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欠落王女と保護者達  作者: 夢月なつか
2/6

欠落王女の結婚

脳筋万歳




 リリーが戻ってきてから五年が経った。

 十五歳になったリリーにも、婚約者を用意しなければならないが、なんせ幼い頃の過酷な環境により、表情筋も瞳も死んでいるのだ。

 進んで婚約したいというものはいない。

 とはいえ、こちらから言えば拒否はできないので、相手はよく選ばなければならない。

 

 さて、どうしたものか。


 と、娘の将来について考えていた家族でのお茶会の場にて事件は起きた。


「父上」


「なんだリリー」


「婚約者ができました」


「ふむ、そうか」


 ・・・


「「ぶはぁぁあ」」


 私と息子達は紅茶を吹き出してしまい、盛大にむせ込む。

 く、ゲホゲホッ ムセというのはやっかいな!


「まぁ、よかったわねリリー」


 そして妻よ、何故冷静に嬉しそうなのだ!

 ゲホゲホ


「ゲホゲホ、うぅ、げほっ。り、りりー、何を突然・・・」


「父上、いつの間にすすめてたんですか!」


「私はしらん!」


「落ち着け、父上や母上の様子からリリーの独断だろう」


 長男が三男をなだめ、次男は、まだむせ込んでいる。


「リリー、詳細を」


 まずはリリーの話を聞かねばなるまい。

 次男よ、いい加減落ち着け。

 

「けほけほ・・・あー、びっくりした。ごめん、続けて」


 息子達も席に座り直し、リリーは相変わらずの無表情で淡々と言う。


「奴との勝負に負けたので、奴の求婚を受けることにしました。奴とは、前からそういう約束だったので」


 〝奴〟というのは、リリーが定期的に何かをしてきた相手だろう。

 やってくる。と、リリーは言っていた。

 戦ってくるという意味だったのだな。

 そして、問題が〝奴〟

 そいつは男で、リリーとの勝負に勝ったら求婚できるとか、そういう約束だったのだろう。

 しかし、問題が〝前から〟と言っていた。


「リリー、前からというのはいつからなんだい?」


 我が長男も疑問に思ったのだろう、リリーはその問いにやはり淡々と


「私がここに来る一年ほど前、魔物に襲われてる馬車を助けたら奴がいて、いきなり結婚してくれと言われたので、殴り飛ばしてナイフで地面に服を縫い止めたのはよかったのですが」


「「過剰防衛・・・」」


「さすがリリーね」


 妻よ・・・


「『俺が勝ったら求婚を受け入れてもらう!』と。勝手に場所と日にちを指定きたので、その後リーダーに聞いたら、面白そうだから、相手をしてやれと言われたので、定期的に勝負をしてきました。こちらに、戻ってからは忙しくて、しばらく勝負できないことを伝え、落ち着いたときに勝負を再開し、今日負けました。真っ向勝負から、手段を問わない卑怯な手を使うようになって、実を結んだようです」


 うむ!何から突っ込んでよいやら。


「あらあらまぁまぁ、そんなに嬉しそうに照れちゃって! で、そのあなたを手段を問わない手で負かしたのは誰なのかしら?」


 ・・・そうか、娘は自分をどんな手段であれ負かしたのが嬉しくて、照れているという妻の言葉から、まんざらでもないのだろう。

 しかし、相手が誰なのか。

 娘は、馬車を助けたらといっていたが、その馬車が乗り合いのものなのか、貴族がつかうようなものなのか。

 娘をもらってくれるならよほど問題のある相手でなけらば平民でもなんでもいいのだが。


「隣国、サーガナラの第一王子です」


「「ぶほっ」」


 さすがに、妻も驚いている。

 まさかの隣国の王子か、サーガナラとは良くも悪くもない関係の国だ。


「サーガナラの第一王子というと、リュークといったわね。リューク殿下は、文武両道て優秀だと聞いているけど、婚約者の話は出てなかったわね。リリーに夢中だったからなのね。素晴らしいじゃない! ね?」


「うむ、全くもって問題ない。だが、サーガナラの王が許すかどうかだが・・・」


「父上の許可ももらってるし、問題ない。と、言ってました。早いうちにこちらに来るそうです」


 なんとも手際のいい。

 どうやら、本気でリリーを迎えたいらしい。


「これで、サーガナラとは良い関係が築けそうですね。父上」


「うむ、まずは話しが終わってからだな」


 しかし、相手は、なぜリリーに求婚したのか。

 その辺も聞いてみなければならないな。





 それから一ヶ月後、私の前には、隣国サーガナラの王とその王子がいた。

 内容が内容なので、場所をうつしている。

 ここは、私と妻とリリー、サーガナラ王と王子しかいない。

 

「此度は、我が愚息が申し訳なかった。リュークが定期的に出かけては生傷を作ってくるから、最初は魔物と戦ってるのだろうと思っていたが、後々に、女の子と勝負している。勝ったら求婚する。と聞いてな。何をバカなとおもっていたのだが、どうやら本気らしいと悟り、それならばと許可をだしたのだ。相手が隣国の王女とは思わなかったが・・・」


「そうであったか。こちらも、相手の事をリリーから聞いたのは最近でな。定期的に『奴をやってくる』と言っては出かけてしまい・・・リリーは諸事情上、かなり腕が立つので心配はしていなかったが、まさかリューク殿下と勝負をしていたとは」


 心配していたのは最初だけだ。

 なぜなら、あまりにあっさりと無傷で戻ってくるのでな。

 お互い、子供に振り回されたのだな・・・


 私達は無言で握手をしっかりとかわした。


「娘を頼む」


「こいつもバカではない。必ず幸せにさせよう」


 そして、一部始終を見ていた妻が、にこにこと穏やかに笑いつつ


「よかったわね、リリー。幸せになるのよ」


「はい、母上」


「お前となら俺はやれる! どんな手段を使ってもお前と国を幸せにしてやる」

 

「末永くよろしく」


 丸く収まったようでなによりだ。

 だが、私はまだ聞いていないことがある。


「さて、私達は家族となるわけだが、リュークよ、なぜリリーだったのだ?」


 リリーは、表情筋と目が死んでいる以外は、完璧な王女だ。

 だが、欠落しているところで、難儀していた。

 しかし、この男は初対面で結婚を申し出たという。


「あの、容赦ない攻撃の数々、それでいてどことなく優雅で無駄も隙もない。その戦闘技術に惚れて、さらに可愛いとくれば求婚する以外ないでしょう。まさに、運命でした。表情とか目に光がないとなどうでもいいんです」


「そうか、そうか! 娘のよさを完璧にわかってくれる者がいたか! よかったなリリー、正直、国内での縁談は絶望的だったのだ。お前に相応し相手になるだろう」


「うふふふ、リリーも照れちゃって可愛らしいわ」


「「照れているのか」」


「くっ、俺もリリーの感情読みをマスターしなければ!」


 むう、やはり、リリーは、いつも通り無表情にしかみえん。

 私の妻はほんとうになぜわかるのか。

 これが母の力とやらか?

 だとすれば、父の力をもって、私も絶対に感情読みを会得しなければ!

 

 リリーは近いうちに隣国へ行ってしまうから、いつ会得できるかわからんな・・・


 この国に戻ってきて五年だというのに。

 おのれ、暗殺集団め、生き残見つけたらただじゃおかんぞ!





 そして一年後、隣国にて盛大な結婚式がおこなわれた。

 もちろん、私達もよばれている。

 リリーよ、やはり表情筋と目は死んだままなのだな。

 だが、民衆の歓迎ぶりがすごいのだが、これは一体・・・


 聞いたところ、リリーが隣国へ婚約者として向かってから一年ほどで、城下へ降りて色々慈善事業をリュークと行ったらしい。

 そして、人身売買や違法な奴隷、盗賊団の壊滅や犯罪撲滅にむけて精力的に、自ら動いたのが、知れ渡り、国民から絶大な支持を受けたという。

 さらに、国に巣くう膿を取り除くのに一役買ったとか。

 リリーよ、有能すぎて父は嬉しいぞ!

 

 リリーがいうには、国の暗部がダメダメだったらしいから、鍛えるついでにやったらしいがな。


 うちの奴らも、リリーのおかげでかなり腕を上げたからな。

 もう、王女とはなんぞやという感じだが、リリーだからよしとしよう。

 



******





 結婚式の日の夜更け、リリーは、こっそりと王城を抜け出していた。


「あのパレードの最中でも気づけたか。腕はおちていないようだな」


 誰もいない影から、一人の男がでてきた。

 リリーは驚きもせずに、うなずく。


「お久しぶりです。リーダー」


「くっくっく、解散してからお前の様子を、たまに見ていたが、気づいていたのはお前だけだったな。まぁ、今のセントラールの暗部は少しはマシになったようだが」


「がんばりました」


「しかし、お前が結婚とは。これには驚いたぞ。さて、祝いの品だ」


 無造作に渡されたのは、手の平大の箱だった。


「仲間達と用意したものだ。苦労したぞ」


 どこか楽しそうにいう男に、リリーは驚く。

 とはいえ、表情は変わらないが。

 暗殺集団のリーダーは、暗殺者としても〝冒険者〟としても優秀で、そのリーダーや仲間達が苦労した代物。

 小箱を開けると・・・


「これはまさか、ブラッドダイアですか? よくこんなものを手に入れられましたね」


「お前も女だし、いつかくる時のために、解散後集まって探したんだよ。お前の様子を見つつな。これは、ダンジョンのもっとも魔力が集まる最深部にしか存在しない幻とも言われる宝石。あぁ、仲間達は皆生きている。死にかけた者もいたが・・・実は面白い冒険者がいてな、そいつらと行ったんだよ。おかげで目的のものを見つけれた」


「面白い冒険者?」


「くく、その話はまた後でしてやろう。そろそろ戻れ」


 リリーは、その話をききたかったが、確かに戻らないとまずい時間なので、言うとおりにする。


「ては、また」


「あぁ、王妃修行はげめよ。あと子供もな」


「わかってます」


 照れながらリリーは城へ戻る。

 無表情だったが。

 そんなリリーを見送り、男は「俺達の姫を不幸せにしたら皆殺しだぞ」と、城に向かって呟き、音もなく消えた。


 




兄弟王子達の影が薄すぎですね。

まだ続きます。


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