遅刻魔チーズと氷月姫のヴァレンタイン
現実世界では完全無関係な話でも、小説のネタとしては扱いやすいバレンタイン……(悲
雲一つない冬の寒空。
南の窓から、やけに眩しく差し込む朝日。
俺はストーブも炊いてない、静かで凍てつく教室にいた。
「ふぁぁ……眠ぃ」
……てか、スゲー眠ィ。
いつもなら遅刻寸前ギリギリに教室に着く『遅刻を知らぬ遅刻魔』と呼ばれる俺が、こんな時間に学校にいるのは人生初だ。
なぜ、俺がこんなに早く学校に来てるのか…
「~♪ 早く誰かこないかなぁ」
眠くて機嫌の悪い俺の隣から、やけに陽気で呑気でアホっぽさ全開の声が聞こえる。
こいつの名前は落窪 豪。
俺の悪友であり、ナンパ好きであり、ド変態であり、エロである。
根元が黒くなってきた茶髪を四方に髪をツンツンと立たせており、右耳には二つほどピアス穴が開いている。
……簡単に死語で言えばチャラ男である。説明以上。
「チーズ。なんでそんなテンション低いんだ?」
「俺は乳製品じゃねぇ。……どっかの馬鹿に朝っぱらから家に乗り込まれて、学校までバイクで引きずられれば誰だって殺意が目覚める」
「なんだよ。そんくらい気にしてたら今日は乗り切れねぇぜ!」
この迷惑者は、まるでオモチャ目の前にした幼児のように、傍から見てもワクワクしていた。
「……ボツが」
「? ……なんか言った?」
「んゃ、なんでもない」
こいつの別名は『おちく“ボツ”よし』から取った『ボツ』であり、その呼び方をするとこれ以上にウザくなる。
ついでに、『チーズ』とは俺の名前…狭衣 千鶴の千鶴から来ている。
てか、千鶴から由来したなら『チーヅ』になるだろ…まぁ、考えたのが馬鹿だから仕方ねぇ。
で、その馬鹿がなぜ俺を引きずって朝早く学校に来たというと……
「さぁ、カワイコちゃん達! 早く来て俺に愛を込めたチョコを!」
……そう、ボツがテンション高い理由。
それは今日が2月14日、バレンタインデーだからだ。
去年中三だったこいつは、馬鹿のくせに風邪引いて休んだために苦い思いをしたらしい。
……てか、スゲーウゼェ。
「チーズもテンションあげてこうぜ!!」
「俺は食いもんじゃねぇ。…ったく、ロッ〇やら明〇やら外国菓子会社の諸々に企業戦略に惑わされるだけじゃねぇか」
「おいおい、去年もチョコ貰えなかったからってひがむなよ」
「お前も一緒だろうが」
元々、バレンタインとはローマ帝国における家庭と結婚の神ユノの誕生日の祭、ルペルカリア祭の日に、キリスト教のウァレンティヌス…別名バレンタイン司祭が、当時婚姻を禁じられていたローマ帝国兵士達を秘密で結婚させていた罪で処刑された日だ。
そんな、人の命日に甘ったるいカカオと砂糖の黒い塊を食って嬉しいか?
「よし! チーズ! 今日、どっちが多くチョコ貰えるか勝負だッ!」
「……あっそ」
俺は未だに騒いでいるボツを全面的にシカトして、眠りを貪ることにした。
折角気持ちよく寝ていたところを起こされたせいで眠い……別に、この十六年間この行ことに縁がなかったから僻んでるってわけじゃないので、あしから――
「――狭衣千鶴」
教室の静けさに深く染み入るようにまっすぐ透き通った声。
俯せていた首を上げると、教室の入り口に見慣れた顔がいた。
目線が合った瞬間、俺の目線はその瞳にがっちりとロックされた。
「おお!! これはこれは月代センパイじゃないですか! 相変わらずお美しいッ!!」
ボツが一瞬でその人に近づくのが視界の端で見えた。
しかし、その人はボツを完全に無視してスタスタとこちらに向かって歩き始めた。
目線は完全に俺をとらえた状態で、机や椅子を器用に避けながら着実に近づいてくる。
そして、最終的に俺の席の前まで来て立ち止まった。
女性として魅力的ボディラインにモデルのような長身。腰までとどくストレートの艶やかな黒髪と、学校指定のスカートからすらっと伸びる白く細い足がその体をさらに細く美しく見せていた。
整った顔のパーツは一つ一つが力強く、そして知的。
この容姿に合わせて、成績も全教科で学年トップクラスと優秀。
目の前に立ちはだかる、俺達の一つ上の先輩……月代 凛は、まさに完璧といえるだろう。
「狭衣千鶴。貴様がなぜこの時間に居る?」
「先輩こそ、なんで一年の教室に?」
「質問しているのは私だ。貴様は答えればいい」
「俺がどこでなにをしてようが……」
「無関係ではない」
月代先輩が『氷月姫』と評される理由でもある、冷たく鋭い目線が俺を容赦なく射抜く。
俺が余計なことを言わないように黙り込むと、先輩は表情を一切変えずに口を開く。
「貴様が私達の規制時間以前に来るなど……世界が終焉を迎えるかもしれない」
この人は風紀委員長を務めており、『遅刻を知らぬ遅刻魔』と『氷月姫』の戦いは有名……らしい。
実は、この戦いは小学校から続いていて、今のうち勝率は五分五分。
因みに、俺は捕まるたびに学校の清掃活動をさせられている。
「……俺だって来るつもりなかったし、世界はそこまで脆くない」
「ならば、今日は不吉なことが起こる」
「……それがいつも俺を取り締まっている人の言うセリフか?」
てか、先輩はいつもこの時間に学校来てんのか?
……この堅物ならありえるな。
むしろ、朝日が昇るよりも前に起きてても不思議じゃない。
「でも、なんで俺がいることを知っているんですか?」
「下駄箱を調査した」
「……んなこといつもやってるんッスか?」
「いや、今年は初だ」
先輩はそういった後、俺を取り逃がした時みたいに少しだけ顔をしかめた後、すぐさまいつもの鉄仮面に戻る
なんかミスったのか? 下駄箱でなに調査すんだ。てか、なんで『今年は』?
いろいろ疑問は残るけど…………まぁ、いいか。
「まぁ、今日は休戦ってことですよ。厄日になっても俺のせいじゃないんで、んじゃ、オヤスミ」
「あ……」
「ちょっとぉ、俺を無視しないでぇ!」
俺は思考を完全に中断して、ボツに早く起こされたぶんの眠りを補うため、朝っぱらから眠りに入ることにした。
「おい! チーズ起きろ!!」
「……ウザい。そして俺は裂けもとろけもしない」
耳元でボツの声が響くせいで意識が覚醒し始めた。
でも、上体を起こすのは面倒くさいので格好はうつ伏せのまんまだ。
てか、俺何時間ぐらい寝てた?
「……今何時だ」
「昼休みだぜ」
……どうやら、午前中の授業を休憩時間ごと惰眠で食い潰したらしい。
確かに、周りを見るとクラスメイト達が弁当を広げている。
ボツも含めた目に映る男達が、いつもより浮かれているのは気のせいじゃねぇな。
「なるほど。んじゃ、オヤスミ」
「おう……って、寝てんじゃねぇよ!!」
チッ……折角、ボツの話を流せると思ったのに。
まあ、飯も食わなきゃならねえし、仕方ないのでボツの話を聞くことにする。
「んで、俺の眠りを解いてまで俺になんのようだ? もし、くだらない理由だった場合、お前の指を一本ずつ折る」
「あの氷月姫が誰かにチョコをあげるらしいぜ!!」
――――――?
――――――――――――メキャ
「ギャァァァァァアアアアアアア!?」
「ウザい」
「バカかテメェ!? 人の小指を逆方向に曲げといて言うセリフか!?」
「じゃあ、その指キモい」
「誰がやったと思ってやがるッ!!!!」
俺はただ、自分の発言に責任を持ってきちんと有言実行しただけだ。
だって、先輩が誰にチョコあげようが俺にはまったく関係ない。
むしろ、先輩が恋愛に夢中になって俺の遅刻を気にしなくなってくれればありがたい。
「話はそれだけか? それなら早く寝たいだけどな」
「! そうだ! 一番スゲーこと忘れてた!!」
さっきまで涙目で喚いていたボツが、いきなりテンションがあがって、俺の机を指がまがってないほうの手でバンバン叩き始める。
……さて、次は親指二本を同時に折ってやろうか。それとも……
「お、お前の下駄箱がチョコでいっぱいいっぱいになってるらしいぞ!!」
………………は?
「……ボツ、嘘は泥棒の始まりだぞ? ついでに、嘘の上手い吐き方は真実六割嘘四割の微妙なサジ加減がポイントだ」
「いや、少しはダチを信じようぜッ!?」
いや、だってありえないでしょそんなの。
いままで一度も起らなかった奇跡が、そうそう起るわけがない。
「ほら! 取り敢えず中間結果を見に行くぞ!!」
「面倒だからパス…………って、なにすんだッ! やめろ! 制服引っ張んな!!」
結局、俺はボツに引っ張られて下駄箱のある所に行くこととなった。
「……で、お前の下駄箱にはどこぞの物好きが二人チョコを入れて下さっておりまして、いっぱいいっぱいと言われた俺の下駄箱には、チョコどころか俺の靴まで無かったんだが……ボツ、これはどういうことだ?」
「ま、マジでゴメンナサイ……俺にはもう曲げる指がない」
結局、ボツの聞いた話はガセで、俺は無駄足をくらった腹いせにボツの手足の指すべてをあらぬ方向に曲げてみた。
首も曲げてやりたいが、そこは勘弁してやろう。
「しっかし、俺の靴を盗むなんて……取り敢えず周辺を探してみるか」
「俺も手伝うか?」
「……手伝ワナイツモリダッタノカ?」
「手伝う! 手伝います! 手伝わせてくださいぃ!!」
土下座までして俺に手伝いを申し出るか……よし、そこまでされたら手伝わせようじゃないか(最初からそのつもり)。
んじゃあ、どこから探そうか……
『……風紀委員からの呼び出しです。一年二組の狭衣。落とし物がありましたので、至急視聴覚室に来て下さい。繰り返します……』
落とし物って多分……てか、絶対靴だよな。
でも、たかが落とし物(盗難品だけど)だけで、なぜ風紀委員が至急で俺を呼ぶ?
「……今回の件は白紙にしよう。早く教室戻っとけ」
「いや、指が変な方向むいてる時点で白紙はおかしいだろ」
「……ナンカ言ッタ?」
「ハハハッ、俺は教室戻るから、チーズは落とし物取りにいけよ。じゃ!」
ボツは埃を巻き上げながら、教室の方へ走り去っていった。
……自分でやっておいてなんだけど、教室より保健室でその指見てもらったほうがいいんじゃないか?
…………ま、いいか。
「さて、視聴覚室ってどこだっけ? ……まぁ、適当に歩ってれば分かるか」
午後の授業開始のチャイムを聞きながら、俺は適当な方向に歩みを進め始めた。
「……や、やっとついた」
結局、放課後になってからやっと視聴覚室を見つけた。
そんなに広くない校舎だけど、同じ所をぐるぐると回って迷ってた。
……そこぉッ! 方向音痴って言わない!
「絶対『狭衣千鶴、遅刻』って言われるな……失礼します」
なにを考えても仕方ないので、俺は視聴覚室の扉を開く。
「…………って、誰もいないじゃん」
中に入ると、そこには誰もいなかった。
そして、一番前にぽつんとある教卓の上に、俺の靴が置いてあった。
え……これってチャンスじゃん。
このまま靴だけ返してもらって、すぐに帰れる。
それに、俺があまりに遅いから、直接渡すのが面倒になって『勝手に持ってって』ってことで置いてあるのかもしれない。
「まぁ、どっちにしても俺は帰らせていただきますけどね」
俺は手早く教卓の方に近づいて、靴を手に取る。
それと同時に、教卓に隠れていた二つの紙袋を見つける。
両方とも、きちんと包装された箱が溢れんばかりに入っていた。
「……なんだ、これ」
興味を持った俺は、片方の紙袋からやけに大きな箱を手に取る。
その箱には、ド派手にリボンなどと一緒に『St’Valentine's Day. ☆凛お姉様へ☆』と書かれた紙がついていた。
……なるほど。
この学校は同性愛者がこんなにいるのか。
「てか、こりゃ貰い過ぎだろ……」
……他にはどんなやつがあるだろう?
俺はもう片方の袋にも手を……
「狭衣千鶴!! そこでなにをしている!」
いきなり、後ろから大声で名前を呼ばれて振り返ると、そこには氷月姫こと先輩が立っていた。
「一応、風紀委員に呼び出されて来たんだけど……色々あって遅れた」
……約一年間通ってるこの学校で迷ってたなんて、口が裂けても言えない。
「遅い! ……いや、早い! 回収が終わらぬうちに来るな!!」
先輩にしては珍しく、慌てた様子で顔を真っ赤にして感情を顕にしていた。
それに回収って……あ、なるほど。
「あぁ、まだチョコレート貰えるんですか。羨ましいですね……一つぐらい貰えませんかね?」
俺は一度手を伸ばした袋から、小さな箱を一つ手に取る。
「!? ちょっと! それを離せッ!」
俺がその箱を手にした瞬間、先輩らしくないほど焦った様子で俺に突っ掛かってくる。
そんなにチョコを大切にしそうな人じゃないんだけど……
「あ……」
くだらない考えことをしてる間に、俺の片手から小さな箱が先輩に奪われる。
「ふ…私に無駄な体力を使わせ…!!」
しかし、俺の手にはその箱についていたらしい、一枚の紙が残っていた。
その紙に書かれているのは人の名前…
『Dear“Mituru Sagoromo”』
えッ……なんで俺の名前が?
「…………」
先輩の方を見ても、俯いていて顔が見えない。
――先輩の行動、俺の名前、チョコ、二月十四日――
導き出される答えは簡単……後は証明するだけだ。
俺は二つの紙袋の中身を急いで確認する。
確認するのはそのチョコの送り先……
「……やっぱり…ボツの言ってたことは本当だったのか」
予想通り、俺が『大きな箱』を取り出した袋の中身には『月代凛』の名前が。
そして、俺が『小さな箱』を取り出した袋の中身には『狭衣千鶴』の名前が書かれていた。
この結果から、一つの答えが証明された。
それは『先輩は今回、そして今までも俺のチョコを隠していた』という、信じがたい真実。
「……狭衣……千鶴」
後ろからかけられた声に、俺はゆっくりと振り返る。
そこには、いつもはしっかりっとした瞳を揺るがしながら俺を見ている先輩がいた。
「先輩……なんで……」
「………」
「……嫌がらせですか?」
「!? それは違う!!」
「ならッ、なんでこんな所にチョコがあって、それを俺に見られて焦ってるんですか?」
俺はチョコを隠された自体に怒ってるわけじゃない。
俺の怒りは先輩の行動に対してだ。
「……正直、先輩には失望しました。毎日俺に突っ掛かってきてウザかったりもしたけど、俺は先輩のことを信用してました。……なんか、裏切られましたよ」
遅刻魔の俺にとって、先輩は宿敵といっても過言じゃない。
だけど……嫌いじゃなかった。
いや、むしろ……
「…んじゃ、靴とチョコは返してもらえますんで」
落胆した俺は靴と紙袋を手に、俯いていて動かない先輩の横を通り過ぎ……
「…………先輩、離してください」
「……その要求には……答えられない」
通り過ぎる前に、俺の袖は先輩に捕まれてその歩みを止める。
その手を無理に振り払ったりはしない。
だって……
「……泣かないでください。なんか、俺が悪いみたいでしょう」
「泣いてなど……いない」
今はその顔は黒髪に隠れてちゃんと見えないけど、横を通り過ぎる寸前に先輩の頬に光るものが見えた。
「私は……泣いてなどいない。……貴様の考えた通り……私は貴様のチョコを毎年回収していた。しかし勘違いはしないでくれッ! ……それは嫌がらせなどではない」
「嫌がらせじゃない……なら、なんでそんなことやったんですか?」
信じたくないが、俺には先輩の行動が『嫌がらせ』という考えしか思いつかな……
「私は――き、貴様が女性からチョコを贈られることが……嫌で嫌でたまらない!!」
……え?
「自分でも信じられない! しかし、私は嫉妬している!! 貴様にチョコを贈るすべての者に対して、全身が煮え繰り返るほどの嫉妬をしているッ!!」
いつものような冷静さなど微塵も感じさせない、感情を吐き出すような先輩の声。
その声と言葉に、俺の頭は完全にショートして、今は指先さえ動かなない。
そんな俺の目の前に、先輩が回り込んでくる。
その瞳は強さではなく、まるでなにかに縋るような弱々しい心が映っていた。
そして、その手には企業性の感じられない不恰好に包まれた一つの箱があった。
「こんな物をこんな時に渡すなど、最悪な人間と罵ってくれてかまわない。けれど! これは捨てても構わないから……せめて、私を拒絶しないでくれ……私を貴様のことを見ていられる場所に居させてくれ。貴様が見えなくなったら……私は……耐えられないッ」
今、俺の目にうつる先輩は、俺を取り締まる厳しい人じゃなくて、か弱くて純粋な少女だった。
……ったく、この先輩は。
俺はショートした脳内回路で、無理矢理腕を動かす。
その腕で掴むのはチョコではなく、目の前で俺が見たくないものを流す人。
「あっ……」
「先輩……なんで俺がいつもギリギリに学校に来るか分かりますか?」
……まさか、こんなこと言うことになるなんてな。
いつもは『二度寝するから』って言ってるけど本当は違う。
「チョコの代わりに教えてあげます……先輩と同じ場所に長く居過ぎると、自分の心に嘘がつけなくなるからですよ」
「えっ?」
俺の言葉に先輩は、似合わないすっとんきょうな声を上げながら、体が密着した状態で俺の顔を見上げてくる。
いつものような強い姿もいいけど、こんな弱々しい姿も恐ろしい破壊力だな、ヲイ。
それに……
「……今日は朝早くから学校に居たせいで、もう限界です」
「……ちょ、ちょっと待っムグッ!?」
焦る先輩を尻目に、俺は愛しい唇に自分の唇を重ねる。
それは、たった一瞬の出来事。
だけど、カカオと砂糖の黒い塊なんかよりも何十倍も甘く、涙で少しだけしょっぱかった。
「き、貴様ッ! ……わ、私は貴様が思っている以上に嫉妬深いのだぞ」
「大丈夫、俺も執念深いから」
今や、『氷月姫』の面影がないほどに真っ赤に染まったその顔を見ながら思う。
成績優秀な先輩の通うこの高校に入るために、必死になって勉強したバカが居るんだぞ、と。
自分を抑えながらも、単位不足で退学させられないために、わざわざ時間ギリギリに登校するアホが居るんだぞ、と。
嫉妬して、ダチの指へし折るクソがいるんだぞ、と。
そして俺は、麻薬的な甘さを持つものをもう一度口にした。
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後日談
「ところで先輩、俺のことを貴様って呼ぶの、やめてくれませんか?」
「む、ちゃんと狭衣千鶴と呼んでいる」
「いや、他にも呼び方は色々あるでしょ」
「……チーズ」
「……俺は某パン頭ヒーローに出てくる名犬じゃない」
「そんなことより早く掃除をしろ。どんな理由があろうとも遅刻は遅刻。罰を受けてもらう」
「ハイハイ」
「返事は一回!」
「……ハイ」
結局『遅刻を知らぬ遅刻魔』と『氷月姫』の関係はそんなに変わらなかったのでした。
―END―
反響によっては、ホワイトデーに視点を変えて書くかも知れません…ヘタレ作者に期待はしないでください。