作業進捗状況18 義母来たる:温泉編
今、電車で移動しながらこれを上げています。
もう何をしているのかよく分からなくなってきました。
クーデレの実家から義母が、この温泉テント村『ダンジョン』を訪ねて来た。
俺たち『元悪ガキ』にとっては有名過ぎるくらいに有名だったし、また恐れられてもいたが一応俺のお姑様になる予定の御方でもあって、歓待にはクーデレや部下たち全員が一丸となって協力してくれた。
その御方は名を『オンドゥルルラ・ギッタンディスカーナ・ヒッデーナ』様という……。
「ネイデス。一時はどうなることかと思ったが意外と何とかなりそうだな」
「はい、ダンマス。ああいった御方ではいらっしゃいますが、流石は侯爵妃であらせられるだけの事はございます。いきなり全員がどうこうなる訳では無いとは思いますな」
「そうは言ってもな、昔のこともあるだろう? 俺たちは現状こんな感じだが、祖国からどう見られているかはハッキリ分かってないしな」
「クーデレ様からは何か教えていただけましたでしょうか?」
「『密輸の件』についてはおそらくだがバレて無い。国外在住の魔族を利用して、外交部が実績をあげたいだけだと思う。ここだけで起きていることでは無いそうだ」
「左様でございますか。少し安心いたしました。皆にも伝えておきます」
「そうしてくれ。それと義母上が温泉からお戻りになられる前にお食事の用意を済ませておいて欲しい」
「それに付きましては、ミーズニーに腕を振るうように既に申し付けてあります」
俺は感激してしまった。
流石にネイデスはそつが無い。普段から鍛えられた部下たちの『おもてなしパワー』が炸裂しているじゃあないか!
『ヨクミーロ・オッサンダロ』や『ヨーク・ワッカラン・モンマニア』をはじめとする部下たちも、今日は裏方として温泉テント村の仕事に精を出してくれていた。
そして『イドホッタ・ガミズ・ガーデネイ』は今も俺の隣に居てくれている。いつからかは俺も知らないんだがな……。
因みに料理担当の『ミーソニー・ツクダーニ・ミーズニー』は料理全般が得意だった。
調味料をふんだんに使った濃い味付けから、素材を生かした淡い味付けにまで精通するこの男を俺は買っている。
今現在クーデレと義母上は、温泉についてバナンデスから説明を受けながら地下2階フロアを視察中であった。
俺はと言えば慌てて後から追い付いて、この一行に加わった。『半透明の手桶』と『優しい石鹸』と『垢スリ布』をオンドゥルルラ義母上に持ってきたのだ。
こういう接客をやらせると『ココガー・アナ・バナンデス』という男は途端に胆が据わる。
自らの教訓による知恵を司る『アナ神』の信仰者としてでは無いと思うが、元々接客に向いていたのか俺の下でこんなことばっかりやって来た所為なのか、中々上手い説明だと思った。
「こちらは足湯でございます。浅い堀の様になっておりますが、この木の長椅子に掛けて足だけ浸けていただく訳でございます。ご年配のお客様には特に人気があります。休憩するにはちょうどいい場所ですから」
「ボァ イドイドド グフウザレディ ヌノディスン」
(まぁ、いろいろと工夫されているのですね)
「温泉も体を洗い疲れを取るのは良いのですが、やはり脱いで入らなければならない面倒がありますから。それに足の皮膚の病にやはり効果があるようでございます」
「ソウイェバ ヒフノヤバイヤ ビハダゴーガァル ュダトィーディバシダネ」
(そういえば皮膚の病や美肌効果がある湯だと言っていましたね)
ごく普通の穏やかな受け答えのはずだが、どこか地獄めいているのはよく知る御方に対する贔屓目という訳でも無いだろう。
他の利用客がことさらに少ない日なのが幸いした。大口客がしばらく来ないのは確認すみだ。
「こちらが当温泉村で利用されるお客様の最も多い大浴場でございます。この浴槽だけで25アーム✕10アーム(≒10m)あります。男女別で2槽づつの計4槽ありますが、現在は男性用3槽と女性用1槽で分けております」
俺的には『当温泉村』ではなく『当ダンジョン』と言って欲しかった。
普通のダンジョンは罠と守護者が冒険者の命を奪う。
俺の『ダンジョン』は温泉と宿泊施設が冒険者から金を奪い、奴らはお肌ツルツルの健康になって帰って行くという違いしか無かった。
将来的には罠と守護者は置いた方が良いとは思う。
実はここの事を『普通のダンジョン』だと思って来た冒険者がいたのだが、奴らは言われるがままに金を払い、温泉と料理を堪能して帰っていった。
そして近くまで来ると必ず泊まっていく様になった……。
「ムゴドド ボードスディ ドゥスタノディスカ?」
(婿殿、ボーッとしてどうしたのですか?)
「ヴェ!? いえ失礼いたしました。義母上は退屈されてはおられませんか? 私どもはここを運営しておりますから愛着もあります。しかし田舎の悲しさか、自然の良さと言えば聞こえは良いですがここは山でしかないのでしょう」
「ムゴドド アダダワ ダディオィティルンディスカ ムカノクドウォ ヒティスルノディスカ?」
(婿殿、貴方は何を言っているのですか。部下の苦労を否定するのですか?)
「決してそのようなことは致しません。全ては私の至らなさによるものでございます」
「シコスワズスィンウォ モジナザィ ゴゴバョイドゴドディス」
(少しは自信をお持ちなさい。ここは良いところです)
「お母様、そろそろ温泉を堪能しに参りませんか?」
クーデレが途中で助けてくれた。
義母はウンウン頷いてから、おもむろにクーデレと温泉へ向かっていった。
「すまないな、バナンデス。仕事の邪魔をした」
「ダンマス、お気になさらずに。皆あの御方が何をお考えなのか分からなくて不安なんです。私の話も楽しんでおられたのか自信はありません」
「義父も来てくれていたら少しは違ったろうな。侯爵閣下は『悪食』などと言われてるが偉大な漢だ」
「その辺りの話を聞かなかったことにされているのは流石だと思います」
「実のところ大っぴらに言えてた奴らは全員が墓の下だ。寿命でくたばったンじゃないぞ」
「それはそれで流石だと思いますよ。それよりダンマス、あのお姑様に何をお願いするつもりなんです?」
「……それな。実はなメディーアとの婚約破棄を正式に実家に出そうと思うんだ。後ろ楯になってもらおうと思ってる」
俺は割と危険なことをしようとはしていた。
ママ友の間の取り決めというのは、好意的な仲間意識によって交わされるものだし、オンドゥルルラ義母上は当然それに噛んでいるだろう。
あの婚約話が実際にはどこから出たのかさえ俺には知らされなかったし、メディーアに実際会った訳ではあるものの随分以前のことだった。
彼女は、メディーアは正しい女性なのだろう。
祖国にとって正しかろうとも俺たちを守ってくれる訳でも無いし、何かを終わらせる力や何かを作る力が有っても、他者を理解する力は本当にあるのか疑問だった。
適当な領地の跡取りでも見つけて結婚してほしいような、典型的なエリートで博打はしないような女だったと思う。
他者から異論は有ろうとも、俺にとっては彼女はそういう存在だった。
オンドゥルルラ様の台詞に出てきた『颶風・ザ・レディ』と『美肌GOガール』ですが、今後登場するかもしれませんし、しないかもしれません。




