テレマコスの宣言
なかなか完成しないペネロペの織物に求婚者達は不満を積もらせていた。
アンティノオス:「あれから何年経つというのだ・・・遅すぎる」
美男子の求婚者エウリュマコスは、ペネロペの侍女の一人メラントと深い仲になり、
ペネロペの様子を探らせていた。
侍女メラント:「エリュマコス様、ペネロペ様は昼に織ったハタを夜にはほどいております」
エウリュマコス:「なるほど・・・賢い女性だ」
侍女メラント:「あ、あの・・・」
メラントは恥ずかしそうに顔をあからめた。
エウリュマコス:「そうだったな、ご褒美をあげなければならんな」
そういってエウリュマコスはメラントを建物の陰につれていった。
そこへテレマコスがやってくる。
テレマコスは何処からか聞こえてくる女性のなまめかしい声をきく。
テレマコス:「な、なんてことだ・・・」
エウリュマコスとメラントの関係を覗いてしまったテレマコスはその場を離れる
足早に歩くテレマコスに、一人の中年の男が声をかける。
中年の男:「テレマコス殿」
テレマコス:「あなたは?」
中年の男:「私はメンテスといってな、お父さんのオデュッセウスとは旧知の友じゃ」
メンテスは傍若無人に振る舞う求婚者たちを見て言った。
メンテス:「この有り様はひどい。心有るものがみたら憤慨するだろう」
テレマコス:「・・・はい・・・ですが、私にはどうすることも・・・」
メンテス:「勇気をもちなさい。父上は勇猛な男だったぞ」
テレマコス:「・・・はい」テレマコスはうつ向きながら答えた。
メンテス:「あなたはもう子供ではない父上を探す旅に出られてみてはいかがかな?」
そう言ってメンテスはその場を去った。
テレマコスはメンテスの言った「父を探す旅」という言葉に思いめぐらしながら眠りについた。
翌日、テレマコスは意を決して、求婚者たちに宣言する
テレマコス:「求婚者の皆さん大変申し訳ないが出ていって下さい。」
求婚者:「お!なんだかボクちゃんが張り切ってるよ」
テレマコス:「これは家長としての勧告です。」
ペネロペ:「テレマコス、おやめなさい」
テレマコス:「母さんは黙ってて下さい。私はもう子供ではありません」
ペネロペは息子の勇ましさが頼もしく部屋の奥に下がった。
リーダー格のアンティノオスが言った。
アンティノオス:「俺たちが従わなければどうするんだ?」
テレマコス:「神に訴えて復讐します」
求婚者達は大笑いした。
テレマコスは顔面蒼白になり、ブルブルと身を震わせた。
求婚者:「・・・おいおい、アンティノオス、なんかマズイぞ」
アンティノオス:「そのようだな」
いつもと様子が違うテレマコスに、数名の求婚者は笑うのをやめた。
アンティノオス:「まあまあ、ボクちゃんがそういうなら、今日は引き下がるよ」
アンティノオスは他の求婚者たちを引き連れてオデュッセウスの屋敷を出た。
テレマコスは胸を撫で下ろし、その場に座り込んだ。
この様子を見ていた中年のメンテスがテレマコスに駆け寄ってくる
メンテス:「よくあれだけの人数を前に頑張りなされた」
テレマコス:「もうヘトヘトです」
メンテスはテレマコスを休ませ、今後のことについて話し合うことにした。