欠落王女の秘密
軽いノリで書いた代物。
国王視点
「父上、奴とやってきます」
それだけ言って、我が娘はシュンッという感じで消えてしまった。
「って、ちょっとまてリリー! 奴ってなんだやってくるって何をだ!」
そんな私の声は勿論、届かず。
影達に命じて後を追うようにしたが、果たして追いつけるか・・・
なんせ、我が娘のセントラール王国第一王女のリリーは、暗殺術が超一流という、我が国の暗部を担うトップもびっくりの技術をもっているのだ。
リリーは、物心着く前に誘拐され行方不明となっていた。
どんなに手を尽くしても見つからず、生存すら危ぶまれ、諦めかけた数年後、冒険者ギルドから、王族の特徴をもった少女を保護したと連絡があった。
すぐにギルドマスターと、保護した冒険者、そして保護された少女を城へよび、確かめた。
そこにいたのは、数年ぶりでも見間違いようのない我が国の王女がいた。
あの時は歓喜にふるえたが、娘は重大なものを失っていた。
あの天使のような豊かな表情は無くなり、キラキラ輝いていた瞳から光は消え、精巧な人形のようだったのだ。
誘拐したのは、世界でも有名な暗殺集団で、娘はその暗殺集団に育てられてしまった。
本来は、誘拐したうえで殺すのが依頼だったようだが、娘の才能を見抜いた暗殺集団のリーダーが殺したことにして生かして育てていたらしい。
その暗殺集団は、手練れの冒険者達により壊滅状態に陥り、リーダーを含めた生き残りはどこかへと消えてしまったという。
その戦闘の時、幼い少女がいたのがおかしく思いなんとか保護できたとギルドから、と保護した冒険者が言っていた。
その時、娘を暗殺集団に依頼した人物も教えてもらい、その人物は早急に処罰でき、娘も戻ってきたのだが・・・
困ったのはその後だった。
娘はとても優秀で、王女としての知識やマナー等をみるみるうちに吸収し、王女としては完璧だった。
だが、感情や表情、瞳の輝きは戻らず、淡々とこなす王女に教師やメイド達が、その様子に恐れ、王女付きを辞めたいと言い出してきた。
別の者にしても長く続く者はおらず、王妃付きの超ベテランな者に頼むことになった。
王妃である妻は、娘のためならと、喜んでいたが。
ついでに、逃げ出した者たちをまとめて引き取り、厳しくしつけもとい教育すると言い出した。
妻なら上手くやるだろうと任せたが、その引き取られた者たちが人格が変わったかのように従事しているのを見ると、任せてよかったのか疑問に残る。
そんなこと言わないが。言えないでなく言わない。
そんなわけで、娘には超ベテランな者たちがつくことになり、一件落着かと思っていた矢先に、突然のわけのわからない宣言。
「一体どうすればいいのだ・・・」
とりあえずは、影達の報告を待つか、娘のリリーが戻ってくるのを待つかしかできないが。
「あらあら、どうなさったのですか?」
「リーズアンヌ・・・リリーが、奴とやってくると言ってどこかへ言ってしまったのだよ。影達に追わせているが・・・」
息子三人に娘一人を産んだとは思えない程の美しさと若々しさを保つ我が妻リーズアンヌ。
彼女はにこにこと穏やかに微笑みながら私に言った。
「そういえば、リリーはこのところとても嬉しそうにしてましたわ。それと関係があるかもしれませんわね」
・・・。
嬉しそうに・・・?
「嬉しそうにしていたのか?」
「えぇ、あなたもいい加減娘の様子くらい分かったらどうですか? あんなに分かり易いのに、あなたも息子達も・・・」
もぅっと、頬を膨らませる妻も可愛らしいが、それよりもリーズアンヌのリリーに対する感情読み・・・妻よ、なぜわかるのだ。
私も息子達も頑張っているが、あの鉄壁の表情と死んだ瞳の前に敗北しているぞ・・・
その事を言うと、愛が足りないのよ! と妻はいつもいう。
私だってリリーのことは愛しているぞ、と言いたい。
実際娘も息子達も愛している。
だからこそ、リリーがどこへ何しに行ったのか心配なのだ。
まぁ、なにがあってもリリーほどの腕前なら大丈夫とおもうが、それでも心配と思うのはしかたあるまい。
「リリーが戻ってきてから三年、たまに外に出ていたし、友人とかできたとか、なのかしら? 暗殺仲間と再会していたとかは嫌だけど、影達も途中でいつも撒かれてしまうし分からないわね」
嫌味などではなく、単純な事実。
我が国の影達は優秀だが、リリーの能力がそれを上回っているのだ。
おかけで、最初の頃は、奴らは年下の少女の能力に己のプライドがズタズタになってしまったが、そのうち、リリーの能力の高さを認め、少しでも追いつけるようにと訓練にも勢いがついた。
いまでは、リリーを暗部のトップに是非と嘆願がくるほどだ。
実は、私よりも忠誠が厚いのではないか?と思っている。
リリーがこっそり影達を特訓してたりしないだろうな・・・?
「あなた、ぼーとして考え事ですか?」
「あぁ、いや。大丈夫だ。リリーが戻ってきたら聞いてみるか」
「それがいいですわ。リリーは賢いですから危険なことや不利益になるようなことはしないでしょう」
うふふと、妻は穏やかな笑みを浮かべる。
やはり妻には癒されるな!
そして、リリーが帰ってきたのは三時間程後だった。
「父上、奴をやってきました」
「いや、だから奴ってなんなのだ娘よ」
「奴は奴です。再戦もしますが、問題ありません」
「問題だらけだからな? せめて影達を撒くのはやめてくれ」
「それは彼等の腕次第かと」
娘よ・・・一体なにを抱え込んでいるのだ。
後、今回も追いつけなかったから練習量倍ね。とか、やはりお前は奴らを訓練していたのか。
「あら、お帰りなさいリリー、まぁまぁ、随分楽しそうね!」
楽しそうと妻のリーズアンヌはいうが、私には全くわからん。
娘は、真顔で「次があるので」と言う。
それは、次があるから楽しみだということか?
「怪我も無いみたいだし、危険じゃなければいいわ。さ、ドレスに着替えてらっしゃい。そんな黒ずくめの服は王女としては相応しくないわ」
「はい、母上。すぐに着替えてきます」
「そしたらお茶にしましょう。美味しそうなお菓子をシェフが作ったのよ」
「楽しみです」
「うふふ、そんなに喜んじゃって」
あぁ、リリーは喜んでいるのか。
そういえば、甘い物を食べるスピードは速かったな。
ふむ、今度王都で美味しい菓子でも買ってこさせるか。
王都は広いからな。知られていない穴場的な店も多いはず。
「では、リリーもいきましたし、わたくしも行きますわね」
「む、あぁ。楽しむといい」
「ありがとうこざいます」
うふふふと、実に楽しそうにリーズアンヌは行ってしまった。
さて、リリーの件はもう仕方ないからおいとくとして、仕事しなければ・・・
それからも、リリーは定期的に〝奴〟とやらをやってくると、でかけていった。
その〝奴〟がなんなのか、それを知るのは二年後のことだった。