１ ヒロインなのに反応が薄いです！
悪役令嬢もので暴走しているヒロインを書いてみたくて書きました。
短編で書いたところまではなるべく毎日更新したいと思っています。
メリナは頭をガツンと殴られたかのような衝撃を受けた。
豪華絢爛な門の前で呆けた顔で突っ立つメリナは目立つ。しかし、メリナはそれどころではなかった。何故ならーー
「もしかして……《学ロマ》？」
ーーここは、学園ときめきラブロマンス……略して《学ロマ》の世界だと気付いてしまったからだ。
彼女はただのメリナ。今年15歳の普通の平民の女の子だ。普通と違う所と言えば、非常に整った容姿と普通ではあり得ない程の魔力。
髪も瞳も極々一般的な茶色。ふわふわと波打つ髪は愛らしいが、手入れされている訳ではないので、所々傷んでいる。
特筆すべきなのはその顔立ちだ。くりくりとした子猫を思わす大きな目に、控えめな小鼻、薄紅色の唇に鮮やかな頰。肌は多少焼けてしまっているが、そんなことでメリナの魅力は損なわれないだろう。
そんな顔立ちとふわふわの髪が、快活で可愛らしい美少女だった。
辛うじて貧民ではない、普通の平民として母と2人生きてきたが、ちょっとした事故で魔力があることがわかってしまい、学園に通うことになった。
この国では魔力を持つのはほとんどが貴族で、その使い方を学ぶ為に13歳で学園に入ることが義務付けられている。たまに平民でも魔力を持つ子供が生まれるため、そういった子供は無償で学園に通わせてもらえることになっていた。
そんなこんなで、普通は13歳から通っている子ども達から2年遅れて魔力が発現してしまったメリナは、転校生として学園へ通うことになったのだった。
話は戻り、今日は転入初日。無償で提供されたとは言え、貴族の子息が着るような制服に身を包み、汚さないかとドキドキしながら門を潜ろうとしたメリナは、自分の前世を思い出したのだ。
日本という国に住み、乙女ゲームなる物を楽しんでいた自分。何らかの理由で死亡し、そして、とある乙女ゲームの世界に転生した。
そういった記憶が門と、その奥に続く豪華な建物を見て蘇ったのだ。
前世の記憶と今世の記憶がごちゃ混ぜになって混乱してしまう。それでもただ一つ感じることはあった。
「ヒロインに転生だなんて最高！」
それだけは記憶など置いて強く感じていた。何せ、ヒロインということは、攻略対象のイケメン達とウハウハだから。
しかも乙女ゲームをやっていたメリナは大事な選択肢は分かっているし、イベントだって覚えてる。
加えてヒロインなのだから失敗さえしなければ自分有理に進むに決まっている、とメリナは思った。
「ひとまず、教室に行かないと」
ふと、周りからどんどん人が減っていることに気が付いて、メリナは我に返り、教室へと急いだ。
「メリナと言います。仲良くしてもらえたら嬉しいです！」
メリナは恙無く教師に紹介され(ゲームでもこんなセリフを言ってた)、初めての授業を受け始めた。転入したものだから、授業はちんぷんかんぷんで全然ついていけない。
「スチルがなかった……」
分からない授業を右から左に流しながら、メリナは口の中でぼそりと呟いた。
混乱が落ち着いてくると、門での出来事を思い出す。
本来ならあそこが攻略対象の一人である王子との出会いだったはずなのに、誰とも出会わずに教室に着いてしまったのだ。
しかも出会いどころか、授業の合間の休憩時間になっても、誰にも話しかけられさえしない。
こんな時期の転入生に、みんな興味を持つより関わりたくないという気持ちが明け透けで、ギャップに戸惑い、落ち込む。
「見かけない顔だな」
俯いて席に座っていると、不意に声をかけられた。
顔を上げるとそこには眩いばかりの美少年が立っていた。
指を通しても一切絡まなさそうな金色に輝く髪に、空のような爽やかな青色の瞳。アーモンド型の目や鼻筋の通った鼻、薄い唇が相まって、メリナの人生で一番のイケメンと言っても過言ではない。
(ーー王子きたーー！！)
その人物は何を隠そう、この国の第一王子であり、《学ロマ》の攻略対象だった。
シナリオとは違うがちゃんと出会いがあった事に興奮しつつも、メリナはそれを悟られないように頑張って表情を取り繕った。
「メリナです。今日から通うことになりました！」
「なるほど。例の転入生か」
王子の「例の転入生」という言葉に首を傾げると、王子に「ここにはそう転入生は来ないから報告が上がっている」と言われメリナは納得した。
「私はメイナードだ。知っていると思うがこの国の第一王子だ」
「勿論存じてます！建国記念日には王家の方々の絵姿が飾られますから」
ヒロインらしく元気いっぱいに答えるメリナにメイナードは鷹揚に頷く。
前世ではまず関わることのなかった王族から直接話しかけられたことや、攻略対象が実在すること、さらにその美しい顔も相まってメリナは興奮が抑えきれなかった。
「慣れないことも多いと思うが、勉学に励むんだな」
「はい！ありがとうございます！」
続く言葉を待つが、王子は何も言わない。
それどころか「ではこれで」とメリナからあっさりと離れて行ってしまった。お礼の言葉と共に輝く笑顔を見せるメリナのことなど、ほとんど見ずに。
どうやら他に人に用事があって教室に来たのだが、たまたまメリナが目に入って話しかけただけのようだった。
(あれれれー？何か反応薄くなーい？)
メリナなりに喋り方を《学ロマ》に寄せているし、ゲーム内ではもっと会話もあるはずなのに、あまりにあっさりとした態度の王子を不自然に思う。
何故ゲームと展開が違うのだろうかと首を傾げるメリナだったが、まぁ他のイベントが起きれば関係無いだろうと直ぐに疑問に思ったことは忘れてしまった。
(まずはどんなイベントがあったか思い出して、実際に起こしていかなきゃね〜)
メリナはご機嫌まま《学ロマ》1日目が終了した。
