作業進捗状況33 ワーキミッチへ行かないか④
6月10日にはハイファンタジーに移動する予定です。
わずかだったブクマも減りましたし、恋愛ジャンルというには苦しい作品なのだろうと思います。
俺たちは街道の近くに居座った『山ダミノル』を何とか倒した。
面倒な上に殺りづらい生き物だった。
皆を呼んできてこいつを解体した。
割と大きい野生生物だが、何か金になる部分は無いだろうか?
「ダンマス、手投げ棒杭が頭の後ろから少し飛び出していましたぜ。すげえ貫通力だ」
「本当か!? 中々良い威力だな。本当は『凄い加速』も欲しいんだけどナローの神々もポイントくれないかな」
「ユアセイラ、あまり異神群に頼るのは良くないのではないでしょうか? あの神々の評価基準は私たちの常識とは異なります。住む世界が違うとはそうしたことではないでしょうか?」
「クーデレ、そりゃそうかもしれないよ。でも神々は俺たちにとって大変なことでも無視出来るし、逆に俺たちにとって簡単なことに興味を示される。『冷徹に見ておられる』だけだ。ならば俺たちに以外には影響が無いんじゃないかな」
「あの『ダンジョン』の中だけで済めば良いのですが……。私も温泉テント村がもっと大きく、便利になるのは良いのです。でも異神群に別の目的があったらどうされるのです?」
「その時には乗ってみるさ。ヤバそうだったら逃げるよ。俺は温泉宿はもう充分という気がしているけれども……」
俺は努めて明るい声で答えた。
俺は祖父のことをチラッと考えてしまった。
俺から話を聞いたあの御方は、自分の著作を『迷宮造成システム』に食わせようとお考えらしいのだ。
そうなったらどういう結果になるか予測がつかなかった。
俺は祖母とも連絡を取り、用心することにした。
祖母は同族から『地獄の送り狼』と呼ばれた。
どんな攻撃を受けても死なず、止まらなかった。特殊階級の御方だった。
魔族ハンターであった『ソレィユーナ・ナンモユーナ・ヨケイジャロウェイ』様を俺は信用していた。
陛下から「ヨノゴートを頼んだ。出来るだけあの男をまともにしてくれ」と言われたのは祖母だけだった。
ウェカーラナーナイ王国 ムリスジー領 イワントイティ駅に俺たちが到着した時、中々に酷いシーンが展開中だった。
「そんな、何すんだよ! 俺は悪いことはしてねぇ! さっさと通してくれ!」
「月並みな意見だが、悪いことをしている奴は大抵そう言うな。君はあれか? 最近田舎から出てきたのかね?」
「うるせえな! それがどうした? 変な疑いをかけやがって。役所に訴えてやる!」
「んー、ンフフフフ…… そこか、そこだな。君な、わめきながらヨッコラに積んである木箱をチラチラ見るのはやめた方が良いぞ。その箱を検めろ」
俺たちの目の前では『腐れ役人の鏡』『鋼のザル』とあだ名されるダーレニー・ディモ・シオタイオ殿が、実に真面目に仕事をしていた。
この男は何でも見逃す訳では無い。『しきたり』を守らない奴には容赦なく、誰にでも塩対応だった。
「徴税官殿、見つけました。ナーメラレ草です。4箱ありました」
ダーレニーはやっぱりダーレニーだった。
沼から顔を出して、ようやくまともな空気を吸えたトカゲみたいな笑顔だった。
「ほー、これはずいぶん多いな。例え南側に病気の母親が居ても、これは多すぎるだろう?」
「これは、お袋が……ああ、イヤ、俺が積んだんじゃねえよ……」
「なぁ君。自分が積んだんじゃ無くても、それは言わなくて良いんだ。君は多分、私が君のことを気にしていると思っているな?」
「そうじゃねえのかよ……」
「何をやったって減るのは一人なんだよ。残念なことにね。君がこれから鉱山に送られてココから消えるだろ? その後で色々あってこの世から消えるだろ? もちろん鉱山から出て来ることは無いんだ。途中経過というのは省かれたりするんだよーンフフン。たまにね」
顔の上半分は無表情で下半分が笑顔だった。
コイツへの興味は欠片も失せて、お茶受けをどうしようか考えているみたいだった。
「あ、あの旦那。これ少ないんだけど……」
「誰か、この男を連れていってくれ。書類は後で私が『作って』出しておく」
官吏たちは何も言わなかった。
罪を犯した男は青い顔で連れていかれた。誰かの下にでも付いていれば違ったかも知れなかった。まともに働いていれば違った。
または『今のアレ』の2桁上の金額を最初に出していれば完璧だった。
「ダーレニー駅長。ご無沙汰しております。ヨケイジャロウェイでございます」
「おお、ダンマスではないかな。息災だったか。見たかね今の。最近の奴らは礼儀を守らなくなった。もう我々は口うるさい古株なんだよ。私が出来るのは教え諭すことだけだ。生まれ変わった時に同じ目に遭わないようにね」
この御仁の顔つきは相変わらずだった。
海で死んだと思った友人が海底の宝箱を引きずって帰ってきたのを見た時みたいな顔だった。もちろん目は宝箱しか見ていなかった。
顔は痛ましいという形だけが表現されていた。
「ところで、これは田舎料理ですが酒に良く合います。お口に合えば良いのですが」
俺はオースギールの燻製の入った箱を手渡しながら言った。
「何というかいつも済まんな。これでも薄給でね。友人からの送り物ならもらえるだけでありがたいのだよ」
ダーレニーは正確に2回、箱の重さを手で量ると涙ぐんで言った。
もちろんミッチリと底に金貨が敷いてあった。
クーデレは俺の方を呆れた目で見ていたが、ダーレニーに挨拶することにしたようだ。
「ダーレニー殿、ごきげんよう。精が出るのですね、お仕事に」
「おお、これは奥方様。ようこそお出でくださいました。通行証は急いで発行いたしますので、少々お待ちいただけますかな?」
「それはユックリでも構いません。山ダミノルの件はどうなりましたか?」
「それでしたらご心配無く。知り合いの買い取り業者を手配いたしました。滅多に狩れない生き物ですが、何とかできますでしょう」
ワーキミッチ領への通行証は、クーデレが2口目のお茶を口に含む前に出て来た。
普通は最短で2ザイト(≒2時間)かかる。
「ユアセイラ、私はここに来てから自分が変わったように思います。ダーレニーはあなたのお母様の『互助会』の一員なのでしょう? あの御方は外交部の依頼で国外の工作に手を貸してくださることがあると、この仕事に就いてから初めて知りました」
クーデレが何も言わなかったのを不思議に思ったが、なるほどバレていたようだ。
もっともそのうちバレるとは思っていた。
陛下にとっては忠実な家臣であるソレイエネイ伯爵は『そういう種類のヨケイジャロウェイ』だった。
「クーデレ…… 母はね、特殊階級であってもオンドゥルルラ様やメディーアの母上や、祖母に比べたらやはり劣る。あの御方があんな事をしているのは、それが原因なんだと思う。俺も母も見逃されているだけなのかもしれない」




