作業進捗状況47 湯けむり女皇陛下⑨
ダンジョンメンバー紹介
●ムーリニトゥシ・タナ・ハイカーン
ダンジョン内で上下水道や温泉の引き込み、湯気の排気やトイレの面倒を見ている匠。
どういった理由で主人公に付いていっているのか不明な仕事の出来る男その3。
耐腐食性の高い金属管を多用していると思われているが、穴や側溝の方が実は多い。
世界が豊かになればこういう男の活躍の場は広がるのだろうが、今のところ出番は少ない。
ワーキミッチ伯爵より山間街道の分岐路敷設工事についての返答がもたらされた。
残念なことにウェカーラナーナイ王国側の調整がつかず、今年の冬の工事は延期になった。
それは仕方の無いこととしてクーデレは納得した。
そして俺は報せを届けてくれたカッツィーダラーナ殿に伝えなければならないことがあった。
「カッツィーダラーナ殿、実は今こちらに祖国の陛下がいらしております。陛下が是非カッツィーダラーナ殿にお会いしたいと仰られておりまして」
「なんと!? 女皇陛下がお越しなのですか?」
「冗談では無くそうなのです。今から陛下のテントまで、ご足労いただけませんか?」
「そういうことであればお伺いいたします」
流石に肝の座った御人は違った。
うちの陛下は人間族の間では、失礼を承知で言えば俺たち以上に『化け物』に近いのではないだろうか。
王朝がいくつか滅んでもおかしくない年数を玉座の上で過ごされているのだから。
「会いたい」と言われて「行きます」とこうも堂々と出て来るのは、戦場で鍛え上げたこの御仁ならではだろう。
因みに寿命が長いと言ったらエルフはどうなのだという意見もあろうが、元々の種族の寿命を無視している点であの御方は別格だった。
陛下のテントまでカッツィーダラーナ殿を案内し、俺たちは中に入った。
陛下はと言えば「普段の貴女はどこへ?」というような勢いで豪奢な黒いローブを纏い、頭には金の冠をかぶって椅子にスラリと座っておられた。
さらに見えない何かが体から出ているのも感じたが、今はとにかく無視した。
跪いたカッツィーダラーナ殿が挨拶を述べた。
「オヤージ・ミコシヤンケ・カッツィーダラーナと申します。お召しにより参上いたしました」
「ハーネラレティ・テーンスウェイザ・マァスロライフです。カッツィーダラーナ殿、お呼び止めして申し訳ないのだけれど、貴方に届けてほしいものがあります」
陛下は煩雑な言い回しを避けて、簡潔に伝えることにしたようだ。
いつも謁見中はこうなのかもしれない。
私生活の場所での話し方とはまるで違うのだが。
「それからカッツィーダラーナ殿。私は面倒な儀礼は求めません。好きにお話いただいても結構ですよ」
「ありがとうございます。私めに出来ることなら何なりとお申し付けください」
「あなたの主殿に書状を届けてほしいの。ウェカーラナーナイ王に対するご挨拶もありますから、必ず届けてください」
「必ずや主に届けます」
「外は寒いし、送らせましょう。クーデレはワーキミッチに行ったのでしたね?」
ソコソコの奴と特殊階級の違いは『転移』などの段違いに強力な術が使えることだ。
ただし『転移』で移動出来るのは行ったことのある場所に限られた。
陛下はクーデレにカッツィーダラーナ殿を送らせるつもりらしい。
「すでに日も落ちて暗い。今日はここに泊まっていかれよ。ダンマス、こちらの方を歓待してもらえまいか? クーデレも手伝ってもらえまいか?」
「「よろこんで、そういたします」」
俺とクーデレの返答は見事に重なってしまった。
お互いに顔を見合わせたが、ここでは笑えない。
「本当に仲のよろしいこと。では私からの話は以上です」
俺たちは陛下の天幕から退出すると、204番テントまでカッツィーダラーナ殿を送った。
途中でちょっと驚かれるようなことがあった。
「あれは! ダミノルではないか!? ヨケイジャロウェイ様、どうなっておるのです?」
「ああ、いや、その、とにかく剣を収めていただきたい。あれには込み入った事情があるのです」
カッツィーダラーナ殿の目の前にいるのは、仲良く麦酒を飲んでいる湯ダ課長とダディ義父上だった。
俺は湯ダ課長が言葉を理解しているのではないかと疑っていた。
しかし一方では、ワロー軍団長やダディ義父上のように会話を強引に進めてしまうという種類の方々もいるため、まだ疑いの段階にとどまっていた。
湯ダ課長は前肢が器用になり、バケツみたいな専用ジョッキを持てるようになっていた。
ついでに鱗は赤飴色になり、ヒダが立派に伸びてタテガミのようになっていた。
全長は少し縮んで10アーム(≒10m)ほどになったが、口から吐き出すブレス攻撃が3種類に増えた。もちろん嫌味以外でダ!
ダディ義父上はバスローブ姿で別々の銘柄の麦酒を交互にカウンターで頼んでいた。
こういったバーカウンターは地下1階にも2階にももうけてあった。
種類は多く一杯5デネイ(≒100円)から飲める。
「信じられないかもしれませんが、あの時にご忠告いただいた谷ダミノルを倒したのです。それが付いてきてしまいまして。今では湯ダミノルになり、ご覧の通りの有り様なのです」
「何というか信じられん光景ですな……。私はアレを殺してしまうしか無いのではないかと思うておりました」
今になってみると殺しておいた方が良かったのではないかと思うこともある。
しかし意外と役に立つトカゲだったし、問題も起きないので「良いかな」という気になっていたのも事実だった。
因みに義父はと言えば幸せそうにカウンターの近くで麦酒をやりつつ、種族を超えた交流をオオトカゲとしていた。
湯ダ課長はそろそろ止めないと、また酒量がヤバそうだった。
「課長! お主なかなか話のわかるトカゲだ。俺と一緒に皇城で働かないか? 飲み放題に何とかしてみせる!」
「ゴルルゥ 何か別の事をして暮らしたいのに答えが出ないのですよ 私が田舎にいるのは ここでそれが見つかるかもしれないと そんな希望を持っているからなのです ゴエァアァァァ」
一応ではあるが、筋の通った会話に聞こえた。
ただし義父は実現しそうに無い条件で課長を勧誘していたし、湯ダ課長は野生を捨てて間もないというのに、すでに第一線から退いて老後を考えているような始末だった。
カッツィーダラーナ殿の顔はすごく微妙な表情だったし、俺は片方が自身の舅になる予定の御方だったから申し訳なく思った。
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