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noblesse;oblige  作者: 夏桜羅(原案・設定協力)、雪羅(原作・執筆担当)
第4章 連鎖 -butterfly effect-
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連鎖 -butterfly effect- 10

 ヴィクトール伯爵領、その領都の中心地、ヴィクトール伯爵のお膝元と呼べる街を、二人の青年は歩いていた。

 革命団(ネフ・ヴィジオン)のメンバーのファレルとカエデである。

 伯爵が死んだという事実と、それを喧伝した革命団(ネフ・ヴィジオン)が領民政治を唱えたことで、人々はどこか浮き足立っているようだった。

 とはいえ、人通りは多く、盛んに商談が行われている街は、概ね、暴走せずに、理性を保っていると言って良いだろう。


「で、なんでこの組み合わせなのかな?」

「単純な話だぜ? 生身での戦闘力の高さを順番に並べて、一番と四番、二番と三番で組んだだけだ」

「いや、一番と二番の差と、三番と四番の差の格差がありすぎると思うんだよ、僕は」

「くだらねーこと言ってないで働け」


 ファレルが切り捨てると、カエデは仕方ないとでも言いたげに両手を広げて肩を竦めた。


「はいはい、で、僕らはどこに向かってるのかな? ここって、ジンが言ってた捜索区域とは違うんじゃない?」

「まっ、あっちはあっちに任せときゃいいんだよ。おれらじゃMCの操縦は満足にできねーからな。そこんとこ考えると、見つけても仕方ねーし」


 ファレルは真面目な顔でそう言った。MCの操縦に特別な技能が必要かと言えばそうではないのだが、実際に乗って訓練を受ければ、才能のあるなしなどすぐに分かる。

 そう、特別な能力は決して必要なわけではない。しかし、その操縦に適性があるかないかは、語るべくもなく分かってしまうのだ。

 反射速度、バランス感覚、瞬発力、判断力、思考力。誰もが持つ能力ではあるが、MCの操縦においては、持つだけではなく、複合的にそれらを使わなければならない。

 それは、小さな子供ならともかく、ある程度歳を食った今になって簡単に身につくようなものではないのだ。


「まあ、そうだね。見つけても、動かされたら意味ないし」

「だから、おれはもう一つの方を調べようと思ってな」

「エスメラルドの関与の件かい?」

「まっ、どっちもだな」

「へー、それで、つまりどこが目的地なのかな?」


 ファレルはにやりと笑みを浮かべて、


「この街に置かれている長距離通信施設。今は誰が抑えてるのかと思ってな。ぱっと見、ぶっ壊されてるようには見えねーし、かと言って、偽革命団の連中が使ってるわけでもなさそうだからな」

「可能性としては、ヴィクトールの関係者がまだ抑えてるか、襲撃者の貴族が抑えてるか、ってところかな?」

「まっ、内側から破壊されてる可能性もあるがな。例の襲撃者は相当な腕の隠密部隊を抱えてるって話だ」

「手付かずって可能性もあるんじゃない?」

「それならそれでぶっ壊すだけだろ」


 こともなげに言うファレルに、カエデは呆れた。通信施設を丸ごと壊すのがどれだけ面倒な作業だと思っているのだろうか。

 やれやれとでも言いたげなカエデの様子を敏感に察したのか、ファレルは、自らの思うところを口にした。


「つっても、誰かに使われたら面倒だろうが。おれらは使えねーし、貴族連中に情報が漏れて攻め込まれたら、あっさり落ちるぞ、ここ」

「それはまずいよね、さすがに」

革命団(ネフ・ヴィジオン)ってことになってるからな。おれ達が負けたことになったらたまったもんじゃねーよ」

「はぁ……ほんっと、厄介な状況を作ってくれたものだね」


 旗揚げしたばかりの革命団(ネフ・ヴィジオン)にとって敗北とはすなわち、革命の終わりを意味する。彼らは煽動者(アジテーター)であり、先導者(パイオニア)であるが、そこに続くものは現状、少ない。

 そんな彼らにとって、勝ち続けることは何より重要なことであった。勝つことで、貴族に逆らうこと、イコール排斥と死であるという風潮を覆す。これが彼らの目指す革命への第一歩であり、自らを革命の狼煙と称する理由であった。

 言わば、貴族に対する勝利こそが彼らの価値そのものであり、敗北した時点で、そこに残るものは何もないーー否、残るのは、結局、貴族には敵わぬという諦観と今ある現状を享受する停滞である。それはむしろ後退と言って差し支えなかろう。

 つまり、今の彼らにとっては、ただ一度の敗北さえも、己の進退を決める致命傷となりかねないのだ。

 故に、革命団(ネフ・ヴィジオン)に敗北は許されなかった。それが程度の低い、名を騙るだけの偽物であったとしても、そこに、革命団(ネフ・ヴィジオン)の名が、そして、指導者たる《テルミドール》の名がある限りは、むざむざ負けることは許容され得ぬことであった。

 端的の言えば、今ここにいるわずかに五人の革命者にとって、最も重要な目的は、ここにある革命団(ネフ・ヴィジオン)を、負けさせないことにあった。


「いつにも増して、後手後手に回ってるからな。つか、ここにおれたちがいるだけでも十分上出来だ」


 そう、もし、ジンの一声で、ヴィクトール伯爵領にいなければ、偽の《テルミドール》の暗殺を止めることはできず、革命団(ネフ・ヴィジオン)の社会的地位は一挙に苦境に立たされることになったことは想像に難くない。

 結果論ではあるが、今まで彼らが行き当たりばったりに選んできた道は、正解だったと言えよう。


「だよね。まあ、でも結局、通信施設を壊したところで、黒幕から情報が流れたら意味ないんじゃない?」

「……それを言うなよ」


 ファレルは渋い顔をした。仕方あるまい。そこは最早手の出しようがないことなのだ。

 そうなればそうなったで、ファレルにできることはあまりないのだから。対人部隊などと名乗っているが、革命団(ネフ・ヴィジオン)の人員は決して多くない。この部隊の主な任務は、少人数での潜入、及び破壊工作である。

 結局のところ、騎士団が攻めてこれば、対応できるのは、ジン達、MC部隊ということになる。もちろん、対MC兵器があれば生身でも戦えるのは確かだが、そんな都合のいいものが、手元にあったら苦労しない。


「どちらにせよ、MCの確保は最優先ってわけだね」

「まっ、とにかく」


 ファレルは、一度言葉を切ると、だらだらと会話する間にたどり着いていた、敷地内と外を仕切るフェンスを前に、


「まずはこいつを調べようぜ」

「これ、勝手に入って大丈夫なのかな?」

「何言ってんだ?」

「そうだよね、大丈夫じゃなかったらーー」

「大丈夫じゃねーに決まってんだろ」

「ですよねー!」


 長距離通信施設は、貴族が『楽園(エデン)の林檎』と呼ぶ秘匿技術を基盤に開発された、貴族間の連携の要諦である。

 当然、その警備は当然、厳重であり、それどころか、一般人の多くはその構造物が何のために存在するのかさえ、知らされていない。むしろ、近付いてはならない場所として認識されている場合の方が多いだろう。

 しかし、今はその施設は不気味なほどの静寂に包まれていた。警備しているはずの人間はいない。もし、施設が生きているなら、接近を察知した警備担当が、ファレル達を追い返しにくるはずである。


「つっても、今回に限って言えば、大丈夫そうだぜ?」


 ほら、と言ってファレルが、フェンスに向けて、足元から拾い上げた小石を投げる。

 すると、バヂィっという音と共に、小石は弾かれた。


「…………」

「…………」


 しばしの間、沈黙が落ちた。


「いやいやいや! 全然大丈夫ないじゃないか! 人が食らったら死ぬよね、これ!」

「待て、落ち着け、おれも知らなかったんだ! まさか、電圧上げてるとは思わないだろ!」

「想像はすべきだね。なんたって、長距離通信施設だよ? 防衛に手間が割かれてないはずがないじゃないか!」

「そいつは当然だが、普通はこんな高圧で流してねーんだよ! 触った一般人どころか、下手すりゃ、衛兵も死ぬからな!」

「いや! 今の、ファレルはそもそも、電流が流れているのを想定してない感じだったね!」

「バカ言え、想定してたに決まってんだろ!」

「はあ? どこが? 今日は大丈夫だろ、とか言って石投げたのに?」

「そもそも想定してなけりゃ、石投げねーだろうが!」


 フェンスのすぐ前で、口喧嘩を始める彼らの姿を目撃した者は、彼らにとっては幸運なことにいなかった。

 もっとも、監視カメラにはばっちり映っているので、もし、中に人がいたとすれば、侵入者であるはずの二人の、くだらない言い合いを目撃して呆れたことだろうが。


「あくまで非を認めないつもりとはね。ずいぶんと図太いじゃないか」

「はっ、さっきのは偶然だ。横が無理なら正面から行くぞ」

「ファレル……電気で頭がやられたんだね? 帰ってもいいんじゃない?」

「うっせー、行くぞ」


 ファレルに引き摺られて正門に来たカエデは、


「絶対、フラグ立ってると思うんだ……」


 ぼそっとつぶやいたカエデに対し、ファレルは、足元の石を拾いつつ、


「はっ、馬鹿も休み休み言え。唯一のまともな出入口に高圧電流流すボケがどこにーー」


 バヂィっと、石が高圧電流に晒されて砕ける音が再び響いた。

 そして、それと入れ替わるように、二人の間に沈黙が落ちた。


「…………」

「…………」

「ですよねー、知ってた」

「……ここまで徹底されてるとどうしようもねーよ」

「ファレルの想定不足のせいだよ」

「人のせいにしてんじゃねーよ! こんな危険な設定にまま放置するバカが悪いんだろうが!」

「責任転嫁だね。まったく、ファレルのせいで無駄足じゃないか」

「それこそ責任転嫁じゃねーか! しかもおまえ、むしろ何もしてねーだろうが!」

「え?」

「え、じゃねーよ!」


 肩で息をするファレルに対し、カエデは思わせ振りにため息を吐くと、


「いいかい? 侵入できないし、無理にやれば焼き殺されるんだ。余計なことはしない方が吉さ。だろう?」

「ああ、まあ、そりゃそうだろうな……お?」


 カエデの意見に半ば同意していたファレルは、視界に映ったあるものを見つけて、思考を元通りに修正した。


「あれ、使えると思わないか?」


 ファレルがニヤリと笑みを浮かべて指さした先を見たカエデは、死んだ魚のような目をして、ファレルに問うた。


「本格的に頭おかしいんじゃない?」

「いや、いけるだろ」

「どうやって?」


 ファレルが指さしているのは、フェンスのすぐ側に建っている建物から突き出した屋根の一部だ。

 フェンスの至近には建物を建てられないようになっていたのだろうが、屋根は大きく突き出しているおかげで、直線距離にして2、3メートル程度の距離しか空いていなかった。


「どうやって、てそりゃ、まず、おれがおまえをあそこから向こう側に投げるだろ? で、おれが後からフェンスを飛び越えりゃいい」

「ええい、こんなことに付き合っていられるか! 僕は帰らせてもらう!」


 芝居掛かった調子でそう言って、逃げ出そうとしたカエデの首根っこを掴んで、引きずりながら歩き出す。


「誰がんなフラグ建てろっつった。くだらねーこと言ってねーで行くぞ」

「いやいやいや! その作戦は僕の生存権がーー」

「うるせーよ」

「待って待って、なんか僕の扱い酷くない!?」

「黙ってろ。舌噛むぞ」

「ちょ、やだ死にたくーー」


 ーー直後、


「うわぁあああああああ!」


 青い空に、恐怖に満ちた悲鳴が響き渡った。

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