魔女キルケ
キルケの屋敷にたどりついたオデュッセウスは、緊張した面持ちで屋敷の中に入っていく。
キルケ:「どちら様?」
オデュッセウス:「俺の部下たちがこの屋敷に来たはずなんだが・・・」
オデュッセウスはキルケの美しさからなのか?恐怖からなのかゴクリと唾を飲んだ。
キルケは屋敷の隣にある豚小屋に目をやりながら言った。
キルケ:「彼らなら奥でゆっくりしているわ、あなたも一杯いかが?」
キルケはお茶を入れながら、オデュッセウスを席にうながした。
オデュッセウスはキルケを警戒しながらテーブルの上にあるパンに手を伸ばした。
キルケ:「長旅で大変だったでしょ、ゆっくりしていってちょうだい」
オデュッセウスは一口パンをほおばった。
オデュッセウスはキルケを見据えながら思った(美味い!)
キルケは微笑みながら何かを呟き杖で床をトントンと2回叩いた。
オデュッセウス:???
何の変化も起こらないオデュッセウスにキルケを眉をひそめ杖を振りかざした。
オデュッセウスも剣を抜き、剣先をキルケの喉に突きつける。
キルケ:「お前は何者だ!」
オデュッセウス:「俺はオデュッセウス。部下たちを返してもらおう」
キルケ:「・・・オデュッセウス?」
オデュッセウスという名はキルケが予知していた男の名前だった。
キルケはオデュッセウスに許しを乞い、夜を共にした。
翌朝、キルケは豚たちに軟膏を塗り、呪文を唱えた。
部下たちは元の姿に戻ったが、少し背が高く顔も少しだけ男前になっていた。
それから数日、キルケは姿を現さなかった。
その間、キルケの侍女たちがオデュッセウスやその部下たちを相手にしていた。
キルケは地下の祭壇にこもり、ある儀式をしていた。
侍女長:「キルケ様、お気をしっかり!」
キルケ:「うう・・・っはっは・・・」
キルケは天井から釣り下がったロープを握り息んでいた。
しばらくして、赤ん坊の産声があがった。
侍女長:「やりましたよ、キルケ様、男の子です」
キルケは赤ん坊を見つめて微笑んだ後、眠りについた。
部下たちと侍女たちが宴会をしている広間
オデュッセウス:「今、赤ん坊の泣き声がしなかったか?」
侍女:「そんなことありませんよ、動物たちの鳴き声ですよ。そんなことよりもっとお飲みになって」
侍女はオデュッセウスの空いたグラスにワインを注いだ。
数日後、キルケはオデュッセウスの前に姿を表した。
オデュッセウス:「しばらく顔を見なかったが何かあったのか?」
キルケ:「ちょっと野暮用でな、それより楽しんでいるか?」
オデュッセウス:「そりゃもちろん!」オデュッセウスはキルケの肩に手をまわした。
キルケはオデュッセウスの手を払いのけながら言った。
キルケ:「それは結構なことだ」
オデュッセウス:「お前!あれから冷たいぞ!」
キルケ:「ッチ」
キルケは舌打ちをして、その場を去った。
地下の祭壇
8歳ほどの男の子を前に、キルケが何かをしゃべっている
キルケ:「お前はいずれ、この土地の王となるのだ」
男の子:「はい、母さま」
キルケ:「侍女長、ラティヌスを連れて時の泉に入りなさい」
侍女長:「ラティヌス様、このアマタと参りましょう」
ラティヌス:「母さま、行って参ります」
キルケがコクリとうなずくと、侍女長アマタはラティヌスを連れて時の泉に入っていく。
そのあとを追って数頭の猛獣も泉の中へ入っていった。
地下の祭壇から出てきたキルケは空を見上げ清々しい顔をした。