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noblesse;oblige  作者: 夏桜羅(原案・設定協力)、雪羅(原作・執筆担当)
第3章 騎士 -oath of sword-
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騎士 -oath of sword- 15

「ーーっ!?」


 ーーまずい、勘付かれた。

 表情には出さない焦りが、冷たい汗となって、ジンの頬を伝う。ここで革命団(ネフ・ヴィジオン)と知られれば、会場の全てが敵に回る。

 有象無象の騎士はともかくとして、ザビーナに加えて、ダルタニアン・ルヴル・レーヴェル、シャルロット・フランソワ、サミュエル・シルペストル、水準より高い技量を持つ、この三人の準決勝進出者(セミファイナリスト)たる騎士を同時に相手をして、ただの第二世代機である〈エクエス〉で生き残れる、と言えるほどにジンは自信家でも夢想家でもない。

 〈ガウェイン〉ならば、全てを敵に回しても勝機があるだろうが、それはただの無い物ねだりである。


『今の一撃、そして、貴様のその太刀筋。記録映像で見たものと相違ない。それに、『双剣』……誰にでも真似のできる剣ではないだろう。違うか?』

「…………」


 ジンは答えない。だが、沈黙は何よりの答えだと彼自身理解していた。

 ザビーナの中で、革命団(ネフ・ヴィジオン)とヴィクトール伯爵が結び付けられたのは決定的。その点で言えば、『双剣』を抜いたのはジンの決定的な失策と言えよう。


反体制勢力(レジスタンス)と、ヴィクトールがどういう繋がりなのかは知らんが、〈ガウェイン〉なき貴様を狩るには好都合。本気で()かせてもらう!』


 《ゲイボルグ》の一撃を弾き、脆くなっていた剣が、〈パロミデス〉の手によって握り潰される。

 切り返した剣は再び盾に弾かれ、その隙に《ゲイボルグ》を拾い上げた〈パロミデス〉が、槍を握った左腕を振るう。

 どうやら、パワーアームはダミーだったらしい。もしくは、制御を高める目的で装備された、本来は必要ない追加装備といったところか。

 薙ぎ払われた槍を、その場で跳躍することで回避した、〈エクエス〉が、落下のエネルギーを乗せた一刀を振り下ろす。

 当然、〈パロミデス〉は盾でそれを受け止めた。

 そんな〈パロミデス〉を無感情に見ていたジンの口角が、突然、釣り上がり、どこか狂気じみた笑いがその口から漏れた。


「くっくっくっ……くはっ!」


 ーーああ、そうだ。俺はこいつを殺すためにここにいる。

 先ほどのザビーナの発言で騒ぎが起こっていないということから察するに、オープン回線は切られている。

 そして、ここには革命団(ネフ・ヴィジオン)のメンバーはおらず、ジンを抑えるストッパーはなかった。

 それならばーー今更隠すことなどなにもありはしない。そう理由などありはしないのだ。

 ーーなのになぜ、くだらないことを気に留める必要がある? いつの間に、そんな風に日和った?

 自分の中の獣が疼くのを感じた。

 思考は冷徹なままに、その魂だけが狂気の闇に飲まれていく。

 その心のままに、自然と口角が持ち上がるのが分かった。

 ーー憎悪に、憤怒に、身を委ねろ。それだけでいいーー

 目の前にいるのは驕り高ぶった貴族。

 だからーー

 ーー殺せ!


『何がおかしい!』

「俺を狩る、だと? 笑わせる。おまえごときに俺は殺せない」

『なんだと……? 貴様、この私を愚弄するか!』

「だったら……殺してみろ」


 そのギラついた真紅の瞳に宿るのは、はっきりとした殺意。瞳孔は獣めいて細くなり、瞳の真紅は、彼の狂気と憎悪を象徴するかのように、妖しく揺らめく焔の如く輝いた。

 破壊された剣は二本。残りは四本。だが、それだけあればこの円卓の騎士を屠るには十分だ。背中から素早く剣を抜き放ち、今まさに剣を受けている盾へと叩きつける。

 円卓の騎士(ナイツ・オブ・ラウンズ)機と、ただの第二世代機では出力が違う。不意をついたのでもない剣戟では、〈パロミデス〉を押し切ることなどできはしない。

 しかし、僅かでも押し込めたのならそれで十分だった。

 受けられた剣戟には頓着せず、バックステップ。わずかに距離が離れた瞬間に、半回転しながら蹴撃を放つ。半ば回し蹴りめいた蹴りの一撃が、〈パロミデス〉のシールドに叩き込まれ、轟音が響く。

 シールドが大きく凹んだものの、そこは円卓の騎士。蹴りを見事、受けてみせる。


『調子、付くな!』

「……殺す」


 盾で脚を払いのけ、片脚が浮いたことで、体勢を崩した〈エクエス〉に槍を叩きつける。しかし、〈エクエス〉は、払いのけられると同時に、地面についていた脚で地面を蹴り、宙空で前転しながら双剣を叩きつけた。

 これは想定外だったのか、〈パロミデス〉は、《ゲイボルグ》を振り下ろすのを中断し、その側面を使って剣を受ける。


『ぐっ……!?』


 〈パロミデス〉が次の行動に移るより先に、〈エクエス〉は、片手を付いて接地すると、浮いたままの脚を叩きつける。踵落としが〈パロミデス〉の右の肩口を捉える。同時に、度重なる負荷に耐えかねた〈エクエス〉の脚部の装甲が砕け散り、フレームがひしゃげる。

 しかし、当の本人は気にした様子もなく、その脚を以って着地し、身を起こす動作に乗せて突きを放つ。

 その口からはとめどなく狂気の笑いが漏れていた。


「くはっ……くははははっ! 死ねーーっ!」

『ーーっ!?』


 〈パロミデス〉はそれをなんとか盾で受けるが、肩口に受けたダメージと、加速の乗った突きは、その守りを貫くに十分だった。

 ひしゃげた盾が〈パロミデス〉の腕から吹き飛び、受け流し損ねた剣は、〈パロミデス〉の右腕を抉った。

 コロッセウム最強の、否、楽園(エデン)の象徴であり、騎士の頂点に立つ存在であるはずの、円卓の騎士(ナイツ・オブ・ラウンズ)、ザビーナ・オルレアンと、〈パロミデス〉が受けた明確なダメージに、観戦席から悲鳴が上がる。

 それは、誰も想像しなかった事態だった。アルカンシェルという名の騎士がいくら強かろうと、ザビーナ・オルレアンに届くことはない。そう誰もが信じていたのだ。今この瞬間までは。


『ぐっ……なんだ……貴様は!?』


 凄まじいまでの連撃。ただ双剣を振るうのではなく、トリッキーな動きを織り交ぜ、時には自らの機体の損傷すら厭わぬその戦い方はまるで獣。前半の試合の中で見せていた一剣一盾の戦い方や、記録映像やシャルロット、ダルタニアンとの戦いの中で見せていた『双剣』とも明らかに違う。

 ーーこれがアルカンシェルの本性だというのか?

 背筋を嫌な汗が伝い、ザビーナは、悪寒に身を震わせた。円卓の騎士であるはずの自分が恐怖している。偶発的に遭遇した、『革命団(ネフ・ヴィジオン)の二刀使い』を狩るどころではない。ザビーナは圧倒されていると言わざるを得なかった。

 それを認めざるを得ないほどに、目の前の〈エクエス〉から伝わってくる気配は、鬼気迫るものだった。

 ザビーナはその恐怖から逃げるように後方へ飛び退き、槍を叩きつける。〈エクエス〉は最早避ける気もないらしく、X字に構えた双剣でそれを受け止めた。がっちりと挟み込むことで、高速振動を封じ、剣の破壊を免れているらしい。

 しかし、出力の差故か、それとも脚の損傷で踏ん張りが利かないのか、ジリジリと〈エクエス〉は押し込まれていく。

 ザビーナの心に恐怖を洗い流すかのような勝利の予感が流れ込んだ。


『浅はかだったな……融け落ちろ!』


 次の瞬間、〈エクエス〉の双剣が白い煙を上げて、溶解し始めた。赤熱した金属がどろりと粘着質の液体となって、〈エクエス〉の足元に垂れ落ちる。

 機体に溜まった熱を槍を通して放出する熱エネルギー解放システム。今までの試合では一度も使ったことのなかった、《ゲイボルグ》のもう一つの隠された機能だ。

 ゆっくりと、だが着実に、剣を溶かし、〈エクエス〉の本体へと迫る槍に、ザビーナは勝利を確信し、〈エクエス〉のコックピットに座るジンはーー歪んだ笑みを浮かべた。


「はっ……おまえがな」


 融けた剣を手放し、腕の装甲が溶解するのにも構わず、勢いを殺した槍を払いのけるようにして、受け流す。〈エクエス〉のすぐ横の地面が莫大な熱を受けて、じゅうっと、肉が焼けるような音と共に、煙を吹き上げた。


『逃がさん!』


 ザビーナにこの勝機を逃がす気はない。しかし、素早く振り上げた槍は〈エクエス〉が軽く横に飛んで避けられる。


『だが、これは避けれまい!』


 だが、飛んだのは損傷した脚のある左側。ダメージのある脚では満足に着地の衝撃を殺せないのは見えていた。

 捉えた、とザビーナが確信した直後、『エクエス〉は、両腰の双剣を逆手に握り、抜き打ちに振るった。

 キンっと甲高い金属音が響く。


『バカ、な……!?』


 ザビーナの口から驚愕がそのまま声となって漏れた。

 〈エクエス〉は、頭上から振り下ろされる《ゲイボルグ》のタイミングに合わせ、剣を抜き放ちに交差させながら振るい、《ゲイボルグ》の穂先を切断したのだ。

 しかし、脚部のダメージで勢いを殺しきれなかったのか、それとも今までの負荷に耐えかねたのか、左側にずれた槍の軌跡が、〈エクエス〉の左腕を叩き落とした。

 だが、その隙に〈エクエス〉は一気に踏み込み、〈パロミデス〉の懐に潜り込んでいた。

 踏み込んだ衝撃で、半壊していた脚部はすでにその機能を失っていたが、この密着状態では最早、用のないものであろう。


「死ね」


 凍てつくほどに冷たい死神の声が、ザビーナの鼓膜を貫いた。

 ジンは狂気を隠さないままに、高速で剣を振り抜く。コックピットめがけて。ただただ殺すつもりで。


『うぐぁあああああああ!』


 直後、通信越しに、ザビーナの悲鳴が響いた。

 コックピットを狙ったジンの斬撃は、〈パロミデス〉が咄嗟に半身になったことでわずかにそれ、コックピットそのものを抉るとなく、腹部から右肩に抜けるように〈パロミデス〉を切り裂いていた。

 しかし、コックピットを覆う装甲は斬撃によってひしゃげ、飛び散った破片が、ザビーナの美しい(かんばせ)を切り裂いていた。

 ジンは、甲高い悲鳴に、はっとしたように目を見開いた。その表情はいつもの無表情に戻り、つい先ほどまで張り付いていた歪んだ笑みは消えている。

 会場には静寂が降りていた。絶対にあってはならぬ、円卓の騎士の敗北。そして、それを成し得た平幕の騎士。多くの観客がその事実を理解しかねていた。


『許さん……許さんぞ! アルカンシェル!』


 珪化木(ペトリファイドウッド)の瞳を憤怒と憎悪にギラつかせ、地獄から響くがごとき声が、ジンの耳を叩く。


『貴様……生きて帰れると思うなよ……この私に逆らうことの愚かしさを教えてやる』

「……くだらない」


 ジンが小さく漏らし、〈パロミデス〉が半ばから切断された《ゲイボルグ》を振り上げた直後、会場全体を揺らす爆音が響いた。


「……なんだ?」

『ちっ……なんだ! なにが起きている!』


 吹き抜けになっている空を見上げる。赤み始めたそこには一筋の黒い煙が吹き上がっているのが見えた。


『ば、爆発だ!』


 誰ががそう叫んだ直後、静寂が降りていたコロッセウムに喧騒が戻る。しかし、その元凶は完成ではなく、逃げようとする人々の悲鳴と怒号だった。

 その時、金属と金属がぶつかり合う音が、ジンの耳に届いた。連続して数回。特徴的なリズムを伴って。

 飛翔体が来た方角を自動で逆算した機体が、カメラをのフォーカスを向ける。

 映ったのは見慣れた白銀の髪と紫水晶(アメシスト)の瞳。そして、手にした狙撃銃(スナイパーライフル)

 カメラが向いたことに気が付いたのか、その少女は、手をひらひらと振った。


「……なるほどな」


 メッセージを受け取ったジンは、即座に擱坐した機体を放置し、迷わずコックピットから飛び降りる。


「貴様! 逃げるつもりか!」

「おまえのくだらない茶番に付き合う気はない」

「待て!」


 ジンはコロッセウムの中央から、人混みの方へ走りながら、ザビーナに告げた。


「次は〈ガウェイン〉で、確実におまえを殺す」


 その言葉を最後に、アルカンシェルという名のヴィクトール伯爵のお付きの騎士は完全に消え去り、ジン・ルクスハイトという革命団(ネフ・ヴィジオン)の騎士は、秩序なき群衆の中に消えた。

11/18 (水)

違和感があったので、一部を加筆修正。


1話挟んでの更新になりましたが、ジンVSザビーナ完結。

ジンの狂気(ほんき)の片鱗が見え始めた感じです。

ザビーナさんの株が相対的に下がったような気もしますが、円卓の騎士なので、これからの出番で株も上がると思います……たぶん。


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