作業進捗状況10 酒と儲け話⑥
この報告書を読んでくださっている神々に改めて申し上げる。
一枚前の報告書までが【回想シーン】でしたが、ここからは現在の状況に戻ります。
もうお分かりかと思うが、俺は今現在において目の前に居るクーデレと一緒に、朝食をとっている最中だったりする。
言い忘れていたが季節はもう夏になろうとしていた。クーデレが来てから数ヵ月も経過していると思う。
『酒の密輸』の件でクーデレの追及をうけてはいたが、俺は誤魔化しきれそうだと思ってはいた。
いたのだが「本当にそれで良いのか?」と思う俺も同時に存在していた。
「クーデレ、改めて聞きたいことがあるんだ。さっきの酒の密輸が『何とかかんとか』の話の続きと言えば、そうとも言えるんだけど。君は俺のように情けない男を見捨てないでくれている。そんな男を婿にするってどうなのかと思ってね」
「……どうなのかと申しますと、何が聞きたいのです? あなたの為に私が行った尻拭いでの苦労話を聞きたいのですか? それとも私が呆れて出て行かない理由がお知りになりたいのですか?」
「そうだね。呆れて出て行かない理由の方が知りたいかな」
ここはクーデレのテントの中で、恒久的な防音の術もかかっている。全員テント暮らしが意外と快適だったものだから、そのままになってしまっていた。
クーデレは口を固く引き結んで、表情をやや険しくして黙り込んでしまった。
黙ってしまったので俺の方が話を続けた。
「俺はこの通りの男だからこんなことしか出来ない。意地を張って作ったのは結局『温泉テント村』だ。お客様は来てくれるけど、格安だしお給料も払わないといけないし、仕入れ代金のこともあるから手元に残るお金は僅かだ」
俺は苦々しい思いで続けた。
「ダンジョンだって作ろうとしたけど目的といえばいい加減で、作ったからってその後どうするのかは出来てから目標が見つかると思ってた……」
「俺にも今より大きい『理力』が授かったり、漂着物の恩恵で新しい研究が出来るかもしれないって漠然と考えてたんだ」
「もちろん冒険者連中を討ち取って、名を上げるってことも考えたよ。実家に対する当て付けでしか無いこともよく分かってる」
「しかし君や部下たちをそれに巻き込んでいることに責任も感じてる。君らにつましい生活をさせるのが、俺の本意では無いんだということだけは分かって欲しいんだよ」
俺の独白はそこで遮られた。白い繊手が俺の顔面を往復した。
俺は一回右にぶれて、続いて左にぶれた視界を元に戻した。何ていうか歯が無事だったのが奇跡に思えた。
「貴方は勘違いしています。私がここに居るのは、私が自分で決めたことです。それに麓の村々の人達の生活はどうするのです?」
麓の各村も生産される食料の増加と、税率の低下で食料が余っているという事情はあった。
次男や三男や女性の中には、仕事を手伝いに来てくれる人達も居た。もちろん爺さん婆さんでも問題なく助かっていて、賄いと給料を出して温泉を楽しんで帰ってもらっていた。
「どうしようか。俺は領主じゃない。それに君にも手伝ってもらって地下1階を改装してもらった。意地を張っておいてなんだけど『腐れウソ吐き野郎』と言われても文句も言えない状態なんだ」
「それは分かっています。以前、妹さんが貴方のことを『腐れウソ吐き野郎』と言っているのを聞いて以来です」
俺は一瞬だけ、ほんの一瞬だけだと思ったが意外と長い時間ショックから立ち直れなかった。100年経っても俺という奴は『目標未達』というものに対する心残りをぬぐい去ることは出来ないでいた。
「やっぱり言ってたんだ。今初めて聞いたよ」
「今初めてお伝えしました。でも今は貴方が何を行えるのか考えて欲しいのです。口惜しいですが、あなたやお仲間の事を見ている時の私はきっと羨ましかったのかもしれません」
クーデレ自身の口からそんな台詞が出る日が来るとは意外だった。
困ったことにそれでも俺の自己評価は上がらなかった。種族的価値観の本当の奴隷とは、俺自身のことなのかもしれない。
因みにクーデレに頼み込んで地下1階を改装したのはしばらく前だったりする。
クーデレはこの辺『凝り性』で俺たちと相談しながら、楽しそうに壁を作ったり部屋を増やしたり扉を付けたりしていた。
さすがに壁の色を変えようと言われた時はどうしようかと思ったが、地下の趣ってヤツについて俺が語ると「それもそうですわね」と言って諦めてくれた。
フロアは奥行き500アーム(≒500m)✕幅300アーム(≒300m)になって、さらに従業員用やお客様用の仕切り壁も出来た。
ついでに奥行き200アーム✕幅100アームの厩舎が3部屋追加された。
5日ほど前、ムリスジー領から戻ってきたワロー軍団長の率いる2000頭の荷役獣が、木箱を4000個ほど余分に積んで帰ってきたが問題なく収容出来た。
木箱は酒が20本位入りそうだったが、中身が何かはもちろん詮索しなかった。
俺はクーデレに対して感謝と申し訳無さで一杯だったと思う。
そんな気持ちだったから結局のところ事の詳細を吐いてしまった。
「ごめんよ、クーデレ。実は荷役獣が多かった日のアレは全部『ムリスジー酒』だったんだ。輸送はもう終わったんだ。今はアレが全部、金に変わるのを待っているんだよ」
「やっぱり! 絶対に何か運んでいると思っていました。一体どれくらい儲けたのですか?」
「2500万デネイほど……」
「正直に言えば呆れました。しかし小銭稼ぎの分を超えているとは思われませんか!?」
正直に言えば俺は、この女性に説教されるのが気持ち良くなってきていた。
叱られてはいるものの、かなり音楽的なそれは女性の口から出ているとはちょっと思えなかった。
「それについては、こんな機会滅多に無いとだけ言っておくよ。祖国の官憲にも捕捉されなかったし、メディーアには黙っておいて欲しいんだ。俺は彼女との『婚約破棄』を考えているんだよ」
「なんですって!? ユアセイラあなたは……」
俺はハッキリと言ってしまった。
実家の連中が何を考えているか分からない。しかし本人の同意無しで事を進めるのは、非道と言う他はない。
しかしそれ以外にも彼女に伝えるべきことが俺にはあった。
「ところでねクーデレ。今の件とは別に聞いて欲しいことがあるんだ」
「何なのですか。今のお言葉は本気ですか?」
「それはそれで後で話すよ。実はワロー軍団長が結婚するんだよ。俺と一緒に式に出てくれないかな?」
作者です。やっと密輸事件が終わりました。関係者以外にはひっそりと。
私は自身の破綻していると言うか、時流に沿わない作品について自信がありません。
個人的に感想を求められる知人もいないのです。
分かりにくいですとか、文章が変だとか具体的なご意見をいただきたいと思っておりますので、気の向いた方は是非ともよろしくお願いいたします。