一話 始まり
魔物の森に一番近い村【アルズー村】その村に住んでいる気の弱い少年【ベノ・アルクス】そんな彼は小学校でいじめられていた。ある学校の放課後、三人組のいじめっ子に反論したら殴られ、一心不乱に魔物の森に走っていった。薄暗い森で泣いていたのはゴブリンの少年【アル・パイガン】だった。二人はそのとき、友情を分かち合い。四年間も剣の稽古や森での狩を楽しんでいた。そんなある日ベノの口から魔物の高校に通い、優しい魔王になりたいと言われるアル。アルは入学したい高校【魔王高校バベル】に行かないかと誘われ、共に受験をした二人。だがその受験は思ったほど甘くはなかった‼︎
心地よい春の訪れ、俺は魔王昇格式に訪れて居た。
全ては、はある村の少年が握っていた。今から九年前の出来事である。大都から大分離れた田舎の村、【アズルー】。この村は魔物の住む森に一番近い集落で、男達は体半が強い戦士として有名な村だった。そんな村に一人の気の弱い少年が居た。その少年の名は、【ベノ・アルクス】地元の小学校に通う十歳の五年生だ。
ある学校の帰り、いつものように帰っていると、いつも虐めてくる三人組が、絡んできた。
「おい!弱虫アルクお前なんでそんなに弱いんだよ‼︎」
「ダッセー‼︎」
「少しは強くなろうと思わないのかよ!」
少年三人はにやけ顔でベノのことを突き飛ばし、嘲笑っていた。
「僕だって、変わろうとしてるんだよ……」
半ベソをかきながら必死に訴えるベノ。
「だったら少しは変われよ‼︎」
ーーボコッ
三人組の一人がベノの右頬を殴り飛ばした。
「おい!やめろって‼︎」
仲間の一人が拳を止める。
「もういいだろ……」
止めた子が言うと、止められた拳を振り下ろし、地面に唾を吐き捨て村の方に帰って行った。ベノは村とは反対の方向、魔物の森に殴られた右頬を押え涙をグッとこらえ、一心不乱に走った。
いつしか日もくれ、森も大分深く入っていた。するとヒクヒクと遠くから鼻をすする音が聞こえてきた。
「誰かいるの?いるなら返事してくれ〜」
ベノは、今にも消えそうな声で呼びかけた。すると、薄暗い森の奥からガサガサと音を立てて何かがこちらに近づいてきた。
「ごめんッさっきからここにいるんだ」
そう言って鼻をすすり左手で涙を拭う俯いたゴブリンが姿を現した。
「今日、教官に実戦練習で怒られたんだ。」
ゴブリンはじわじわとこちらに寄ってくる。
ベノはそのゴブリンを見ても恐怖を感じなかった。むしろ、「仲良くなれる」なぜかそう思った。
「実はさっきクラスメイトにいじめられたんだ。」
するとゴブリンは俯いた顔を上げようやくベノの顔を見た。
「き、君は人間‼︎」
ゴブリンは驚いた表情をし、尻餅をつき固まっていた。
「大丈夫だよ!僕は攻撃したりしない‼︎」
そう言って両手を空に掲げるベノ。
「僕の名前はベノ・アルクスって言うんだ君の名は?」
ベノは笑顔で手を差し伸べる。それを見たゴブリンは不思議な目をして、差し伸べられた手を見ている。
「君は僕のことが怖くないの?」
「ベノでいいよ、最初見たときはビックリした、でも今は全然怖くないよ‼︎」
手を取りゴブリンの体を起こすベノ。
「僕の名前は言ったよ、君の名前も教えてよ‼︎」
ゴブリンはこの言葉を聴くや否や泣いていたことなど忘れるぐらいに笑顔になった。
「僕の名前は【アル・パイガン】って言うんだよろしく!ベノ!」
「あぁ!よろしく!アル」
こうして、薄暗い森の中、人間の少年ベノとゴブリンの少年アルは、硬く握り合い友情を分かち合った。
それから四年後……
魔物の森を走る二人の青年がいた。
「おっせぇぞ!ベノ‼︎逃げられるぞ!」
「わぁかってるって」
鹿を追いかけているベノとアルの姿だった。そう、あれから四年間学校が終わりいつも決まった場所で待ち合わせをして遊んでいたのだ。魚を取ったり、森を走ったり、剣を交えたり、最近になっては動物を狩ったりもしている。
「そっち行ったぞ!」
「あぁ!任せろ!」
横に倒れている木を踏み台にし蹴り上げ高く飛ぶベノ手には剣を持ち、飛んだと同時に頭の上に両手で持ち構えた。
ーーグサッ
剣先は鹿の喉仏を貫いていた。
「ナイス!ベノお前やるじゃん!」
肩を叩くアル。ベノは振り返り。「お前も追い込みナイスだった。」と言い、左手に剣を持ち右手で拳を作りアルの前に突き出した。アルも笑いながら左手に短剣を持ち直し拳を出し、当てた。
「俺たち息ぴったりだな!」
「そうだな」
アルは照れ臭そうに笑いながら言った。それから鹿を捌き、大木に二人で腰をかけていると、ふとベノが深刻な表情でささやいた。
「俺、魔物の学校に通おうかな……」
「いきなりどうした?」
不安そうに見つめるアル。
「いやさぁ、この四年間で俺は人間より魔物のお前といた方が楽しいことが分かったんだよね」
「でも、お前が魔物の学校に入って何をするんだ?」
「それはもう決めてるんだ!」
息良いよく立ち上がり、左手を太陽にかざし、グッと握る。
「俺、魔王になる!魔王になって世界を一つにまとめて、魔物も人間も分け隔てない世界を作る!」
アルは唖然としている。
「お前それ本気で言ってんの?」
「俺はいつでも本気だ‼︎」
「だって歴代の魔王で人間なんて一人もいないんだよ」
「なら俺がなってやるアルと俺で一から作った剣術と教わった体術があれは何も問題ないだろ‼︎」
自信満々なベノその姿を見て決心したアル。
「おう、なら俺が入学したい学校に行こうぜ‼︎」
「どんな名前の高校なんだ?」
「それはな……【魔王高校バベル】って高校なんだ‼︎」
「いかにも魔族が通う高校って感じの名前だな。だが、俺は行くぜ‼︎」
笑いながら決意を見せるベノ。ベノとアルはもう一度拳を合わせ共に魔王高校バベルに行くことを決め、その日は帰った。ベノは家に着くと狩で手に入れた鹿をテーブルに置き、母マリアと父ハーキンを呼びつけた。
「俺、魔族の高校に通う」
ーーパリンッ
手から皿を落とすマリア。
「ベノ今なんて言った?聞き間違いかもしれないからもう一回言って……」
今度はさっきよりも大きな声で。
「俺は!魔族の学校に!はいりたい!」
部屋の音が消えたようだった。すると母ではなく座っていた父のハーキンがそっと立ち上がりベノの両肩に手を置く。
「お前はどうしてそんなことを思ったんだ?話してみろ」
真剣な眼差しで見つめるハーキン。
俺はその視線に応えるごとく父の手をそっと撫で下ろし両親の前でアルと過した四年間を包み隠さず全て話した。
「そっか、お前はそれで悔いは残らないか?」
「残らないよ!俺は俺が信じた道を歩きたいんだ!」
ベノの熱意に胸打たれたごとく、両親が俺の肩に手をそれぞれかけ、天使のような優しい声で話した。
「お前が行きたいなら行きなさい、でも後悔だけはしないでね!」
「いつでも本気でも何事も挑戦する、俺と約束してくれ」
「ありがとう、かぁさん、とおさん、俺必ず優しい魔王になるから‼︎」
家族三人で抱き合い、その日は早く寝た。後になって気づいたが、抱きしめ合ったとき母の目には涙が溢れていた。
五日後、ベノはアルと一緒に魔王高校バベルに足を運んでいた。
「はじめての魔族の街ワクワクするだろ?」
アルが緊張で少し固まっているベノの方を軽く叩く。
「服はこれで良かったんだよな?」
ベノは見習い冒険者のような格好にいつもの剣を腰に下げていた。
「あぁ、それで十分!あと、書くもの持ってきたか?」
「あぁ、持ってきたけど剣は何に使うんだ?」
「それはな入試で使うんだよ‼︎」
「入試で使う⁉︎この墨筆じゃあなくって?」
「入試は剣技と魔法の内容・腕を見て決めるんだよ墨筆は名前を書くだけのものだよ」
アルは笑いベノの肩を叩く。
「まぁ、いつも森で狩したり、特訓したりしてるときみたく楽〜にやれば大丈夫だよ」
同行しているうちに魔王高校バベルの正門についていた。
「試験会場は中庭なんだって!行こうぜベノ‼︎」
「わかったわかった行くよ」
アルはそう言うと正門前に石のように立ちすくすくベノの手を引き中庭へと走っていった。中庭に着くと多くの魔物が自前の剣や杖を持って集まっていた。
ーーガヤガヤガヤ
話し声と剣や魔法の確認をするものたちで隣にいるアルの話し声すら聞こえない。
バンッ……
物凄い音が中庭全体に響いた。学校の方から一人の人並みの背丈ぐらいの男がベノたちがいる中庭に歩いてくる。
「えぇ〜今から君たちの試験を見ることになったエドラ・ドラコスだ、よろしくな……」
そう言って用意されていた台に乗り、一礼をするエドラ、その頭には黒いツノと背中とお尻に赤い翼としっぽが生えていた。
「では今から入試試験を始める参加者は俺の前に並べ!」
そう言うや否やバラついていた参加者たちが一斉に試験官エドラの前に並び始めた。
「アル俺たちも行かないと‼︎」
「そうだな!行くぞ!」
二人は同時に走り出し、並んでいく魔物の間に入りなんとか列に並ぶことができたアルとベノ、振り返ると大蛇のように大勢の入学希望者が一列で並んでいた。目視するだけでざっと千人はいる。
「よ〜しそれじゃあこれから試験を始める。お前らには今から剣を使った剣術と魔法を使った魔術の二つのテストを行ってもらう。それぞれテストを行うときに種族と名前、住んでる村・街を言うのを忘れるなよ……」
そう言って台にあぐらをかくエドラ、すると、受験者の一人目が颯爽とエドラの前に出て腰に下げた剣に手をつき自分の名前・種族・故郷を話し試験を受けた。だが、その試験は思いの外想像を絶するものだった。まずは剣術のテストからだ、剣術は試験官エドラが出した泥の人形五十体を倒せというものだった。そのとき技・立ち回り・判断力を見ているらしい。騒然一発目の子は失活だった。それと魔術で試験を受けに来ている者はこのテストを受けなくても良いらしい。次に魔術。魔術は剣術とは違って魔力結界の中で行うテストだ。試験官のをエドラが合図を出したら得意魔法を一つ打つ。その間、魔力の濃さ・量・威力を見て決めているらしい。そんな事を説明していると次はアルの順番まで進んでいた。もう三百人近くの受験者が落ちている。
「かましてこい‼︎」
ベノはアルの背中を叩く。
ーーバシッ
「相変わらず痛ってぇ〜なお前の張り手。まぁでも、緊張ほぐれたわ、行ってくる……」
いつも見ない真剣な表情でエドラの前に立つアル。
「アル・パイガン!種はゴブリン族!サーナ村出身!武器は短剣を使います!それではお願いします‼︎」
アルは話し終えると短剣を抜きいつものように構えた。
「それでは……始め‼︎」
すると、地面から泥人形がゾンビのように湧き上がってきた。アルはその光景に目もくれず出てきた奴から次々と倒していった。いつのまにか五十体全て倒していた。かかった時間わずか3分、驚愕のスピードと判断力で戦い終わったアル。
「ありがとうございました‼︎」
アルは短剣を戻し、エドラに向かって頭を深く下げ立ち去ろうとした。その瞬間、エドラが立ち上がり、アルを引き止める。
「お前はどこで稽古を積んだのだ?一体誰が師範なんだ?」
「俺に師範なんていませんが、次に試験を行うベノ・アルクルスという少年と小さい頃から稽古を積んだことぐらいしかやってませんよ。」
試験者全員が騒めく。アルはエドラにそう離すとそそくさと傍に下がってしまった。
「じゃあ、次のベノ・アルクルス君前に出てきてもらおうか……」
目を輝かせて呼びかけるエドラ。周りの受験者たちもベノに注目している。その中俺は、胸に手を当て一呼吸置いてからエドラの前にあるって行った。
「ベノ・アルクルス!種は人間族!アルズー村出身!武器は片手剣を使います!ではお願いします‼︎」
ベノの掛け声を聞き固まるエドラと周りの受験者たち。
「今なんて?」
「ベノ・アルクルスと言いましたが……」
「そこではない‼︎その次だ!」
「はい、人間族と言いました……」
「お前人間族なのか‼︎これはまた面白いなぁ‼︎」
そう言って笑い、腹を抱えるエドラ。周りがザワザワとザワつきだした。
「アイツ人間なんだってよ」
「マジ⁉︎なんで人間が魔物の高校受験に参加してるんだ?」
「俺の方が聞きたいよ‼︎」
そんな話し声が聞こえてくる。ベノが戸惑っていると一人の少女の声が響き渡った。
「先生!早くベノ君の試験をしてください」
その声はベノの真後ろから聞こえてくる。ベノは声に気付き後ろを振り向く、すると、赤い魔石が付いた杖を持ち、耳がやや長く尖っているツインテールの女の子が居た。
「そうだな、それではベノ・アルクルスの試験を始める、それでは……始め‼︎」
ーーボコボコ
アルと同じように地面から泥人形が這い上がってくる。「アルの時と同じ戦法で戦えば上手くいく」そうこゝろの中で決めるベノ。最初は押し気味で倒していたがふと、あることに気づく、「アルの時と行動が違う⁉︎」ベノはこゝろの中でそう呟き、行動・戦法・剣術をガラリと変えた。すると見ていたエドラの表情が強張る。
「ありがとうございました」
敵を全部倒し剣をしまい、礼をして立ち去ろうとしたベノ。するとまたエドラがアルの時と同じように引き止める。
「お前は、どうして途中で戦闘スタイルを変えた?」
眉間にシワを寄せ、ベノを見つめるエドラ。
「先程、戦っているとき途中、泥人形の動きがアルの時と違うことに気がついたので、自分が一番得意な剣術に切り替えました」
ベノは自信なさげに話す。
「今の剣術はなんという剣術だ?」
「天赭斬月流と言う剣術です」
「聞いたことない剣術だな」
「この剣術は俺とアルで作った剣術ですからね」
そう言うと一瞬固まるエドラ。
「自分で作った⁉︎剣術を?」
「そうです。全て森の動物や花たちを参考にして作ったんです!」
「そうか、そうか!お前たちは面白い‼︎二人とも早いが入学決定だ」
笑いながら言うエドラ、試験会場全体が静まり返る。そんな中ベノはアルの居る場所まで走って行きハイタッチを交わす。その音と共に会場が一気にざわつき始める。
「俺たちやったな」
「あぁ、頑張った甲斐があるよ」
もう一度ハイタッチを交わすベルとアル。その後も試験は続いたが剣術だけで八百人ほどの受験者が落とされた。次は魔法の試験だが、ベノとアルは受けず受験会場の側で見ていた。
「魔法ってどんな感じだろうな……」
唐突に話すアル。
「それなら近くで見に行く?」
「よっしゃ行こうぜ‼︎」
アルとベノはエドラに頼んで、特別に近くで見せてもらえることになった。
「あっ…………」
目の前にいたのはさっき助けてくれた少女だった。
「アル、あの子俺の試験の時助けてくれた子なんだ。」
「あぁ、先生になんか言ってた奴か」
すると、エドラの「始め!」が聞こえてきた。
「いよいよ魔法が観れるのか」
「どんなもんだろうな」
アルとベノはドキドキしながら見ていた。
ーーヒューーーッドゴーーーン
かなりデカい炎系魔法だった。
「君は魔法をどこで教わったのかな?」
エドラが興味津々で聞いている。
「私は、母から魔法を教わりました。母はエルフなんです。」
「じゃあ、本当は風魔法が得意なのかな?」
「いえ、私は風魔法より炎の魔法が得意なんです」
「そうなんだ、わかった。もう下がっていいよ!」
一礼をして下がる少女。ベノはアルを置いて少女を追いかける。
「あの〜さっきはありがとうございました。」
「君は、さっきの!えっと、バル君!」
「僕はバルじゃなくてベルです」
笑いながら話すベル。
「すみません、ベルさんですね、そう言えば名前を教えてないですね、私は【イリサ・アーリア】と言います!よろしくどうぞ」
そう言い、頭を下げるイリサ。
「こちらこそよろしく‼︎」
イリサの跡を追うように頭を下げるベノ、それから頭を上げ「じゃあまた!」と言い走ってアルの居る場所まで走るベノ。
「ごめん、勝手に行っちゃって」
「大丈夫だよ、今日は観てから帰ろうぜ」
そう言うとまた熱心に魔法の試験を見るアル、ベノは頭を縦に振り見直した。
それから一時間……
「はぁ、いっぱい観たな魔法」
「そうだな、腐るほど観たな」
満足そうに魔法試験会場を離れるアルとベノ。
「おぉ〜い‼︎お前ら待ってくれ」
後ろからエドラの声が聞こえてくる。
「お前ら明後日発表なの知ってるか?」
「一応知ってますけど……」
「それならよかった、今日はそれだけだ、後は帰っていいぞ」
エドラに言われお辞儀をし、来た道を戻るベノとアル。
「今日は楽しかったなベノ」
「あぁ、もう入学決定だって言われたけど、どうなんだろうな」
「俺もわかんねぇけど、まぁなんとかなるでしょ」
そう言って立ち止まり空を見上げるアル、それを見たベノも空を見上げる。
「これからすげぇ大変だろうけど、絶対魔王になろうな!」
「あぁ、アル」
互いに見つめ合い、拳を合わせ歩き出すベノとアル……
次回へ続く。