波動砲の使い手
「波動砲!」
真っ青に晴れ渡る大空。
突如、光線が一直線に通り過ぎる。
それは、極太の青い光線。
「はぁ。今日の分の波動砲は、すべて処理できた。すっきりしたな」
俺の名は圭太。女の子をデートに誘いたいと思っている、ごく普通の高校生。
波動砲を使えるけれど、それが役に立ったことは一度もない。だから普通の人と大して変わらない。
波動砲、それは俺が生まれた時から使える謎の能力。一日に使える量に限度があり、限度いっぱいまで波動砲を放つと気分がスッキリするので、毎日波動砲を放つようにしている。
最近、海の上を「海賊」と呼ばれる、よからぬ奴らが暴れまわっている。
観光船や交易船を襲って船内の貴重品を強奪したり、人々を捕らえ、それぞれの家族に売却するなど、非道な行いを行っている奴らだ。
最初は、自分には全然関係ないことだと思っていた。けれど、彼らの引き起こした様々な残酷行為の話を聞くにつれ、少しずつ自分にも何かできないかと思い始めてきた。
そして、いよいよ明日、俺の旅が始まる。
「はぁ、今日もいい天気だな」
昨日と同じ、真っ青な青空。こんないい天気の日には、思わず波動砲を放ちたくなってしまう。けれど今日から旅を始めるから、温存しなければならない。
俺は早速、目的の施設へと向かう。
海賊狩り応援センター、海賊狩りを応援する組織の施設だ。この場所では様々な支援が、海賊狩りに贈られる。
とりあえず、海賊狩りセットをもらうことにする。身分証明書を見せることで、セットをもらうことが出来た。このセットを船乗り場で見せれば、小舟をもらうことが出来る。
船乗り場にて、
「いよいよ旅かぁ。もしかしたら途中で死んじゃうかもしれないし、悔いの残らない旅を心がけよう」
あ、でもまだ女の子と付き合ったことがないな。もし死んじゃったら、童貞のまま死ぬのか。それだけは嫌だな。やっぱり生き残りたい!
「あれ? 圭太君? もしかして海賊狩りに?」
黒髪長髪の、ゲーム機をいじっていた女の子が、突然こちらに顔を向けてきた。制服を着ていて、落ち着いた表情が賢そう。この人は同じクラスの委員長だったような。確かアイスって呼ばれていたっけ。
「あ、ああ。海賊狩りに、に、なったたた」
「なんか変なしゃべり方。大丈夫?」
「あ、ああ」
お、女の子が話しかけて、くる、や、ヤバイ。こういう時、どうすれば、いいの?
「圭太君、一体どうしたの?」
「ア、ハハハ、気に、しないで」
「圭太君、緊張してうまく女子と話せない童貞みたいだよ」
グハッ。核心を突かれた。
だがもう大丈夫、多分。
「これから海賊を狩ってくるよ」
「そっか。じゃあ私もいっしょに行ってもいい?」
ええ! 一緒に来るの?
「どうしたの、そんなに困惑して?」
「え、だって海賊狩りだよ! 危険だよ」
「大丈夫。私、強くもないけど弱くもないよ。それに死ぬ覚悟もできてる。私、家族がいないしゲームしてばっかりの人生だから」
委員長なのにゲームしてばっかなのか……
「私は料理、洗濯、掃除、家事全般が得意なの。きっと役に立つと思うわ」
「覚悟が決まってるなら、一緒に行こうよ。でもなんで海賊狩りに同行したいの?」
彼女は真剣なまなざしで、同行の目的を話す。
「私、海賊の身勝手な行動のせいで、遠くの人々が苦しんでいるのが許せないの。けど私ひとりじゃあ海賊を滅ぼせない。だから波動砲を放てる圭太君と一緒に旅をして、共に海賊を殲滅したいの」
そんな思いがあったなんて。でも俺は……
「ごめん。俺は海賊を滅ぼす気はない。海賊の無害化を目指しているから」
「海賊の無害化? どうして海賊狩りがそんなことを?」
アイスは驚き、困惑しながら疑問をぶつけてくる。
「海賊を滅ぼしたところで、また別の悪が生まれるはず。だったら海賊を無害なものに変えて、ほかの悪が生まれないようにする。それが俺の目的。それでも同行するの?」
「私は…………海賊が嫌い。本当に消えてほしいと思っている。けど、悪い奴らも嫌い。圭太君! 一緒に悪を滅ぼそうよ!」
「ああ。そうしよう」
「目指すは海賊のオアシス、サーティ島。景気づけに、一発やりますか!」
「100分の1スケール、波動砲!」
彼らの旅立ちを祝う、真っ青に晴れ渡る大空。
突如光線が一直線に通り過ぎる。
それは、極細の白い光線。
サーティ島 人間販売所
「あなた、あなたなのね! なんていう格好なの、ぐすん……」
女性の前のオリの中に、両手両足を縛られ横たわっている男性の姿がある。
「あなたたちよくも私の旦那をっ」
「おいおい。ハハッ。まあそんなに睨むなや。自分の立場が分かってないようだな」
ヘラヘラとした嫌な顔の男性が、懐から大きな銃のような装置を取り出す。彼は装置の電源を入れると、それを女性の顔に近づける。
装置から、炎が発射され女性の顔に襲い掛かる。彼女は一瞬驚いた後、悲鳴を上げて後ずさる。
「お~い。ヘラオ、やりすぎだよ。一応こっちはお金をもらう立場なんだからさ。ここは穏便に」
ヘラヘラ顔の男性、ヘラオの隣にいる陽気そうなアフロの男性が、彼をたしなめる。
「ヒヒッ。すまねぇなあ。おい、お前! うれしいお知らせだぜ。なんとたったの50万、50万で彼との素敵な生活が送れるようになるんだ。いい話だろ」
「ふざけないで! あなたたちが奪ったんじゃない、私たちの生活を! 旦那が何をしたっていうの……」
「相変わらず自分の立場が分からないみたいだな。旦那は俺たち『ボルケーノ海賊団』の襲撃した豪華客船に乗っていた。ただそれだけだ」
アフロの男性が、二人の言い争いを止める。
「喧嘩しててもしょうがないよ。あなたが50万払えば、旦那は解放される。払わなければ旦那は別のところに売られる。好きなほうをを選んでね」
「このっ、外道が」
VR召喚士もの、「最弱の召喚士、伝説の漆職人を目指す」も、よろしくお願いします。