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作業進捗状況12 川堀村アイコの写真

作者です。

愛ってなんだろう?というお話になる予定です。


 俺は久しぶりに地下2階の『漂着物(ひょうちゃくぶつ)の部屋』に来ていた。


 この部屋は温泉設備が目立つ、というよりはソレしかないフロアの片隅にひっそりと在った。

 フロア壁面にある扉は目立たないように、壁の色と同じにしてあって、ほとんど誰からも興味を引かなかった。


 念のためにクーデレに頼んで、温泉とここを(へだ)て入浴客の視界から隠す為の『コの字壁』と『外扉(そととびら)』まで作ってもらった。





 この『漂着物の部屋』は部下の『ヨーク・ワッカラン・モンマニア』を中心に、異世界からの漂着物に興味のある奴らで管理してもらっていた。

 この部屋は、山脈内にある『異世界からの漂着物の堆積場(たいせきじょ)』と繋がっていて、わざわざそこまで行かなくても良いという利点があった。ただし『ほとんどゴミ』しか流れて来ない場所でもあった。


 最初のうちは『半透明の手桶(ておけ)』『(あか)すり布』『優しい石鹸(せっけん)』がまとまって流れて来ていたが、最近はそういう事も無くなって使える物の割合は極端に減った。


 (ちな)みに『半透明の手桶(ておけ)』『優しい石鹸(せっけん)』の物的価値が割りと高いため、これらは集めてしまいこんである。

 高貴なお得意様や取引先に出す様な品物ってやつだ。

 クーデレは個人的に使っている。





 俺の(かたわ)らにはモンマニアが居て、俺と一緒に部屋の奥にある『波打ち際』を(なが)めていた。


「お金的な意味では助かったな。石鹸と手桶……」 


「そうですね、ダンマス。プラスチック製品はなかなか流れて来ませんからね」


「だよな。あんな物がしょっちゅう出たら、今頃はこの山脈の領有権をめぐって戦争してると思うよ」


「最近はまた、何かの(たね)か金属製品が地味に嬉しいって生活に戻りましたからね」


「異世界の精錬(せいれん)具合(ぐあい)ってのは変態的に高い。日用品でも高い純度だし、連中は魔法を使わないそうだな。工業技術だけでアレをやるってのは凄いと思うよ」


 金属製品の質は確かに高かった。

 しかしより質の高いツルハシを求める鉱夫(こうふ)なんかは、残念というか当然ながらこの世界にはいなかった。

 金属自体はこちらにもある。使えれば良いというレベルの品物に大した価値は認められない。だからこの山脈は平和だった。

 そして金属製品もそんなに流れてこない。

 昔はこれらの品を(あさ)ることが盛んだったらしいが、今では地元民がたまに探す程度でしかない。


「もしダンジョンで何か研究するなら、ああいった物が良いですね」


「だよな。良い意見だよモンマニア。俺はそういうダンジョンに夢を持って、前向きに考えて出してくれるアイデアが大好きだ。今後もついてきてくれると大いに助かる」


 俺はモンマニアとの会話の中で、少しづつではあるが『俺のダンジョン』が形になるのを感じた。

 ここは今は営業形態が『温泉宿』に近いかもしれない。ほとんどそのまんまソレなのかもしれない。しかし、いつか必ずここが本当のダンジョンになるかもしれないと、そんな期待も確かにソコにあった。





「そう言っていただけるのは嬉しいんですがね、ダンマス。何かまた流れてきましたよ」


「おお! ゴミだったら投げ返そうか」


「なんかゴミっぽいですがね。何でしょうか」


 確かにゴミに見えたがソレはどこか変だった。

 何というか妙に統一性の様なものがあって、起源を等しくしている様に見えた。

 拾得物の一覧はこうなる。


・異世界の歯ブラシ:()に文字が書いてある。40本(多分未使用)


・異世界のコップ:プラスチック製品。側面に文字。27個(多分未使用。地味にありがたい)


・一辺が約20ダウメン(≒20㎝)前後の厚い紙:上記の物品と同じ文字が書いてある。枠が金色。40枚(表彰品か?)


・写真:『ヘソの周囲10ダウメン(≒10㎝)程度』だけが写っている性別不明の人物のもの。裏に上記と同じ文字あり。1枚のみ


 文字自体はどれも同じだったから、全てに同じ内容が書いてあることになる。

 そしてソレは手書きに見え、筆跡も同じだったから同一人物の手になる物に見えた。

 

 写真というのは場景(じょうけい)をそのまま写し取る異世界の技術だ。

 こういう所は我々よりずっと進んだ不思議な世界だ。

 しかし取っておきたい景色が『ヘソの周囲10ダウメン(≒10㎝)』ってのはどうかと思うよ。女性なのではないかと思われたが、ヘソ周辺は(たる)んでいた。豊かな世界なのだろうと思う。

 俺はこれらの物品の調査をモンマニアに任せた。異世界の文化にまで踏み込んだ研究は少なかったし、その手のツテを持つ者がモンマニアしか居なかった。





 物品の調査自体は早く済んだ。モンマニアの持つ知識と資料で何とかなったからだ。

 俺はこの学歴の高い男が、何故こんな『落ちこぼれ』の下で働いてくれるのか大いに疑問だった。


「ダンマス、前回指示された調査なんですが大体のことは分かりました」


「早かったな。で、どんなモンだったんだ?」


「はい。これは声優の川堀村(かわほりむら)アイコ女史(じょし)のサイングッズでした」


「サイングッズってなんだ? あと声優ってのがわからん」


「まず声優のことですが、一種の人気商売のことです。芸事に関わるもので、演劇の俳優に似ています。ただし彼女たちは声で演技をしているようです」


「ほー、また面白そうな仕事だが、台詞(せりふ)だけで何とかなるのか?」


「それがですね彼女たちは『人形』や『絵』に演技をさせる為の『声』を担当しているんですよ」


「演技者の変わりに『人形』や『絵』が動くのか? 子供に受けが良さそうだが、やっぱり変な技術が発展した世界だ。でも再現の難しいシーンを描くには良い技術かもな」


「さすがはダンマス、ご理解が早い。彼女たちは演技や声に魅力があれば人気が出ます。それで直筆サインの入った『道具(グッズ)』が売れるようなのです」


「なるほど! 良い商売をしているじゃないか。ただ1点だけ気になるんだが、この写真だけは生々しさが違うだろ。裏に書いてあるのは彼女の『直筆サイン』ってことになるよな」


「そうですね。そうなるかと思います……こういったことに詳しい知り合いもおりますが……」


「いや、そいつに頼むのは()めておこう。それよりは想像力の出番かもしれないぞ」


 俺はこの写真の持つ意味について、思いをめぐらせ始めた。

 これの価値は正確に計られた方が良いような気がしたのだ。

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