欠落王女のためのダンジョン探索・前
暗殺集団頑張ります。
Gという害虫についての描写があります。
「よーし、リリー、今日は約束通り、ブラッドダイアを入手した話をしよう。しかし、もともと持っていたと言ったらあっさり信じた王子は大丈夫か?」
「大丈夫。私を信じてくれてる証拠だから、とても嬉しいです」
そういうリリーは、相変わらず、目に光が灯らない無表情。
だが、長い付き合いの、育ての親でもあるリーダーである男はリリーが、本当に嬉しがっていることは分かった。
それに、満足そうに頷き、リーダーは話し始める。
「あれは、お前の婚約が決まった時だった。祝いの品をどうしようか皆で相談した時に、珍しい宝石だろうと満場一致で決まった」
「なぜですか」
「可愛い娘への祝いの品といったら宝石が定番だろう? だが、俺達はプロ中のプロだ。ただの宝石じゃつまらないと思って、幻とも言われるブラッドダイアを探すことにした」
これも、反対者無しの満場一致だ。
と、リーダーは言い、リリーは呆れる。
「ブラッドダイアのある場所はダンジョン最深部。未到達のダンジョンを俺達は探して、その中でも一番でかいダンジョンに潜ったんだ」
**********
「しかし、ダンジョンに入るためには冒険者登録が必須とか。まぁ、俺達全員登録はしてますけど」
「まともに、活動してたのリーダーくらいだけどな」
「Cランクまで、あげてりゃ十分だからなー、あとは無効にならない適度に依頼うけりゃいいし」
などの会話をしながら、彼等は順調に攻略していく。
冒険者ランクよりも、彼等は腕がいいので当然といえば当然だった。
「ブラッドダイア見つかるといいなー」
ブラッドダイアは、魔力の溜まりやすいところで精製される、血のように赤いダイアモンドに似た宝石だ。
見た目から宝石とされているが、正確には魔石の一種で、魔石としては最高位に位置する。
特に、ダンジョンの最深部で比較的見つかりやすいとされている。
とはいえ、かなり稀なため幻といわれていた。
まだ最深部まで到達されていない、大きなダンジョンならば可能性はあるといえた。
「ほら、無駄口叩いてないで行くぞ。リーダーが姫の様子を見て戻ってくるまで進めとかないとな」
「「へーい」」
暗殺集団は、全員で二十人程で、彼等は探索、地上待機、物資補給持ち帰りの三グループに分かれている。
それぞれが、ローテーションして進めていた。
ダンジョンは、一定階層に行くと、地上への転送装置があり、地上にある装置から行ったことのある階層へ戻れるという親切機能があった。
その階層になったら、交代していた。
「今到達してるのが、55階層だったか? どれくらいあるんだろうな」
「さあ? けど、その先は、罠も魔物もえげつなくて攻略がなかなか進められないみたいだな。Sランクパーティーなんだけどな」
「Sランクでも手こずるんだな」
ちなみに、リーダーは、冒険者としてのランクはAだが、実力的には、Sランクの上位にはいる。
暗殺集団の中にも、Sランクに匹敵する者が数名いた。
他の者はAランク相当の腕があるため、この暗殺集団は、プロ中のプロで一目置かれていたのだ。
一人の少女のために一芝居うち、解散ということになっているが、そのうち再結成することにしている。
「おーし、ボス部屋だぞー」
ボス部屋は、5階層ごとにあり、ボス部屋を通った先に地上への転送装置がある。
「ここのボスってゴブリンキングだろ? サクッとやろうぜ」
55階層までの情報は公になっているため、事前情報も集めていた。
ゴブリンキングとは、ゴブリンの最上位種であり、脅威的な存在とされているが、彼等にとってはただの雑魚にも等しい。
宣言通り、あっさりとゴブリンキングを倒した彼等は、転送装置の前に行く。
これから地上へ戻り、次のグループと交代するのだ。
「よし、戻るぞー」
20階層から地上へ戻る。
彼等が地上へ戻ると、次のグループが待機していた。
「おつかれー、んじゃ行ってくるわ」
「付き添いは俺が行くぜ、出発!」
その階層へ行くには、一度行った者がいないといけないため、戻ってきたばかりのうち一人が付き添いとして20階層へ行くことになった。
彼は、他のメンバーを送ったらすぐに戻ってくる手はずになっている。
そして、次のグループがダンジョンへ向かった。
それから、数日後、リーダーが帰ってきた頃には52階層まで進んでいた。
55階層まで進んだSランクパーティーは、攻略を諦めたらしくこのダンジョンを去っている。
57階層まで進んだそうだが、何人か死にかけたため中断せざるおえなかったようだ。
57階層までの情報は公開されているが、出てくる魔物も罠も厄介なものばかりだった。
そして、階層全てを網羅したわけではないため、行ったことの無いところの情報は無く、そこに新たな前や罠がある可能性がある。
「とはいえ、厄介なのは魔力感知の罠くらいか。後はどうにでもできる」
「少しでも魔力を感知したら発動する罠で、前触れも無くいきなり見たいですし、確かに厄介ですね、だいたいの場所はわかってますし、Sランクパーティーの通った道で行きますか?」
「そうだな、とれくらい階層があるかわからないし、無理に探索して全滅とかなったら良い笑いものだ」
「あはは、確かに。んじゃ、今攻略中のメンバーが帰ってきたら気合い入れていきましょうか、リーダー」
「それまでしっかり休んどけ」
リーダーの呼びかけに彼等は揃って返事をする。
そして二日後、55階層をクリアしたグループが帰ってきた。
さすがに無傷とはいかないものの、重傷者などはなかった。
「あー、まじやばい。あれやばいって、気持ち悪かったー」
他のメンバーもげっそりとしていた。
55階層のボスは、ギガコックローチ、台所やゴミ捨て場等に現れるアレの巨大バージョンで、ある程度戦うと、弾け飛び無数のアレに分裂して大群で襲いかかってくるという凶悪仕様。
どちらかというと、多大な精神的ダメージを与えてくる。
それを倒すのは方法としては簡単で、分裂したあと、奴等はひとかたまりになるため、そこを一気に広範囲技や魔法でたたく。
そうしないと、精神的ダメージか高すぎて戦いにすらならず、撤退を余儀なくされる。
ボス部屋は、始まっても入口から出ることが出来る、これもまた親切機能。
もちろん、ボス戦中は、入ることができない一方通行となる。
「うぅ、吐き気が・・・リーダー、俺達ちょっと死んできます」
「あぁ、存分に死んでこい」
ふらふらと、幽霊のようにダンジョン近くの宿屋へ向かうメンバー
彼等はしばらく悪夢に魘されることになる。
「広範囲火魔法が得意な奴がいてよかったですね。暗殺稼業だと使うことなんてないですし。まぁ、その代償が・・・むごい」
ぅっ・・・と、涙を流すメンバー、リーダーはこれは仕方ないと仲間達が落ち着くまでまつことにした。
直接行っていないメンバーにすらダメージを与えるとは、おそるべき世界の天敵である。
そして、しばらくして、リーダー達はダンジョンにはいっていった。
「よし、いまだやれ!」
「はい!」
リーダーの指示で斬りかかる仲間達、それにより60階層ボスのアーマーミノタウロスは倒された。
アーマーミノタウロスは、ミノタウロスの変異体の一種で、その名の通り鎧のような頑丈や皮膚を全身に持つミノタウロスであり、滅多に遭遇しないレアな上位種である。
「こんなものか。さて、次で転送装置の部屋だ。行くぞ」
とはいえ、暗殺術に長けた彼等は、気配を完全に消し、戸惑ったアーマーミノタウロスの背後から襲い、動きが止まった所で斬りかかれられ呆気なく倒された。
動きを止めたのはリーダーである。
彼は、即効性のある毒針を、皮膚鎧の僅かな隙間に差し込んでいた。
リーダーの後に続き、ボス部屋を出るが・・・
「む? 転送装置がない?」
「どういうことですかね」
「もしかして、転送装置の設置される階層が変わったとか? ほら、今までは5階層ごとだったけど、今度は10階層ごととか」
「「なるほど」」
「まぁ、いいだろう。ここは休憩所か? 水場があるし、木の実のなっている木もある」
そう、転送装置が無い代わりに、綺麗な水が溜まっている小さな泉があり、その傍には地上でも見る木の実をつけた木もあった。
その、木の実は、栄養価は高いがものすごくまずいものなのだが、食料が心許ない場合、若干ありがたく思えるだろう。
「これ、めちゃくちゃ不味いんですよねー、でも持って行きましょうか。たぶん次の転送装置まで食料もたないですし」
「不味いが、何度も食っただろう。いい加減慣れろ」
暗殺集団は、訓練と称したサバイバル経験も豊富なため、この実も何度か口にしたことがあった。
水を補給し、木の実を採る。
少し休憩してから、彼等は次の階層へおりていった。
そしてそこで、奇妙な二人の冒険者に出会った。
最初に見つけたのはリーダーである。
「待て。誰かいる」
「え、俺達以外にもですか? あー、確かに誰かいるような気配はしますね。さすがリーダー、よくわかりましたね」
その、誰かの所まではだいぶ距離がある。
大隊のメンバーは、まだ分からなかった。
「ゆっくり行くぞ。転送装置がないから俺達以外にもいる可能性はあるが、気配が2人してしかないのは奇妙だ。この階層では二人パーティーは自殺行為だが」
出てくる魔物も強くなり、そして罠も厄介になっている。
「実力がやたら高いか。か・・・」
それでも、二人なのは、かなりの実力の持ち主なのだろう。
Sランク上位の力は確実にあるとリーダーは見ていた。
だが、予想は大きく外れることになる。
人影が見えてきて、そこにいたのは
「あ。化け物だ」
リーダーは、呟いた。
リーダーは、ある程度相手の実力や素質がわかる。
彼は、今目にしている奇妙な二人組が、自分すら遠く及ばない化け物だと感じた。
何かを話していた二人がふりむいた。
「え、こども?」
メンバーの一人がポカンと言い放つ。
そこにいたのは、見たことの無い衣装を纏った黒髪に赤い瞳の少女と、銀髪で冷たい光を灯す水色の瞳の黒いコートを着た青年だった。
少女は、癖の無い長い黒髪を軽く払い、笑いながら言った。
「あー、やっときたな。待ちくたびれた」
リーダーは強いんですよー