ヒルマッカラが訪ねて来ましたね? それから第2軍団長の『ワロー・タナ・シェカラシカ』様もいらしていました。何故かお一人で。(わたくし)に黙って何かしようとなさっていませんか?」


「うん、クーデレその……。ヒルマッカラは偶々(たまたま)近くを通っただけだし、シェカラシカ軍団長は次回の軍事訓練中の宿泊について相談に来ただけだよ、本当に」


「『ノンデル・ンカ・ヒルマッカラ』はあなたの犯罪組織の幹部ではないのですか? そしてシェカラシカ様とはずいぶんと仲がよろしいご様子です。こういう時は(モノ)かお金のどちらかが、不正に国境を越えていると私の(カン)がつげています」


「犯罪組織だなんてそりゃ酷い言いぐさだろう? ノンデルは『心の友』って奴だよ! 彼らとの間に上下関係はないよ。『アンマリー』だって『トーリ』だってみんな同じ苦労を分かち合った仲間だ! 君だって皆のことを知ってるだろう?」


「『アンマリー・シラン・ノデスガ』も『トーリ・アエーズ・モッテルン』も要注意人物として法執行機関では有名ですよ。もちろんあなたもです! もちろん()()知っていますとも!」


「確かにここは国境地帯だよ。東西にのびる山脈をはさんで、北と南は別の人間の国だ。でも侯爵妃も軍団長も南側の人間だよ」


「そうですわね。ですがヒルマッカラは()()()来ました。どうしてかは知りませんけど」


「酷い誤解(ごかい)だと思うよ。第一まだ誰も捕まって無いだろう? それは昔はアホなこともやってたよ。でも足を洗って、こうして真面目にガンバってる姿を君も見てくれているじゃないか。それに法務官のメディーアが、俺を捕まえに来ないのが何よりの証拠だと思うよ」


「ヒルマッカラは『酒の密輸』で、ノデスガは『禁制品の売買』で、モッテルンは『薬品の横流し』でそれぞれ嫌疑がかけられています。そしてあなたのことはメディーアが『ダニの王』だと言っていました。全てに渡りをつけて抜け道を探していると」


 俺は一瞬だけ、ほんの一瞬だけ視界が暗くなったが即座に回復した。俺のような奴でも100年も経てば、シラを切り通せる『(おとこ)』になろうというものよ!


「それ今初めて聞いたよ、クーデレ。妹だけじゃ無くて、もう一人の婚約者からまでそう言われてるとか……」


「今初めてお伝えしました。(わたくし)としても後ろめたさがあります。彼女とは良い友人でもありますから。ですから抜け駆けのような真似をこれ以上したくないのです」


「メディーアを呼ばないのは俺の所為(せい)なんだ。実家の影響力の影がちらつく女性(ひと)に、今は近くに()られるのは俺が()たたまれない」





 会話の流れ的には、完全に誤魔化(ごまか)しきれたと思った。

 実のところはノンデルやワロー軍団長と組んで、俺たちは『酒の密輸』を行っていた。


 そもそものきっかけは、山脈を縦断する街道の敷設(ふせつ)工事を南側の人間国家が主導で行っていることだった。 

 

 本当にウッカリしていたとしか言いようが無い。街道の敷設(ふせつ)工事の作業員は、暇してる軍人の皆さんだった。正規軍の1個軍団(定数2500名)が代わるがわる担当するかと思いきや、人員の移動に金がかかるとかで第2軍団がほぼ行うことになった。


 軍団長の『ワロー・タナ・シェカラシカ』閣下は大いに不満だっただろうと思う。

 ただし、かの御仁(ごじん)は話の分かるお人でもあった。人間族にしておくのがホント惜しいと思ったものだ。

 

 温泉に軍団が泊まりにくる度に、俺は大いにワロー軍団長を歓待したし、実際ワロー軍団長はかなり楽しんでいた。

 旅芸人の技に感嘆し、遍歴詩人に自慢話を歌にしてもらい、俺の失敗談に腹を抱えて笑っていた。

 何て言うかもう、この御方も『心の友』って感じだった。


 若干不満があるとすれば、俺が軍団の皆さんから『温泉施設長』または『宿場長(しゅくばちょう)』と呼ばれて割とフレンドリーな関係だったのに対して、クーデレの方はと言えば、治癒の術も破壊の術も優れていた上に雰囲気がアレなものだから『奥方様(おくがたさま)』と呼ばれて全員から尊敬され、頭まで下げられていたことぐらいだった。


 そんな時に(とど)めのようにノンデルが(もう)け話をもって訪ねて来た。北側からな。





 久しぶりだったし、寿命の短い人間族のノンデル・ンカ・ヒルマッカラが元気そうだったのがやたら嬉しかった。

 すっかり老年に手がかかっていたが『私は悪党です』と顔に書いてあるにも関わらず、凄みのある愛想笑いがしっかり板についていて、俺はさらに感激してしまった。


 登山靴に厚手のズボンとシャツを来て、さらにベストを重ねて上から防寒ローブを着るという完全装備だった。

 防寒帽のしたにある愛すべきヒゲ面に俺は話しかけた。


「ノンデルじゃないか! まだ生きててくれたのか! ハッハッハー こんな所まで来てスゲー暇人だな! 今何してるのか聞かせてくれよ。何かご馳走するから」


「相変わらず若作りな顔しやがって。ユアセイラ、いい話を持ってきたんだ。お前さんに()んでもらえば上手く稼げそうなヤツだ」


「そういう話なんだな。こっちも金があると助かるんだよ。実はダンジョン掘ってたら温泉が出ちまってな」


「相変わらず儲かってるのにワガママな奴だな。こだわりなんか捨てろってアレ程言っただろ」


「お前が酒以外扱わないのと同じだと思うね。それで何で密輸ばっかりやってるんだい?」


「人聞きの悪いことを言うなよ。ちゃんと正規のルート()()さばいてるよ!」


 そんな訳で俺はノンデルからまたも『酒の密輸』にからむように誘われた。

 当然乗ったよ。何しろ運んでくれそうな御人にアテがあったからな。





 

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