刹那雪の箱庭
ちょっと童話の募集してたので乗っかってみました。
応募はしないんですが>_<
小さな兎は鼻をピクピクとさせ野山を忙しなく駆け巡り、氷の張った川の下では小さな魚がゆったりと流れに身を任せ泳いでいます。
年に一度の一面銀世界。
降りしきる雪は止まる事を知らない牡丹雪。
それでも不思議なのは曇っておらず太陽が出ている事。
「壮大で儚い景色だねぇ」
キャスケットを深く被った誰かが空へと呟きます。
「・・・一体どこまで続いているのやら、」
おちゃらける様に狐顔の誰かは遠くを見つめます。
「僕たちにはお似合いの場所さ」
ロングダウンに包まった誰かは足元の雪を蹴ります。
真横でパラパラパラっと散らばりキラキラと太陽に反射するそれらを見つめ溜め息を吐く先頭を行く誰かは静かに目を閉じました。
空が茜色になり何処までも続く雪道を眺め誰からともなく休憩にしよう、と聞こえてきました。
ちょうど洞窟を見つけたからです。
暫くして持っていたマッチで湿気った枯れ木に火を灯します。
ポゥッと灯る明かりに照らされ冷えた体と心が少し温まった、そんな気がしました。
「さて、少し話をしようか」
キャスケットの誰かが口数少なく投げ掛けます。
「時間はたっぷりあるからねぇ、それも良い」
狐顔の誰かがニヤニヤと答えます。
知らない者同士がいつの間にか辿り着いた終着とも思えるこの地で集まった4人は何の疑問もなくお互いを受け入れ旧友であるかの様な振る舞いをしました。
彼等はそこにいるのが当然であるかの様で、ここに集まる其々が其々の悩みや想いを抱えながら気が付けばそこに立っていました。
やがて灯された火が彼等の顔をハッキリと写し始めます。
キャスケットの誰かは目が見えません。
狐顔の誰かはその軽い口調で誰からも真剣に取って貰えません。
ロングダウンの誰かは口より先に手や足が出てしまいます。
先頭の彼は上手く喋る事が出来ません。
そんな他人には分かり難い、でも本人にしては重大な悩みを抱えやって来た北の大地は上手く彼等を隠してくれました。
ここにある全てが完璧ではないのです。
木でさえも枯れ果て雪により湿り気を帯び、我が物顔で降る雪も全ての生物を眠りにつかせる事は出来ないのです。
夜が訪れても雪は止みません。
それが彼等をより一層深く閉じ込めていきます。
「僕はね、目が見えない分、耳が良いんだ。だから誰が嘘を吐いたかすぐ分くる特技がある」
「おいらは真剣味が伝わらないから馬鹿だと扱われて来た、だから誰が優しいのか見極める事ができる」
「言葉を発する前に手が出てしまうけど拳で語らうなんてなくて、止めて教えてくれる人の存在に気付く事が出来たんだ」
「いつも揶揄われていたけれど、しゃべれない代わりに他人の話を良く聞くようになったよ」
沢山の言葉を交わしていく中で彼等の想いは溢れ出してきます。
其々の経験は其々に色んな感傷を与えます。
だけど、嘆くだけでは始まらない事も知っているのです。
今いるこの場所と同じ様に永遠に続くなんて事はありえない。
それでも彼等が前を向いた時、降りしきる雪は止み太陽が一層明るく輝きました。
目指す明日の中でまず彼等が出来る事は隠す様に積もった洞窟手前の雪を一所懸命払い退ける事でした。
洞窟を出る頃には夢や希望が心を満たし目標が出来ました。
そんな思いを抱けば不思議な事に其々が銀世界を離れ自分の家にいたのです。
それでも夢や希望や目標が潰えた訳ではなく、更なる高みを目指したのです。
遠い遠い昔、それは刹那な箱庭に降ったほんの一瞬小さな存在、未だ語られなかった雪の物語。
ここまで読んでもわからないと思うんですが、テーマの中には【みんな違ってみんな良い】って思いをこめました、ありがとうございます!