連鎖 -butterfly effect- 19
それは唐突に現れた。
街道を進み、陣の構築を終え、本格的に進行を開始する直前、それは姿を現した。
その装甲を漆黒に染めた二機のMC。
街道を疾走する二機を見下ろし、少女ーールイーズ・マルグリット・ラ・マレルシャンはさすがに驚きを隠せなかった。
側面からの奇襲を警戒して、森を抜けた段階で陣を組んだのだが、まさか、真っ向から突っ込んでくるとは思わなかった。
そう、一個大隊36機を前に、わずか二機で突っ込んでくるなど。正直、正気とは思えない。
まして、走行による高速移動で、正面から距離を詰めてくるなど。それでは目立って仕方ないし、射撃の的だ。
そしてなにより、走る、という動作によってかかるMCへの負荷は大きい。戦闘機動であるならともかく、移動のために走るというのは、非効率的だ。
とはいえ、敵がどんなものであれ、撃破するのが彼女の仕事だ。
ルイーズは一言、頭に被ったヘッドセットのマイクに向かって命じた。
「敵を確認したわ。相手は二機。正面よ、騎士弩隊、迎撃開始。座標はこちらから送るわ」
『了解しました、お嬢様』
答えが返ってくると同時に、騎士弩が火を吹き、ルイーズの乗るヘリから常に送信される座標データをもとに、次々と矢が打ち出される。
騎士弩は、騎士散銃同様、MCの在り方を損ねないように開発されたMC用の射撃兵器だ。
その形状は弩の名の通り、大型の弓であり、背中に背負うようにして保持されている。使用の際には、背中に背負った弓を頭越しに展開し、MCの両手で装填及び射撃を行うものだ。
弾丸は、騎士槍の穂先とも言えるものを使用し、直撃した際の威力は、純粋な質量弾であることもあり、MCを一撃で撃破するには十分なものである。
とはいえ、固定装備でありMCのペイロードの大半を使うことや、使用中の機動力が著しく損なわれること、単騎で運用しても効果が薄いことなどが原因で運用が難しく、多くの騎士団で採用が見送られているのが現状だった。
しかし、一斉射撃の密度と火力は並のものではなく、そして何より、矢を放つ関係上、騎士散銃とは異なり、曲射が可能である点が大きい。位置座標だけ確保できれば、前方に部隊を展開しつつ、安全地帯から一方的な射撃を行える。それは他の射撃兵器にはない強みと言えた。
つまり、距離さえあれば、一方的な殲滅すら可能な性能を持っているのである。
しかしーー
二機のMCは速度を一切緩めることなく、矢の驟雨を全て回避し、そのまま展開して騎士団へとぐんぐんと距離を詰めてきている。
「あら、侮ってはいけない相手らしいわね」
ルイーズはそう溢し、厳しい表情でカメラの映像を見つめ、
「ファランクス隊、警戒を厳になさい。騎士弩隊は、抜剣の準備よ」
そう、命じた。その瞳には揺るぎない知性を帯びた翡翠の輝きが宿っていた。
12/27 (日)
描写不足を加筆。
年末まで完結の予定でしたが、話数が増えたので、今日からは1日1話更新でいきます。
それでも年末には終わらないと思われるので、最後の方は、複数投稿もあるかと思います。
全体的に視点がころころ切り替わるため、ここからは1話1話は短めです。ご了承ください。
感想、評価、誤字脱字報告等ありましたらお願いします。




