作業進捗状況4 漂着物の部屋
プロローグから3話まで「これは表現がおかしいだろう」という部分を修正しました。
俺たちは充分に期待していたと思う。
俺の部下はネイデスやオッサンダロを含めて100名位いたものだから、どよめきが小波の様に地下2階(ほぼ温泉)に流れた。
『ミョーニセパラディ・ボーダ1200ヘーベ』は力を貸してくれると言ったが、一体どんな恩恵を施してくれるのか。
『神』の上部から湧き出して、どこかに消えている『文字の書かれた四角いボード状の何か』の流れが止まった。
そして神の体を構成している多くの多面体は、いきなり倍近い範囲に拡がった。
その球状の中心部から強烈な光が放射され、わずかの間に唐突におさまった。
「ここまでだ。後は自分達で努力するように」
それだけ言うと『神』は徐々に薄くなり消えた。あっという間だった。
俺たちはといえば、しばらく固まっていたと思う。そのあと我に返って、周囲に何か変化が無いかどうか調べた。
その変化はすぐに見つかった。
地下2階は『温泉施設』になっていて、足湯や掛け湯や男女別の大浴場から、個人で入れるちょっと広めの温泉(内1つはクーデレ専用)まであった。
熱さもホドホドで体は暖まるし、利用者の話ではお肌がキレイになり、皮膚の病にも効果がありそうだとのことだった。匂いもほとんど無いが、そんなこと今はどうでもいい話だろう。
そんな地下2階の一角に新しい部屋が出来ていた。30アーム(≒30m)✕40アームくらいのその部屋の中は半分より奥側が『砂浜』になっていた。砂浜の向こうはボヤけて見えなかった。
この部屋が一体何なのか気がついたのは部下の一人だった。
「ダンマス、これは『漂着物の堆積所』と同じですよ。この部屋はアソコと繋がってるんですよ、きっと」
「モンマニアはそう見るか。そうなるとゴミも増えるな。助かると言えるか微妙なところだ」
得難い部下の一人である『ヨーク・ワッカラン・モンマニア』の予想はおそらくだが当たりだろう。
小柄で強面だが、未知の物に対する興味を失わないこの男を俺は買っている。
微妙な恩恵はもう一つあった。
こっちは現場監督の『ヨクミーロ・オッサンダロ』が発見した。
新しい部屋の入り口から50アーム(≒50m)程離れた場所の壁に『下向き矢印⇩』が書いてあった。
「ダンマス見てください。ここから下へ掘れってことなんじゃないんですかい?」
「多分な。オッサンダロ、ここ掘り下げてみてくれないか。何人使っても良い。俺はモンマニアと部屋について調べる」
「わかりやした。オイ!お客さんとお嬢の担当以外は穴堀りだ!」
「「「ヘイ!」」」
皆には地下3階への足掛かりを確保してもらおう。俺はモンマニアとまた部屋へ戻った。
俺は改めて室内を見回した。
部屋の天井の高さはダンジョンと同じで5アーム(≒5m)ぐらいはある。
「こいつが2ptの恩恵の効果ってやつか……」
「多少楽になるかと言えば、その通りではないかと思いますが……」
この地に異世界から物品が流れ着くのは以前言ったと思う。
その場所はと言えば、ダンジョン(予定地)から2ザトー(≒2㎞)程さらに山奥にあった。
「そりゃあな。遠いと言えば遠いんだが…… そもそも大した物が転がってる訳じゃないからなぁ」
「あれで儲けようって輩は確かにいませんが。たまには良い物が落ちてますからね」
「そりゃあな。リアカーは買うより、ここに流れ着く物の方が品質が良い。大体あの軸受けの工作精度が変態的過ぎる」
「ツルハシもスコップも、金属製品で当たりが拾えると地味に嬉しいですからね」
単純な作業道具や日用品レベルの物については本当に助かっていた。
金が多少あると言っても無限に持ってる訳じゃ無いしな。節約出来るところは節約しないといけない。
ダンジョンを掘っている側からすると、相手は岩盤だから道具の消耗が激しい。
俺たちの腕力がいくら高くても、ツルハシみたいな道具はありがたかった。
因みに『軸受け』なんかの技術はとっくに馬車に転用されているし、あれは他に『緩衝器』の技術も導入済で、金持ち相手の商売に使えるわけでは無い。
「ダンマスあそこを見てください。何か流れて来ます」
「お、使える物だと嬉しいな。ゴミだったら投げ返しておこうか」
部屋内の砂浜と部屋の奥の境界はモヤっとしていた。ちょうど波打ち際みたいなモンだな。そこから小さめの品物が、いくつもコロコロと砂浜に打ち上げられた。
それは何というか入れ物だった。半透明で、手で持つには丁度良い大きさの桶みたいな物がたくさん流れて来た。
それと微妙にザラっとした手触りの布も、たくさん流れて来ているようだった。
「モンマニア。これ何だか分かるか?」
「こっちの桶は風呂で体を洗うときに使う物ですな。やったプラスチック製品だぞ! こっちの布も体の汚れを落とす道具だと思います」
「両方とも風呂用品かよ……こんなにまとまって流れて来るって普通ないよな」
「こいつらは温泉の利用客に出すには好都合ですよ」
言われなくても分かっていた。
ただ何となく違和感があった。あまりにもまとまって『温泉関連商品』が流れて来すぎる。
「あの異神め! 漂着物の設定をイジリやがったな! 手を貸してくれッつったのは温泉の方じゃねぇ」
「まだ他にも何か来ましたね」
大きさが10ダウメン(≒10㎝)くらいの紙に包まれた何かが、これまた大量に流れて来ていた。
「一応聞いておきたい。これ何だと思うモンマニア?」
「良い香りがしますね。多分『石鹸』だと思います。お嬢が喜びそうですな」
「石鹸かよ! 喜ばれそうだし、売れそうだな! ついでに本格的に『温泉テント村』になっちまいそうだよな!」
俺がなりたいのは『ダンマス』であって『オーナー』とか『支配人』では断じてなかった。
しかし部下たち以外は、俺のことを『ダンマス』と呼んではくれない事にもとっくに気がついていた。
俺は麓の連中から見れば『旦那』だったし、正規軍の皆さんにとっては『温泉施設長』だし、クーデレや心の友にとっては『ユアセイラ』で、妹から見れば『クズのゴロツキ』だった。
「こんな恩恵があってたまるか! 断然抗議するぞ! 酷いだろこんなの……」
俺は作業進捗状況の報告書と一緒に、恨みごとを書いたモノを『迷宮造成システム』に食わせた。
もちろん答えは返ってきた。
【 ナガレダ モットカイテヨコセバ ケントウシヨウ ニワカヨ 】