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2 ヒロインなのによけられます!



 次の日からメリナは頑張った。


 まずはシナリオを思い出すことから始めた。

 攻略対象は第一王子のレオンハート、宰相子息のシリウス、魔法師団長子息のアラン、騎士団長のグラット、この四人。

 ライバルにあたる悪役令嬢も攻略対象につき一人いて、それが婚約者だ。


 メリナはまず第一に、一番人気の王子レオンハートを攻略しようと決めた。

 本来なら転入の日に門の前で出会い、平民ということで興味を持たれるというイベントがあったはずだった。しかし、これは発生しなかった。



(イベントは何で起きなかったのかしら)

 


 必ず起きるはずのイベントなのに起きなかったことが不思議だったが、何か条件があったのかもしれない。

 もしくはリメイク版のゲームの内容が変わることがあるように、イベントも変わっているのかも。いや、教室では出会ったから、それがイベントに該当しているのか。


 メリナはいろいろ可能性を考えていたが、実際の答えは分からない。

 それならば、確認の為にも次なるイベントを起こすしかないという結論に至った。



「頑張れ私!」



 メリナは気合を入れて拳を握った。





 次のイベントというのは、廊下の角でぶつかるという何ともありきたりなものだった。

 しかし、そのイベントが起きることで王子はヒロインに更に興味を持ち、それ以降何かと話しかけて来るようになるという大切なイベントである。



「隙がないわ……」



 そんな大切なイベントなので、絶対に成功させたいとメリナは考えていた。


 休憩時間や昼食の時間には、廊下に出てはレオンハートを探していたメリナ。

 見かけることはあったのだが、王子であるレオンハートはいつも人に囲まれていて、ぶつかる以前に近付くことすら困難であった。


 その後何日か様子を見て、たまたまレオンハートが一人離れたのを見たメリナは機を逃さなかった。全力でレオンハートに走っていったのだ。

 本来なら切り捨てられても文句は言えない行為だが、ゲーム内だと確信していたメリナに恐怖心や危機感は1つとして湧いてこなかった。



「うわっ!」


「きゃっ!」



 ゴンッと痛そうな音が廊下に響く。


 本来なら軽くぶつかって体勢を崩した所を受け止められるはずだったのだが、あまりのスピードで走ってきたメリナに危機感を感じたのだろうか。

 レオンハートはメリナを間一髪で避けてしまい、そのせいでメリナは勢いそのままに廊下で盛大に転けてしまった。



「いたた……」



 避けられると思ってもみなかったメリナは、受け身も取れずに派手に膝を打ち付けてしまった。

 何とか起き上がるものの、あまりの痛さに呻いてしまう。



「だ、大丈夫か?」



 レオンハートは恐る恐る声を掛けてきたが、顔を見ると若干引いているように見えた。


 王族として育ったレオンハートの周りには基本的に貴族しかおらず、女性が全速力で走っている所も、盛大に転ける所も見たことがない。

 その為、何とか表情に出さないようにはしていたものの、メリナの行動に実は心底引いていた。



(し、しまった……!)



 やらかしてしまったことに気付いたメリナは焦ったが後の祭りである。



「大丈夫です!えへへ、ちょっと急いでしまいました!すみません!」


「そ、そうか」



 誤魔化すように笑って見せるが、レオンハートの態度は変わらない。

 むしろ、急いでいるからといって全速力で走って人にぶつかりそうになっていたメリナに対して更に引いていた。



「あの…えっと、失礼します!……いたっ!」


「怪我をしたのか?ーーそこの君」



 気まずさにその場を去ろうとして立ち上がったメリナは、膝の痛みにまた蹲ってしまう。

 その様子にやっと表情を戻したレオンハートは、通りすがりの男子生徒に声を掛けた。



「私のことでしょうか?」


「ああ、そうだ。彼女を医務室まで運んでくれないだろうか」


「彼女ですか」



 レオンハートは男子生徒にメリナを任したかと思うと「僕は急ぎの用があるので頼んだよ」と言ってそそくさと立ち去ってしまった。


 あまりのことにメリナは呆然とする。



(酷い……)



 ぶつかろうとして勝手に転けたのだから自業自得ではあるが、このまま放置された事にメリナは傷付いて涙が出てきてしまった。

 イベントを起こせなかったことも、転けたことも、放置されたことも、とにかく全てが悲しかった。



「痛むのかい?」



 頭上から優しい声が聞こえて、メリナはサッと俯いて涙を隠す。この涙を見られることが何だかとても嫌だった。



「あの、大丈夫です。お気になさらず……」


「そんな訳にはいかないよ」


「でも自分で勝手に転けちゃっただけなので……」



 俯いたまま、えへへ、と笑いながら明るい声を出す。どうにか1人になりたかった。

 しかし、男子生徒はレオンハートに頼まれていた為、メリナを放っておく訳にはいかなかったのだろう。その場を去ってくれない。


 内心、どうしようかと考えていた時だった。



「その怪我結構酷そうだね」


「そんなことーーひゃっ!」



 不意に体が浮く感覚がして、驚きのあまり変な声が出てしまう。

 驚いたことにメリナは男子生徒によって横抱きにされていた。



「医務室に行こう。すぐ着くから、少し我慢してて」


「おおおおろして下さい!」



 見知らぬ男子生徒に横抱きにされているというあり得ない状況に、メリナは恥ずかしさもあって体を硬直させる。

 顔を上げるどころか身動き一つ取れず、精一杯の抗議の声も全く聞いてもらえる素振りがない。


 ここまで来ると、もうどうにでもなれ、と諦めに似た気持ちが湧いてきて、メリナは大人しく医務室に運ばれていった。





「これで大丈夫よ。痛み止めの薬も塗ってるので、しばらくして薬が効いたら歩けるでしょう。この薬を塗って包帯巻いていれば、数日で良くなると思うわ」


「ありがとうございます」



 医務室に着くと、直ぐに手当てをされてたメリナ。痛みの割に酷い怪我でも無かったようで、薬と包帯を幾らか貰うことが出来た。

 ほっとして、連れて来てくれた男子生徒にも礼を言おうと周りを見るが、どこにも姿がない。



「あの、ところで私を連れて来てくれた人はどこに?」



 医者に尋ねると、メリナと同じように部屋を見渡した後首を傾げた。



「あら、本当ね。帰ったのかしら?」



 その言葉の通りで、男子生徒は戻ってくることもなく、何処の誰かも分かっていなかったメリナは結局お礼を言うことが出来なかった。

 いつか見かけたらまた言おうと決めると、直ぐにその男子生徒のことは頭から離れてしまい、先程の王子とのイベントのことを思い出す。


 メリナは今回の事で、レオンハートとのフラグを建てることを失敗したと見なし、彼を攻略するのは一旦見送ることにした。

 攻略対象はまだあと他に三人もいるし、まだイベントも起きていない。

 これからイベントを起こす事が出来たらきっと攻略へと近付けるはず。


 メリナはそう結論付けて、次なる作戦を考えることにした。







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