作業進捗状況35 ワーキミッチへ行かないか⑥
作者です。
読み専の頃は、なぜ一話一話が短いのか理解できませんでした。
書く側に立って初めて理解出来ることがあります。
激流に身を置くなら、竿≪さお≫はまめにさして進みたいものです。
ですので一話辺りの文字数をもっと少なくすることにしました。
俺とクーデレはようやくワーキミッチ伯爵妃である『ヤーメイヤ・ユーティルンジャ・スッゾコーラ』様に会うことが出来た。
あとは伯爵にお目通り願うだけだ。
山間街道の敷設に関してはワーキミッチ領に損は無かったが、いずれは街道維持の為に補修が必要になることがあり、その負担は通行税や関税から出してもらう必要があった。
交渉が決裂した場合、今回はこちら側への分岐路は俺たちの手で造られないことになる。
「やあ、遠いところをようこそお出でくだされた。『魔族』の方々とは珍しいが『人間族』の領へ正式な外交官を寄越していただけるとは。ご配慮に痛み入る」
丁度会いたいと思っていた御仁が向こうから来てくれた。
どちらかと言えば痩せた印象だった。
ただし体つきは引き締まって、弱々しい印象は無かった。身長は俺と同じぐらいで187ダウメン(≒187㎝)はありそうだった。
さわやかなイケメンだったが、それなりの苦労もにじんでおり、茶色いやや短めの髪の下には領主の顔があった。
これまた思いっきりラフなシャツとパンツ姿のこの御仁こそワーキミッチ伯爵『ゴルァナン・ティッタンダラー・スッゾコーラ』様その人だった。
意外にも口より先に手が出そうな雰囲気のこの御方は平和主義者というわけでも無く、理不尽な要求には公然と反旗を翻し、自ら軍を率いることさえあると聞いている。
もちろん俺の様な『落ちこぼれ』では無い。
かの伯爵は家を継ぐまでの短い期間、冒険者として各地を放浪し見聞を広めていた。
俺たちは応接室に通された。中々良いお茶が出されたんだが、味わって飲んでたのは俺だけだったかもしれない。
正直なところ、ムリスジーにだけでも山間街道を通しておけば良いのではないかと俺は考えていた。
鍔広帽を脱いで胸の前に持っていた俺は、それをもてあそびつつ目の前の会話に聞き入った。
「クーデレ・ジャネイツッテンダロワ・ヒッデーナと申します。本日は敷設工事中の『山間街道』の件でお話があり、お伺いいたしました」
「そちらに居るダンマスから先に手紙をいただきましてね。その件については概要は聞いております。工事をお手伝いくださるとか。我が国の特殊階級の間では静観の構えのようだが、そちらの要求は?」
「外交関係の樹立です。平和的に。伯爵に仲介をお頼みしたいのです」
「ほぉ、仲介をですか? 貴国から見ればここは遠隔地だ。何故経済的な援助を行ってでも、国交を結ばれることを望む?」
「いつでも出来るだけ多くの他国の同意を得られることは重要です。違いますか?」
「カーンティシューノゥツーハン皇国は強大だ。我が国を味方にしなくとも、周辺の国家で楯突こうという所は無いのではないですか?」
「それでも戦争などは避けたいのです。豊かであるのなら……余裕があれば無駄な野心も減るでしょう。追い詰められて国外に手を伸ばすことも無くなります。我が国は周辺国家とそのように付き合って来ました」
「もっと外側にまで安全を求められると、そういう訳ですか。正直、我が領にも旨味のある話なのです。少し考える時間をいただきたい。本格的な冬の前にお答えいたします」
「わかりました。色好い返事を期待しております」
一応、門前払いを食らわされることも無く、伯爵との会談は『返事待ち』ということになったようだ。
ワーキミッチ領はムリスジー領の西側になる。さらに西にもう一つ領が在って、その西側は海だ。
船便の集中するところだから、そこは潤ってる。ただし南下してニーバンメクライ王国の内陸側に行く近道が無かった。
ムリスジー領より北側や東側はイワントイティ駅から今後は南へ抜けて行くだろう。
ムリスジー領より西側から、またはもっと西の海側からは間道が出来れば、ワーキミッチ領から直接南へ抜けられた方が便利には違いない。
ムリスジー領からの道とワーキミッチ領からの道は、国境である山脈の真ん中辺りで合流してからアナダラーケン領へ繋がるわけだ。
真ん中辺りというのは、俺たちの『ダンジョン』が在って大量のお客様を見込めそうだった。
最初は旨い話も無いと思ったが、これは案外良い方向へ転がる可能性が高くなってきた。
ただし俺としては、これ以上あそこが温泉宿として繁盛してしまうのは実は避けたかった。




