作業進捗状況14 軍団長の結婚①
一番暑い季節である夏も中盤を過ぎて、ここから次の季節へと移り変わる準備が始まるような、そんな日にその式は割と盛大に執り行われた。
俺はと言えば珍しく、外見に気を遣い気合いの入った格好をしてみせた。
もともと俺の身長は187ダウメン(≒187㎝)ぐらいはあった。
魔族は人間族よりは平均身長が高いし、200ダウメン超える奴もそれなりにいたので、俺位の身長が種族平均だと考えてもらっていい。
クーデレが178ダウメン(≒178㎝)だから釣り合いがギリギリ何とかとれていた。
普段は絶対に着ないような、金持ちの商人みたいなダボっとしているけど金かかってます的な餡赤色のコートに、下は同じ色のゆったりズボンに派手な刺繍の入ったシャツを着た。
靴は作りが丁寧で上等な革製だったし、餡赤色で丸く膨らんだカボチャみたいな帽子で完全に頭の角を隠した(他種族に対する最大級の礼だったりする)。
因みにカボチャはずいぶん昔に異世界から流れ着いた、割と普通の野菜だ。
灰色の髪も何とか帽子に押し込んで、杖を構えれば完成だ。
どの方向から見ても、完璧に新進気鋭の成金にしか見えなかった。
ガーデネイに感想を求めても、この男の信念に隙なんか出来ないのは分かっていた。
なので腹心の『コトシーモ・ハルガーコ・ネイデス』に俺は感想をたずねることにした。
「ネイデス。俺は祝いの席に呼ばれるなどの栄誉においては、常に主役に配慮した姿でいるよう通した。昔からそうで今もそうだ」
「よく存じ上げております。妹君がダンマスのことを『服だけが歩いてる』とおっしゃられたのをお諌めして以来でございますな」
俺は一瞬だけ、ほんの一瞬だけ実家の教育方針の違法性について抗議しようかと思ったが、すんでのところで直訴することを止めた。
俺のような奴でもダンジョンにこもって労働に勤しめば、客観性を失わぬ『漢』になろうというものよ。
「あいつの考えは今回はどうでもいい。今の服装で問題はないだろうか?」
「とてもよくお似合いです。種族外交官のクーデレ様の付き添いとして、まことに相応しいお姿ではないかと思います」
「その外交官というのは初めて聞いたんだが!?」
「クーデレ様からは何のお話も無かったのでございますか? あの御方は外交官職についておられまして、こちらにずっとご滞在なさっておられますのは、その関係もあるようなのです」
俺は愕然とした。
意外に思われるかもしれないが、昔の知り合いには外交官だっている。
それでもクーデレがそんなことしていたのは俺にとって充分に意外だった。
つまりこの式への出席は俺の祖国にとっては外交儀礼だった。
クーデレ・ジャネイツッテンダロワ・ヒッデーナ嬢は祖国では侯爵の次女であるから、アナダラーケン侯爵領を擁する『ニーバンメクライ王国』(人間族の国家では割と大きい)にとっても特に文句をつける要素は無いだろう。
一方の俺はと言えば、吹けば飛ぶような木っ端貴族のはみ出し者だが所在地が祖国にバレていた。
今回の『酒の密輸』がもし祖国に捕捉されていたら、俺だけは墓の下だっただろう。
祖国の法執行機関にすれば俺はブラックリストの中の犯罪者だったし、種族の自浄作用の強化は常に声高に叫ばれていた。
俺はダンジョンの『偽装』がほぼ完璧であったことに今回だけは感謝した。
俺がモンモンとそんなことを考えていると、今一番事情を聞きたい御方がテントにやって来た。
「まぁ! 久方ぶりに貴方がそんな格好をされると新鮮な気分になります」
俺の方は挙動不審になっていた。何て言うかこっちの方が新鮮な気分だった。
クーデレは完全な外交用の正装で武装していた。
頭は角まで完全に、俺と似たような形の白い帽子で隠されていた。
ドレスは落ち着いた感じの白いモノだったが、やはり金が掛かっていそうな凝った透かしや刺繍が入っており、術で強化もされているはずだ。
おそらくは鎧より頑丈なはずで、下手をすると要塞並みかもしれなかった。
そして何というか外観から司令官まで、スゴい豪華な要塞だった。
俺はものすごく間抜けな顔をしていたと思う。声がかけられるまでは。
「そんなお顔をなさって、どうされたのですか?」
「いや、うん。いろいろ聞きたいことがあったんだけど、それは後にしよう。スゴく良く似合ってると思うよ。今日の服装も」
俺は最後の『も』に今日持っている全ての気合いを込めて言った。
クーデレは満更でもなさそうな雰囲気を一瞬だけ発したが、早めの出発を促しただけだった。
「本日は早めに出発しましょう。家から獣車も持ってきましたし」
獣4頭引きの送迎用の獣車は、転移ゲートを通じて運び込まれていた。
こういう時には『理力』で飛んでいくとか、転移するのは礼儀に反する。面倒でも別の手段で移動することになった。
俺たちみたいに最初から『理力』のほとんど無い奴は関係無いけどな。
一応言っておくと転移ゲートは地下1階フロアの一番奥にある、俺のテントの後ろの壁の中の部屋にあった。
今は仕切り壁があるから、利用客にはほとんど見えないが、入り口が大きいので大抵の物を運べた。
結婚式会場はいろんな意味で眩しかった。
まずワロー軍団長の知人・友人が式典用装備で多数出席していた。
銀色に照り輝いていたと思う。今日の主役も正規軍の軍人として、確実に式典用装備だろう。
花婿の格好は式が開始される前から割れた。
続いての驚きはアナダラーケン侯爵閣下と侯爵妃であるイーナ・オリヤーガターナ・マテッコラ様が出席されていたことだった。
正規軍の第2軍団長であるとしても待遇は破格だと思う。この辺は付き合いの問題であるとしてもだ。
そして北側の隣国のムリスジー領からは『役人代表』としてではなく『友人枠』でダーレニー・ディモ・シオタイオが出席していた。
いつものズロ~ンとしたローブ姿では無かった。シュっとしたローブだった。明らかに役人の収入で手が出る品では無かった。
もう誰もあの男を『まともな役人』だと思わないだろう。
そんなことはお構いなしに奴は目立っており、ついでに意外と板についた愛想笑いで、アナダラーケン侯爵と歓談していた。
普段の冷酷そうで怜悧な表情は欠片も無かった。何か見てはいけないモノがにじみ出ている笑顔だった。人間族が表現可能な部分をどこかで凌駕していた。
今日を無事に乗り切ることが俺の目標になりそうだった。




