表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
noblesse;oblige  作者: 夏桜羅(原案・設定協力)、雪羅(原作・執筆担当)
第4章 連鎖 -butterfly effect-
79/300

連鎖 -butterfly effect- 幕間-01

 男は困惑していた。

 ことは規定通りに進んでいたはずだった。

 そう、今、この瞬間までは。

 操り人形は人形師によってその糸を断たれーー

 人形師は舞台裏へと姿を消し、幕引き(カーテンコール)の歓声に飲まれて、残された人形は忘れられる。

 そういう手筈だったのだ。

 しかし、男は死ななかった。

 まるで、自分が、絡まりあった糸のせいで、上手く操れなくなった人形であるかのように思われた。

 無言の内に解答を示すはずの人形師は何も語らない。

 護衛の仲間達に守られながら、拠点の一つへと歩く男の思考を占めるのは、以下のような疑問であった。

 ーー私は何故生きているのか?

 いくら考えても、答えは出ない。

 人形に甘んじる内に、いつの間にか提示される答えにばかりを頼りにすることばかり覚え、己の思考を麻痺させてしまったのだ。

 ーー無様なものだ。

 男は己の思考停止を嗤った。

 先ほど口にした言葉は本心ではあった。

 確かに、本心から、貴族支配の打破を、民衆による政治を望んだ。

 人形師の甘言はなく、言葉に嘘はなかった。

 しかし、男は空虚であった。

 ただ一人、自分だけが舞台に取り残された道化の如く。

 そんな虚ろな孤独が、男に正しく現実を認識させた。

 人形師は劇に失敗したのだ。何者かの妨害によって。

 幕引き(カーテンコール)を待たずして、客の目は舞台から離れ、ただただ、捨て置かれた人形だけが残された。

 しかし、自由を得たはずの男の胸に去来するのは、奈落の底に落ちていくかのような浮遊的不安感であった。

 ーーああ、なんという愚かか。

 男はまた己を嗤った。

 自らの足で立つことに不安を覚えるとは。

 無意識にあの男を後ろ盾として頼りにしていたとは。

 心までは操り人形になるまいと、ずっと思っていたというのに。

 ーーなんと情けないことか。

 革命などという大層なお題目を掲げるには、男の魂は弱過ぎた。そう、弱過ぎたのだ。

 いつの間にか、拠点の一つである酒場に着いていた男は、周囲を見回して、己の薄弱を嘆いた。

 老若男女問わず理想を掲げて集まったメンバー達。彼らの目の輝きの強さに、男は圧倒されたのだ。

 自分は糸に絡め取られているからと、空虚さにかまけて目を逸らし続けてきた、彼らの意志に男は圧倒された。

 ーーそれに比べて、彼らを導くはずの私はなんと意志薄弱なのだ……

 その瞳は言葉を求めていた。臆病に煽動するしかできぬ私に。

 しかし、一度被った仮面を投げ捨てるには、男はそれに馴染みすぎていた。

 まさしく、()を頼りにしていたのと同様に。

 故にーー

 ーー私は煽動者(アジテイター)としての本分を無意識の内に果たさんとした。


「諸君! 我々の革命の第一段階は成った! ヴィクトールは斃れ、人々に新たなイデオロギーを与えることに成功したのだ!」


 熱っぽい口調に反して、男の心は冷めていた。己が手の平で踊らせられているだけの道化であると知っているからだ。


「しかし、革命はまだ始まったばかりだ! 我々が目指すのは、革命政府の機能確立とこの領都アガメムノンの貴族支配からの独立である!」


 しかし、心が冷めていけばいくほどに、男の弁舌の熱は高まり、立て板に水の如く、煽情的な言葉を紡いでいく。


「君達こそが、新たな政府の中核をなす頭脳であり、剣であると、私は確信している。その確信こそが、この私、《テルミドール》が諸君らと共に立った理由なのだ……」


 期待と羨望。その感情が瞳に宿る様を見れば見るほどに、男はこの場から逃げ出したくなった。

 ーーああ! そんな目で私を見てくれるな! 私は! 私はーー


「だからこそ、私は、君達と共に戦えることを誇りに思う」


 ーーただの臆病者なのだ!

 ーー恐れ、逃げ出した臆病者なのだ!


「理想と自由を求む(ともがら)の諸君! 我々は未来を示す篝火だ!」


 ーー抗うことに恐怖し、恐怖に屈服し

 ーー操り手に従順な人形となった

 ーー舞台の上で無様に踊る道化となった

 ーー臆病な愚か者に過ぎないのだ!


「諸君! これは我々の聖戦である! 理想を実現するその日のために! 諸君らのさらなる奮戦を祈っている!」


 ーーそう、私は祈っている。誰よりも切に。

 祈る資格などないと分かっていながら、それでも祈るしかできなかった。

 ーー彼らの行く末に、救済のあらんことを

 男は、祈るしかできない己の弱さを、心中で嘲り、ゆっくりと目を閉じた。

1/12(金) 台詞の脱字を修正


突然誰だ、と思うかもしれませんが察してください。笑

予定では、1、2章と同程度の長さの予定だったんですが、書いてたら余裕でオーバーしました。(´・ω・`)

まだ途中なので確定ではないですが、3章と同等かそれ以上のボリュームになりそうです。

年末までには第4章を完結させる予定ですので、気長にお待ちください。(話数抑えられるかな……?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ