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転生特典は、一日六時間労働で将来安泰な職業でお願いします。

作者: れん

こんな転生なら私がしたい。

一発ネタでございます。

 ふと気が付くと、目の前で得体のしれない生物が土下座している。そんな経験をしたことがあるものは少ないだろう。

 その数少ない人間の一人が私だ。

 ただ、あえて言わせてもらえばそんな経験はしたくなかった。


「申し訳ありませんでした!!」


 土下座をする奇妙な生物……いやもうシンプルに言えば天使だ。

 背中に真っ白い羽が生えているし、頭にわっかがあるし。

 服装も白いスモッグみたいな、天使過ぎるくらい天使だ。

 うち仏教徒なんだけどなんでお迎えが天使なんだろう。という素朴な疑問はさておき、だ。


 その天使様曰く、私たちは間違って殺してしまったらしい。

 そう、私たちだ。他にも数名いる。


「ってことは異世界転生?!」

「チートくれチート!」


 最近の若者は切り替え早いなぁ。

 天使相手に騒いでいる若人、たぶん高校生らしい面々を見ながら思う。こちとら生活に若干疲れている社会人なので、なかなか情報把握と適応に時間がかかる。


「えぇ、皆さんを生き返らせることはできませんので、代わりと言っては何ですが、別の世界へ生まれ変わらせていただきます。

 その際にはお詫びの意味も込めまして多少のフォローはさせていただきます」


 天使なのにえらく低姿勢で天使は言った。

 うーん、あくまでも話を分かりやすくするために天使の姿をしている。という事かな。

 死後の世界の象徴としては万人にわかりやすい。

 まぁ私もスーツ姿の鬼がお迎えに来たら戸惑いの方が強そうだ。

 あれが欲しい、これが欲しいという若者たちをてきぱきと捌く天使。うーん、仕事ができる。


「それで、あなたはどうしますか?」

「その前にいくつか質問いいでしょうか」

「もちろん」


 天使はニコリと微笑んだ。

 私はいろいろ質問した。これから行くのがどんな世界なのか、社会通念は、文化レベルは、衛生観念は、医療水準は、身分制度に、平均寿命、宗教などなど。

 わかったのは、これから向かう世界、ラフィーリアはいわゆる剣と魔法、スキルがある世界らしい。王様がいて、貴族がいて、平民がいて、奴隷がいて、冒険者がいて、ギルドがあるような。

 種族はヒト、精霊、妖精、獣人、竜がいて、悪魔がいて、天使もいる。

 惑星の大きさはおよそ地球の八倍。一日の長さはこちらでいうところの三十二時間とのことだけど、およそ二十四時間制を取り入れているとのことだ。

 要するに一時間が長いんだろう。意味が分からないが生まれ変わったらそう言うものだと感じるはずだ。

 生活水準や、衛生観念、医療水準はおよそ十四世紀から十七世紀ぐらい。魔法や魔道具があるので一部は現代日本と遜色ないとのこと。

 宗教に関しては多種多様な神々や精霊を信仰しており今のところ宗教戦争のようなことは起きていない。

 あと、魔王は……と言うか、一方的に排斥されたり差別されたりする種族はいないそうだ。……人種、種族間での差別や偏見がない。とは言ってない。


「では、身体や周囲を清潔に保つ方法、食べられるかどうか……毒とか腐敗とかを判断する方法、どれだけ暴飲暴食しても太らず、病にかからない身体、それと、ひと月二十日、一日地球時間で六時間以内のそれなりに創意工夫の余地があり、熟練度に応じてやりがいが感じられるような命の危険がなく、需要と供給バランスがよく、そこそこの贅沢が出来て、プライベートが充実できて、四十程度まで働いたら老後の心配がいらなくなるような仕事につける身分とスキルが欲しいです」

「それはまた」


 天使が難しい顔をします。若者たちが何それ。みたいな顔をしているが、言っとくがこれ、現代日本だと限られた特権階級しか就けない条件だからね?


「魔法がバンバン使いたい! とかないんでしょうか」

「聞いた話ですと平民は使えればラッキー程度だそうですねぇ」

「ハーレムしてみたいとか」

「私女なので。それに貞操観念はそこそこ普通だと思うので、不特定多数の男性にもてても」


 あ、美少女が顔を真っ赤にさせた。似たようなことを願ったんだろうか。

 まぁ本人の好みなので、こっちに関わってこなければ好きにするといいよ。


「あ、でも、ハーレムやりたいって言った男の子いるのかな」

「えぇいますよ」


 頷く天使をよそに、私は若者たちに尋ねる。

 ささやかな老婆心みたいなものだ。


「ちゃんと病気耐性と体力増強と、性欲増加とかもらった?」

「は?」


 いやね、十四から十七世紀の衛生観念てさ、フランスだと窓からうんこ捨ててたり、吉原で梅毒流行ってた頃なわけでして。

 しかも異世界だと、地球にはない病気とか呪いとかありそうだし。


「下手すると腐り落ちたりするよ? あと、ヘイト管理とか、エッチで陥落とかだと人数増えると地獄だよ?」


 今はまだ若いからいいけど、年を取ったら若い子の方がいい! とか裏切られたりしない? 大丈夫? それに特化したスキル貰った?

 女の子の状態が分かるとか、好感度がパラメータになって見えるとか、そう言う感じの奴。

 間違って殺されたあとが、痴情の縺れの刃傷沙汰は悲しすぎるぞ?


 私がそう忠告すると慌てて何人かがスキル変更を申し出ていた。特に女の子。

 窓からうんこが衝撃的だったらしく、慌てて衛生面のスキルとかを申請している。やっぱりきれいなのがいいよねぇ。

 これ以上ここにいるとまた面倒だと思ったのか、天使は若者たちをあっという間に光に包んで消してしまった。転生させたんだろう。


「さて、最後のあなたですが、なかなか難しいことをおっしゃいますね」

「そうでしょうねぇ」


 何しろ日本でも実現させている人は数少ないわけだし。

 人に使われるのは、まぁこの際問題ない。自分で考えるよりは楽だ。けれど、セコセコ働くのもちょっとなぁ。

 かと言って冒険者になって自分の腕一本で食っていく。というのもちょいと体力がない。主に心の体力が。

 転移ではなく転生、あと記憶も引き継げるそうだが、出来れば離乳食が終わるころまでは記憶は封じてほしい。


「清潔に保つためには【浄化】を、食べるものだけではないですが、調べるためには【鑑定】を。おまけで食物に関してちょっと詳しく、調理法とか出すようにしておきましょう」

「めちゃくちゃありがとうございます」


 日本人はフグの肝でもこんにゃくでも何とかして喰う国民なのでそう言うのは大変ありがたい。


「えぇと、暴飲暴食しても太らず病にならない身体は……、そのまま【無病】とかでいいですかね。おそらく肥満も病でしょう」

「いろいろ心に突き刺さりますがありがとうございます」


 半面栄養失調とかもなさそうなので不安も残るけど、食うのに困らない職に就ける予定なので頑張って働こう。

 あ、それらがあっても加工する技術がないと詰みますね。

 こちとら全くできないとは言いませんが、凝った料理には縁がない人間ですよ?


「でしたら【料理】をつけておきましょうか」


 それあれば一人暮らしでもコンビニ弁当のお世話にならなくて済みましたかねぇ。

 あとは、【精神耐性】と【言語】、【ストレイジ】は基本パックでもらえるらしい。


「ストレイジ……インベントリみたいなものですかね。容量と時間経過は?」

「制限なし、経過は任意です」

「早めることもできる?」


 天使はにっこり微笑んだ。梅酒とかすぐに飲めそう。

 まぁぶっちゃけそれぐらいしか思いつかない。

 コレクター気質があるので無制限は素直に嬉しい。

 部屋が狭いので我慢してるだけで、シリーズものとかは全部ほしいタイプだ。


「それで、ですね」


 改めて、と言うように言葉を区切る点にし、私は改めて言う。


「一日地球時間六時間、一月に二十日程度をいわゆる日本でいうところのデスクワーク的なものをこなせば充実したプライベートと老後が保証される職に就ける身分とスキルです。もっと言えば、陰謀だとか足の引っ張り合いとかと無縁の方がいいです」

「ますます難しくなりました」

「そうでしょうねぇ」


 深くうなずく。天使は少し、というか暫く考えた後、首を振る。


「残念ですが、ご期待に添えるような職業がございません」

「世知辛いですねぇ。でしたらおすすめはありませんか?」


 天使が勧めてくれたのは、一つは貴族令嬢。

 平和な国の子爵か伯爵ぐらいの地方領主の娘ならば、そこそこのところに嫁いで男の子を産めば左団扇で生活ができるだろうとのことだ。

 男の子を生めればということなのだが、そこはスキルで【産み分け】なるものをくれるという。めちゃくちゃ特化したスキルだけどいいんだろうか。

 もう一つは神官。こちらも平和の国の地方の教会などでは清貧といえば聞こえがいいが要するに貧乏なので、【鑑定】スキルが光るし、そこまで堅苦しいことはないだろうという話だ。

 仕事は基本は神に祈ることと、村人の相談を聞くことと、あとは畑の面倒とか。村人と変わらないけれど、地位は村人よりも高いのである程度の特権が受けられるとのことだ。


「ある程度の特権?」

「税を納めなくていいとか、町の移動がフリーパスとかですね」

「あ、あー、農民は自由に移動できないって言うやつですね」


 日本とかロシアとかで聞いたことある奴だ。他の国でもたぶんあったんじゃないかと思う。


「それでは教会でお願いします」


 いろいろ考えたけれど、貴族令嬢ムーブは難しそうなので教会にした。

 話を聞いた限り、貴族令嬢って自由がなさそうだし、言ってみれば家の付属品と言うか、男の付属品と言うか……。

 まぁ日本でもそうであった時代からまだ百年たってないぐらいだからねぇ。

 記憶がある状態でそういう扱いはちょっと無理そうなので、それだったらまだ教会の方がいいだろう。と言う話だ。

 私がそう言うと、天使はほっとしたようだ。


「それでは……そうですね、お詫びなのに要望に応えられませんでしたので、あといくつか希望はありますか? あーできれば趣味的なものがいいです」


 だいぶ無茶ぶりした自覚はあるので気にしなくてもいいのですけれどね。

 趣味的なもの、趣味的なもの。うーん。


「あ」

「なんでしょう」


 思わず。と言うように声を上げた私に、天使がずいっと身を乗り出す。

 いや、そんなに期待されるようなものではないのですがね。


「音楽的な才能が欲しいです」


 いや、別に私が音痴なわけじゃないよ? うん。ちょっと、こう、リズム感が独特だったり、音程がちょっと狂ってるだけで。うん。

 第二の人生ではちょっと、こう、歌とかうまくなれると嬉しいかなぁ。って。

 教会といえば讃美歌とかパイプオルガンとかがお約束だからね!!!


「わかりました、【音楽の才能】を付与しておきましょう」


 心の声でも聞こえているのか――天使なら聞こえてそうだが、生温い笑みを浮かべながら天使が頷いて請け負ってくれた。

 ちなみに容姿的なものはこう、失笑されない程度の容貌をお願いしておいた。美人過ぎても、醜くても、排斥されやすいからね。

 それから対人運をよくしてもらった。

 道に迷ったらいい人が通りかかって教えてもらえるとか、上司がいい人とか、詐欺師やぼったくりが近寄らないとか。そういう感じの運がいいのがいいです。はい。

 基本性善説の平和ボケした日本人なので、下手するといいカモになりかねない。


「あ、最後にうっかりしてしまった神様のお名前は?」


 恨むにしても、感謝するにしても、名前がわからなければ意味がない。


「創造神、女神ラフィーリア様です」


 天使がそう言うのと同時に、私の意識は光に吸い込まれた。


 そして――。





















「旦那さま、奥様!! お嬢様が目を覚ましました!!」



 目覚めると飛び込んできたのは布だった。それから甲高い声。

 しばらくして涙をにじませたキラキラした顔の男女。本能的に、彼らが己の両親だと理解する。


「あぁ、目が覚めたのね、ニューイ!」


 女性――母親がそう言って自分を抱きしめる。

 唐突に自分が何者かを思い出した〝私〟は、その腕に抱きしめられながら、そのぬくもりを感じながら、それどころではなかった。



 私の名前はアンヌ・アルカンシェル。

 異世界ラフィーリアのとある大陸にある王国、ナチュール王国の公爵の一人娘である。


 そう、公爵令嬢だ。

 伝統と格式しかない名ばかり貧乏貴族と言うわけではない。


 筆頭貴族で、王族からの信任篤い。そんな、国随一の貴族の家。




 ――まっっっっっっっったミスりやがったな、女神!!!!!!!



 気楽な辺境貴族でも、もちろん教会関係者でもない生まれに、〝私〟は心の底から罵倒の言葉を吐き出していた。




----

このあと、王子の婚約者とかになり、「もしや断罪されて修道院に追放とかそういう??」と思いながらもなんだかんだ生きていくことになります。

聖女ルートとかそう言うのは一切思いつかない模様。


主人公

アラサーOL。神様のうっかりで死んでしまい、異世界転生することになった。

夢もへったくれもない、しかし、ある意味で夢いっぱいの要望を出すが異世界の女神でも彼女の願いをかなえることはできなかった。


若者たち

大体中学生から大学生ぐらいまで。

それぞれチート能力をもらい、各地に転生した。主人公とこの先出会うかどうかは不明。

場所によってはガチで衛生面がやべぇ国もある模様。


女神ラフィーリア様

異世界の創造神。割としょうもない理由で地球で大量虐殺をやらかした。

地球の神にめちゃくちゃ怒られて今回チート能力を授けて転生させることに。

悪意なくやらかすことがあり、主人公に対しても「望みをかなえてあげられなかったから」と言う理由でせめてものお詫びで生まれよくしてあげた。まさしく大きなお世話である。

ここまでお付き合いありがとうございました。

多分この先よしんば続いたとしても、主人公に恋愛要素はない。

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