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欠落王女と保護者達  作者: 夢月なつか
3/6

欠落王女の誕生

過去話。誘拐事件の時の話。





「また面倒な依頼だな」


 とある暗殺集団に舞い込んだ依頼。

 それを見て、男は毒づいた。


「ん? どうしたリーダー?」


 仲間の一人が興味津々に聞いてくる。


「あぁ、セントラール王国の王女を誘拐して殺してくれとさ」


 その言葉を聞いた仲間は、うへぇと嫌そうに顔をしかめた。

 

「王族関係はやりたくねーですよー、バレることはないでしょうけど」


「王族は、冒険者ギルドとも深い繋がりがあるからな。相当気合い入れないといけない」


「めんどくさー」


「全くだ」


 その話を聞いていた別の仲間が「でもやるんでしょ?」と聞いてきた。


「まぁ、依頼だし報酬もいいからな」


 リーダーの言葉に、彼等はやるべきことを言われなくても分かっているかのように動き始める。





 そして、決行の日。

 この日は近くの泉へ、王妃と王子達、王女は出かけることになっていた。

 十分な護衛と、影と呼ばれる暗部の者たちも連れて。

 

「うわ! キラキラしてて綺麗ですね母上」


 一番年上の第一王子が、日の光を反射して輝く泉を見て声を上げた。


「えぇ、そうね。ほら、リリーも見てみなさい」


 まだ乳児とも呼べる小さな王女を抱きかかえながら、王妃は泉へ近づいた。

 少し離れた所では、三兄弟が駆け回り、王妃の元へ戻ってくる。


「リリーリリー、ほらすっごく綺麗だよ! 見えてるかな?」


「リリー、ねちゃってるよー。おきろー」


 そんな兄弟達の声にリリーは目を覚ます。

 

「おきたー、リリー、ばぁ!」


 第三王子が、リリーにむかってすると、リリーはキャッキャと笑った。

 そんな平和な光景。

 だが、それが壊れるのは一瞬だった。


「さて、ちょっと待っててね」


 テーブルと椅子が用意され、リリーは四隅を囲まれた簡易ベッドに寝かされる。

 その時、コロンと何かが複数転がり込んだ。

 護衛や影達が気づき、そちらに意識をむけた瞬間


「あら? リリー?」


 その王妃の言葉に、護衛達は失態を認識した。

 一瞬とはいえ、意識をそらしてしまい、逸らさなかったものも、王妃と王子達を優先にしてしまい、幼い王女から一瞬でも逸らしてしまった。

 

 幼い王女は、手練れと思われる者に攫われてしまった。





「あっさり上手くいきましたね」


「あぁ、あの国は大丈夫か?」


 最初に投げ入れたのは、ガラス玉だ。

 それで多少は王女から目が離れると思ったが、それだけで上手くいくとは、思わなかった。

 この国の王妃や、次期国王ともなる王子達を優先するのは仕方ないが、だからといって完全に目を離したらダメだろう。

 王女は、誘拐した瞬間眠らせているため静かだ。

 

「で、次はその王女を殺すんでしたっけ?」


「あぁ、そうだ」


 すやすやと眠る王女は、リーダーが抱えている。

 ある程度離れたところで、立ち止まり、仲間達も集まる。

 リーダーはナイフを取り出した。


「あー、さすがにこんな、小さい子供だと罪悪感が」


 仲間の一人が手を顔で覆い隠した。


「仕事だ」


 リーダーは、そう言ってナイフを振り下ろし・・・


「う? んぎぁぁぁ」


「「ちょっ」」


 起きて泣きわめく王女に驚く。

 それもそのはず、こんな早く効果が切れるわけはないのだ。


「リーダー! 起きちゃいましたよ!」


「ふむ」


 リーダーは、泣きわめく子供を見下ろし、ナイフをしまった。


「よし、こいつなかなか見込みがありそうだ。依頼人には、適当にごまかして殺したことにしよう」


「ん? と、いうと?」


「このお姫様を育てるぞ。立派な暗殺者としてな!」


「「えぇぇぇぇ!!」」


 そのリーダーの言葉に、仲間達は驚きの声を上げた。


「生まれつき、状態異常に耐性がある奴がいるんだが、このお姫様はそれだろう。魔力も高いし、素質はあるはずだ。ほらお前ら、いつまでも驚いてないで子供用品を揃えてこい!」


「「イエッサー!!!」」


 バッと散っていく仲間達。

 残ったリーダーは、泣きわめく子供を、慣れた手つきであやしながら隠れ家に戻っていった。


「孤児院にいたころ、ガキ共の相手をしてたことか役に立つ日がくるとは・・・くくく、さぁ、立派な暗殺者になれよ」





 こうして、暗殺集団の子育てが始まった。

 リリーは、姫と呼ばれて、厳しくも愛情たっぷりに育てられた。

 幼少から厳しくし過ぎて、表情筋と目が死んでしまったのは、皆後悔する共通事項であったが。


「リーダー、姫のやつ、無表情で光が消えた目で笑ってたんすよ。めちゃくちゃ怖かったんですけど」


「俺達は子育て集団じゃない、暗殺集団だ。姫があまりに物覚えがよすぎて知らず知らず厳しくし過ぎたな。だが、反省はしていない」


「後悔は?」


「すごくしている」


「まぁ、いつか普通の表情になってくるといいですねー」


「そうだな」


 そんな会話から、しばらくして、暗殺集団は壊滅し、生き残った仲間達はちりじりになった。


 と、ギルドには報告されているが・・・


 実際は、冒険者や浮浪者を巻き込んだ全て自作自演だった。

 暗殺集団の仲間達は全員生き残っている。

 死んだのは、金に釣られ、暗殺者の格好をした者たちだ。

 そして、冒険者は本物を使っているが、そのまとめ役をしていたのが、暗殺集団のリーダーである。

 彼は、冒険者としての一面ももっており、Aランクの実力をもっている。

 

「この死んだ奴ら、あんまり手応えなかったですね」


「おそらく新米だろう。集団といえには、実力も上から下まで様々なんだろう。逃げたのは追うな。おそらく、手練れだ」


 そうして、うまく冒険者達をまとめ、本当の暗殺集団を追わせることなく、暗殺集団壊滅の依頼は完了したといえことになった。

 

「で、その後ろにいる子供はなんですか?」


「暗殺集団にまざっていたんだよ。こんな子供がおかしいだろ? ギルドマスターの支持を仰ぐ」


「そうですね。なんか、不気味ですね。あんなやつらのところにいたせいか心が閉ざされてるんですかね」


「さぁな。ほら、行くぞ」


 手を引かれて少女は頷く。

 この茶番をしたのは、この立派に育った少女を帰そうと思ったためだった。

 なぜかと言われれば、少女の将来を見据えてのことだった。


 暗殺集団は、お姫様が大好きなある意味残念な人たちだったのだ。

 

 



 そうして、行方不明の王女が帰還し、五年後隣国へ嫁いでいった。





 

うっかり厳しくしすぎてしまったために起きた悲劇。

暗殺集団にまともな子育ては無理だったって話でした。


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