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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

双子王女との恋奏冒険記 外伝1『エルフの少女が願った場所』

作者: 雅國

この物語は連載中の「双子王女との恋奏冒険記」の外伝です。


人物の詳細につきましては本編を読んで頂けたらなと思います。

「おにいちゃん、あったかいね」

「りしあはあまえんぼうだね」

「だっておにいちゃんといっしょにいたいんだもん」


 似ていない二人の兄妹が一つのベッドで仲良く寝ていた。


「りしあはひとりでねれないの?」

「ねれるよ。でもおにいちゃんといっしょにねたいの」

「そっか、それならしょうがないね」

「うん!」

 

 女の子は兄に抱き付きながら寝息を立て始める。

 そして、この光景を見ていた意識は覚醒していった。





「ん、ん?・・・・えっと、夢?」

 リシアはベッドの上で目を覚ます。

「そっか、兄さんのベッドで寝たんだっけ」

 周りを見渡すといつもの部屋ではないことを思い出す。

 昨日、兄であるシオンは双子の王女のリィナとレィナと共に旅立って行った。

 リシアは寂しくなりシオンのベッドで寝たのだ。


「懐かしい夢だったなぁ」

 リシアは幼い頃、兄であるシオンと一緒に良く寝ていたのだ。


「さてと、そろそろ起きようかな」

 リシアはシオンの部屋を出て、自分の部屋に着替えに行く。


「リシア!起きたのなら少し手伝ってもらってもいい?」

「わかった、着替えたら行く」

 台所から母親のリーティンの声が響いた。

 リシアも早く手伝ってあげるために、いつものエルフの服に着替える。

「おまたせ」

「リシアはこれお願いしてもいい?」

「うん」

 頼まれたのはサラダの盛り付け、リシアは簡単な料理なら出来るが、凝ったものはまだ作れないでいた。


「出来たら持っていっていいから」

「はーい」

 リシアのシオンがいない日常がこうして始まった。



「リシアは今日はどうするの?」

 リーティンが尋ねてきた。

「兄さんに負けないように精霊魔法の特訓をするつもりだけど」

 リシアはシオンに家族や里の皆を守ってほしいと頼まれた。

 リシアはそのために強くなろうとしていた。

「もし、森の中に入るのなら、山菜とかあったら取ってきてもらってもいい?」

「うん、いいよ」

 朝食を食べたながら、親子二人は今日の予定の確認をする。




「じゃ、いってきます」

「気を付けてね」


 リシアはシオンといつも一緒に修行していた森の広場に行く。

 そこに行くまでの道のりはすでに体が覚えており、足が自然とそちらに向かって行く。


「ふぅー・・・」


 修行場所に到着したリシアは呼吸を整え、自分の中のマナを制御するイメージをする。


 精霊魔法は魔法に必要な詠唱も魔法陣もいらない。

 必要なのは己のマナを感じ取り、制御し、イメージすること。

 魔法の詠唱とは違い、イメージで発動するので応用性が高い魔法だ。

 ただ、使える種族はマナを多く持つエルフ族を始め、獣人族や妖精族といった人間族以外の種族だ。

 リシアの兄であるシオンは人間族でありながら魔法で必要な魔力を宿していなく、精霊魔法で必要なマナしか宿していないので、逆に精霊魔法しか使えない。


 リシアにとってシオンは兄であると同時に精霊魔法の師匠でもあった。

 いつもはシオンと一緒に修行をするのだが、昨日シオンは旅立ってしまったのでリシア一人きりだ。


「・・・ダメだ。兄さんがいないと集中できない」


 リシアは兄であるシオンに恋心を寄せていた。

 兄とはいえ種族が違うので義理の兄だ。

 幼い頃からリシアはシオンの後ろを追いかけるようにして生きて来た。

 今はその追いかける背中が遠くなってしまって、集中が出来ないでいた。


「ううん、兄さんがいないからって集中できないんじゃ、里を守れない」

 シオンが旅に出る時にリシアは里を守ると約束をしたのだ。


「あ、そうだ。この剣も使えるようにしないと」


 そう言って取り出したのはシオンが作った魔法剣だ。

 シオンが旅立つ時にリシアがもらったものだ。

 これには特殊なマナが宿してある精霊石をはめ込んである。

 だから、この剣を介しての精霊魔法は使えないが、ただの剣として振る練習を始める。


「っとと、いつも短剣しか使わないから結構重く感じるかも」

 リシアは魔法剣を振りながら呟いた。

「でも!兄さんはこれで戦ってたんだから!私にも出来るはず!!」

 リシアはそう声を出し素振りを続けた。



「お!リシアちゃんじゃないか」

 そこへ里の警備隊の隊長である獣人のリカードが通りかかった。

「あ、リカードさん、おはようございます」

「おう!おはよう。そいつはシオンの剣か?」

「はい、そうですよ」

 リカードはシオンも働いていた警備隊の隊長であるため、シオンの魔法剣のことも知っていた。

「ちっと俺にも振らせてもらっていいか?シオンの奴に頼んでもなかなか振らせてもらえなくてよ」

「はい、いいですよ」

 リシアはリカードに剣を渡した。

「お!意外と軽いんだな。これぐらい軽けりゃ・・・」


 リカードはそこら辺りに落ちている小石を持った。

 それを軽く上に投げる。

 そして、正眼の構えで剣を構える。


「ふっ!」


 リシアの目の前で風が吹いた。

 そして追ってきた小石は四つに割れていた。


「あ、あれ?二回振ったんですか?」

「そうだが・・・見えてなかったか?」

 リカードは当たり前のように言った。

「一回風が通り過ぎたぐらいにしか分からなかったです」

「俺もまだまだ捨てたもんじゃないってことだな。シオンと模擬戦やると負けちまうことの方が多かったからな」

「そうなのですか?以前は兄さんが負けていたような」

「そいつはまだ警備隊にあいつが入った頃の話だ。入った後、半年ぐらいで俺は勝てなくなったからな」

「そうだったんですか!?」

 リシアは最初の試合しか見ていなかったのだ。

 その時のリカードの剣技は圧倒的でシオンがそんなすぐに勝てるようになっているとは思っていなかったのだ。


「そうだ、リシアちゃんはウチに入る気はあるのかい?」

「ウチっていうと警備隊ですよね?」

「そうだ。リシアちゃんの実力なら文句いうやつはいないと思うが」

「そうですね・・・。お手伝いで良ければいいですけど」

「それでかまわない。意外とシオンが抜けた穴が大きくてな。困っていたんだ」

 リカードは時間が空いたら警備隊の詰め所に顔を出すように言って、警備に戻っていった。



「警備隊・・・か。でも私はまだまだ弱い。もっと強くならないと」

 リシアはそう言って剣の素振りを再開した。



 お昼前に山菜を取りに行ってリシアは自宅へと帰った。


「ただいま」

「おかえりなさい」

「これ山菜ね」

「リシア、ありがとう。結構量が取れたのね」

「うん、いいところを見つけたから」

「そうなのね」

 リーティンはそう言って保管庫の中に山菜を入れた。


「これは夕飯に取っておくとして、お昼はパンを焼いたからこれで食べましょう」

「うん!母さんのパンおいしいから好き!」

「ふふ、ありがと」

 二人はお昼を食べ始めた。




 昼食後は警備隊の詰め所をリシアは訪れていた。


「こんにちは」

「おう!リシアちゃん、いらっしゃい」

「お!リシアちゃん。相変わらず可愛いね」

「ありがとうございます」

「隊長!今日手伝ってくれるかもしれない人ってリシアちゃんなんですか!?」

「そうだ。シオンの代わりに手伝ってくれるらしい」


『おおおおー!!』


 詰め所に残っていた10人もいない男達は歓声を上げた。

「えっと・・・」

 リシアは里の中でも可愛い部類に入り、精霊魔法もかなり上位に入る。

 性格も良く、老若男女誰とでも接してくれる。

 里では人気がある人だったりする。


「リシアちゃん、悪いな。ちょっと待っててくれ。おい!!お前ら!!ちっとは落ち着け!!」

「あははは・・・」

 リシアはそんなやり取りを苦笑いで見ていた。



「待たせたな、リシアちゃん」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

「リシアちゃんは精霊魔法が得意だよな?」

「はい、特に水の精霊魔法は得意です」

「ならこの辺りの水脈を見てくれねぇか?」

「水脈ですか?」

 リカードは里から少し離れた場所の小川を地図で指差した。

「ああ、俺は・・・というより警備隊の者は基本的に肉体で戦う奴ばっかでな。精霊魔法が得意な奴がいねぇんだ」

「そういうことですか。わかりました。この辺りなら何回か行ったこともありますし、今日中に行ってきますね」

「ああ、それは助かる」

「では行ってきますね」

 リシアが詰め所から出ようとすると


「え?一人で行くのか?」

「え?一人で行くのではないのですか?」

 リシアはてっきり一人で調べるのだと思っていた。

「いや・・・まぁ、リシアちゃんなら大丈夫か?」

 リカードは少し考えてから結論を出した。

「うん、リシアちゃんなら大丈夫か。でも何かあったらすぐに逃げろよ」

「わかってますって。では行ってきます」


 リシアは示された小川を目指して歩き出すのだった。




「えっと・・・確かこの辺りだと思ったけど」

 リシアはリカードに示された小川の辺りに来ていた。

 しかし、見た感じはどこにも異常が見られない。


「そういえば何がおかしいのか聞くの忘れてた」

 リシアは一つ重大なことに気付いてしまった。


「でも、リカードさん達が言うにはマナや精霊関連のことのはず」

 リシアはそう考え、精神を集中して周りのマナを知覚出来るようにする。


「・・・・・・・」


 リシアはゆっくり歩きながら辺りを視る。

 自然のエネルギーであるマナはそこら中に溢れている。

 特に里がある精霊の森と呼ばれるこの場所はマナが濃いのだ。


「あれ?何だろう」

 リシアは不自然なマナの流れを見つけた。

 それは小川の水が一部地面の下へと落ちるように流れ落ちているのだ。

「地下空間でもあるの?」

 しかし、その流れ落ちる水の量は多くはなく、よく見ないと気付かないほどだ。


「こんなところに地下なんてあるの?」

 リシアは自分が立つ場所の地面をトントンと足で叩いてみる。


 パカッ


「え?」

 突然、口が開くように地面が割れたのだ。


「嘘でしょー!!!」


 足場が無くなったリシアはそのまま落ちていった。

 そして、その口は自然と閉じてしまった。





「いたたた・・・っていうほど痛くない?」

 リシアは打ったお尻を撫でながら立ち上がる。

「いたっ!天井が低いのね」

 リシアは中腰になり頭をぶつけないように気を付ける。


「それにしても穴の中にしては明るい・・・。これは苔?」

 洞窟内を照らしているのは苔の一種だ。

「ん~・・・足跡も結構あるのね。子供の足跡かな」

 リシアは狭い洞窟内を進み始めた。

 すると奥に少し広い空間にでた。


「まるで秘密基地ね」

 リシアがその空間を見てそう思った。


 そしてその空間の中に一つの箱を見つける。

「ん?これって・・・」

 それは見覚えがある箱だった。

「確かこれは兄さんと一緒に隠した宝物箱」

 この箱は昔、まだリシアとシオンが幼い頃、二人で森で遊んでいる時にお互いの大事な物を箱に入れて、何年後か、二人で開けようと約束をしていたものだった。

「でもこれはもっと広い隠し部屋に・・・あれ?」

 今はリシアはこれを隠した頃より成長している。

 当時は広かった空間も今では狭く感じるのは不思議ではない。


「私と兄さんの隠し部屋?でも入口はあんな所じゃなかったはず」

 リシアは少し混乱してきた。


「・・・・・・」

 リシアは箱を開けてみることにした。

 その中には何かの木の実や石ころといったガラクタが入っていた。

「これ入れたの兄さんかな」

 リシアは笑いながら箱の中身を見ていく。

「そういえば私は何を入れたんだっけ?」

 リシアは箱の中を見ていくと小さな紙切れを見つける。

 くしゃくしゃになっていたので、破かないようにそれを開くと歪な輪っかが二つ入っていた。

 そして紙の方にも暗号のようなものが書いてあった。

「・・・私が書いた字だ」

 リシアは徐々に記憶が戻ってきた。

「この頃から兄さんが好きだったんだ」

 幼い自分の恋心を知った瞬間だった。

 歪な輪っかは子供が作った指輪、それも自分とシオンの。

 紙に書いてあったのは幼い自分がどれくらいシオンのことが好きだったかの記録のようなもの。

 シオンのどんなところがいいとか、たくさん書いてあったのだ。


「でもなんでリカードさんはこの辺りに異常があるって言ったのかな」

 リシアはそこが疑問だった。

 しかし、少し考えていたら何となく結論が見えた。


「この空間自体が歪なんだ」

 リィナはマナの流れを見てみるとこの空間にマナが一切存在していなかった。

 マナは自然エネルギーのようなもの。

 それは地下だろうが空だろうが海だろうがどこにだってある。

 だがここにはそれがなかった。


「ここは私の願いが創った場所。兄さんと二人きりになりたいと願ってできた場所なんだ」

 リシアがそう確信すると空間が歪み始めた。

 そして何かが割れる音が響く。

 次の瞬間、辺りは真っ白に染まっていくのだった。




「ん・・ん?」

 リシアが目を覚ますとそこは小川の近くだった。

 辺りは暗くなっており、水の流れる音と風で木々が揺れる音や虫の声しか聞こえなかった。


「・・・帰らなきゃ!!」

 リシアはいつも陽が暮れる前には家に帰るようにしている。

 母親のリーティンに心配を掛けないためだ。


「あれ?」

 リシアは手に何かを握っているのに気付く。

「ゆび・・・わ?」

 それは子供が作ったような歪な形をした指輪だった。

「夢じゃなかったのかな」

 その答えを知る者は誰もいない。


 これはリシアの想いが生んだ一つの夢なのかもしれないのだから。


「リシアー!!いるかー!!」

 遠くからリカードの声がした。

 恐らく帰らないリシアを探しに来たのだろう。


「こっちでーす!!」

 リシアは声に向かって返事をする。

「お!いたぞ!!無事だったか?」

 リカードは誰かに呼びかけ、こっちに向かって叫んだ。


 リシアはリカードのいる方へ歩き出す。


 途中リシアは何かに引っ張られる様に後ろを振り返った。


 そこには一瞬だが二人の子供が手を繋いで歩いていた。

 そして、お互いの指には歪な指輪がはめられているように見えた。


「・・・・・・・」

 リシアはその子供達に目を奪われる。


「リシアー!!」

「っ!」

 リシアを呼ぶ声に気付き、前へと再び歩き出す。

 もう一度振り返るとそこにはもう誰もいなかった。


 そして、リシアの手には歪な指輪だけが残っていた。




 翌日からリシアのマナに変化が起きていた。

「何・・・これ?」

 リシアはいつものように精霊魔法の特訓をしていた。

 いつも制御できるマナを大きく上回っていたのだ。

 試しに精霊魔法を使うと今までの精霊魔法とは大きな差があるのは一目瞭然だった。

「昨日のあの夢のせいかな?」

 リシアは昨日の出来事は夢だと考えることにしていた。



 例のあの歪な形をした指輪はリシアの部屋に大事にしまってあるのだった。

今後も本編では綴られなかった物語があります。

短編か連載かは現在の所わかりませんが、書く予定ですので、その時も是非読んで頂けたらなと思います。


本編の方も連載中ですので、そちらも頑張って書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

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