接触 -Fate- 12
〈アンビシャス〉が、騎士銃槍を振るう。剛槍の重い一撃は、受けた〈エクエス〉を崩すには十分過ぎるほどの威力がある。追撃の突き。槍の一撃はコックピットを違えず貫き、〈エクエス〉を停止させる。
「これで12機。さて、次は誰だい?」
不敵に笑むレナードを囲む騎士団のMCの数は大幅にその数を減じていた。レナードが12機、ティナが9機、ディヴァイン指揮下の部隊が3機。この時点で、戦力差6:1から始まった戦闘は、騎士団機の3分の2の撃墜によって覆りつつあった。
とはいえ、革命団も無傷ではない。撃墜数を稼いでいるとはいえ、所詮は6機。各々の負担は想定以上に高い。奇襲に成功した最初こそ調子が良かったものの、時間と共に、徐々に戦局は悪化している。
今の所、直撃を貰ったメンバーはいないが、掠めた剣戟や打ち合った衝撃は確実に彼らの機体を蝕んでいる。元より、パーツ自体の性能は正規生産品である騎士団のMCに劣るのだ。当然、戦闘での劣化も早い。
いつも通りの笑みを浮かべ、余裕を見せるレナードとて、その頬伝う汗までは隠せない。彼自身の体力の限界も迫っているのだ。
『レナード! 剣持ってない?』
「あるけど、何かな?」
『ラスト二丁。10発切った』
「……不味くないかな、それ?」
レナードとディヴァイン達の双方を砲撃支援するティナの存在は、中央で敵機を釘付けにする役割を持っていた。ここでそれがなくなると、革命団の戦線が一気に瓦解する可能性がある。
単騎戦力であるが故に、フォローが効かず、いざ崩れるとなると立て直しはほぼ不可能なのだ。それだけは避けねばならない。
『わかってるけど……わたしの継戦能力は72発だって最初に言ったでしょ!』
「まずいね……」
残弾10発を撃ち切れば、丸腰のティナが敵のど真ん中に取り残されることになる。かといって、剣を渡そうにも、レナードもディヴァインも、周囲に配置された騎士団のMCの囲みを抜けなければならない。
ティナの技量ならそこそこ耐えるだろうが、4機を相手にして、丸腰では生き残れまい。マスケットの銃剣もあるにはあるが、まともに打ち合えば、砕ける程度の耐久力しかない飾りに近い代物だ。銃剣だけでの近接戦は不可能だろう。
砲撃支援を失えば、レナードとディヴァインだけならばともかく、新人3人を抱えて逃げ切れるわけもない。
『ってか、ジンは!?』
「知らないって!」
『落ち着け。〈ガウェイン〉がいない事態などいつでもあり得ることだ。《フェンリル》、貴様はその10発で残り4機を排除することを考えろ。《マーナガルム》は可能な限り前に出て今張り付いている連中を釘付けにしておけ』
レナードは振り下ろされた剣を盾で受け止め、槍を振るって別方向から斬りかかってきた〈エクエス〉を弾きつつ、通信に意識を向ける。
『どうする気かな? 《スレイプニル》』
『俺たちが突貫する。合流すれば活路も見える』
『いけるかい?』
『それしかないだろう?』
『確かに、ね!』
レナードはあえて盾に押し込まれることで、〈アンビシャス〉を引き気味にし、ティナとディヴァインの方から離れる。さらに、銃槍の引き金を引く。至近で盾に弾けた散弾は、盾の表面に施された硬質金属を抉り、さらに、盾の影から顔を出していた頭部に穿孔を開け、破壊する。
当然、発生した跳弾は、〈アンビシャス〉の装甲を抉るが、構う気はない。
頭部を失い、一時的に視覚を失った〈ファルシオン〉を盾で弾き飛ばす。あえて、横薙ぎに払うようにして弾くことで、隊長機の損傷に、援護に入った〈エクエス〉に機体をぶつける狙いだ。
しかし、さすがに隊長機と言うべきか、ぶつかる前に体勢を立て直している。だが、レナードの狙いはもう一つある。それは視界を遮ること。
頭部を破壊され、大部分の索敵能力を失した〈ファルシオン〉とその影に入る形になった〈エクエス〉。その双方の視界から、レナードの〈アンビシャス〉はほとんど消えている。
全力の突きが二機を纏めて貫いた。コックピットに座るレナードの口元が酷薄に歪んだ。
「ーーじゃあね。 己の甘さを呪って轢死しろ」
全力。二機を纏めて貫くために必要だったこととはいえ、一時的にレナードの動きは止まる。深々と刺さった槍を引き抜くには当然、時間がかかる。
だが、レナードは疑っていなかった。信用でも信頼でもなく、疑義がない。なぜなら、彼女はこの部隊における、一番の甘ちゃんだからだ。そこに疑う余地はない。
動きの止まったレナードの〈アンビシャス〉に、仲間を討たれた〈エクエス〉が剣を向ける。直後、後ろから何かに押されたように前のめりに押し出される。こちらに銃口を向けているのは、ティナの〈アンビシャス〉。思った通りだ。
『レナード!』
「甘いねぇ、やっぱり。でも予想通りだよ」
革命団のメンバーは、革命を目指す同志であっても、仲間意識は薄い。特にこのMC部隊はジンがいることもあってそれが顕著である。
だが、ティナは違う。お人好しで甘ちゃんで、仲良しこよしの仲間に期待しているような正真正銘、お花畑なお姫様だ。
だからこそ、自分の生命線たる10発の内1発でさえも、仲間のために使えるのだ。
前のめりに倒れた〈エクエス〉が、立ち上がるより先に、〈エクエス〉の首辺りに重量のある盾を叩きつけ、機能を停止させる。そして、開いた空間に向けて、腰に佩いていた騎士剣を投げる。
「お礼だよ。お姫様」
『誰がお姫様よ! けど、助かる!』
叫び返したティナが、最後の銃弾を放つ。盾を吹き飛ばされた〈ファルシオン〉に避ける術はない。一撃の名の下に散弾に装甲を食い荒らされ、物言わぬ人形へと変わり果てた。
そして、反動を利用し、マスケットを投げ捨てながら飛び退いた〈アンビシャス〉が剣を拾い上げ、レナードの〈アンビシャス〉の側まで下がる。
「うーん、キミとの連携は自信ないなぁ……」
『うっさい。ってか、わたしもないわよ!』
その時、囲みを突き破って4機の〈ヴェンジェンス〉が現れる。しかし、焦りのせいか、安心のせいか、一機の〈ヴェンジェンス〉が、既に撃墜された〈エクエス〉につまずきふらつく。そこに追いかけていた〈エクエス〉が切り込み、反応し損ねた〈ヴェンジェンス〉が両断される。
『援護!』
「わかってるよ」
槍を引き抜いたレナードとティナは、近くにいた〈エクエス〉を無視して合流する。
どうやら、コックピットは壊されなかったらしく、ディヴァインがカバーに入り、他のメンバーがコックピットを開いてパイロットを救出する。
救出されたのは、チョコレート色の髪の少年だ。確か、《ニーズヘッグ》というコードネームを与えられていたはずだ。怪我を負い、意識を失ってはいるものの、生命に別状はなさそうだ。
『《フギン》は《ニーズヘッグ》を回収しろ。《ムニン》は《フギン》の援護だ』
ここに来てついに被撃墜機がでた。いずれにせよ、戦力が減るのはまずい。パイロットは無事であったものの、その護衛にはさらに人員を回す必要がある。実質動員戦力はさらに減ったことになる。
『乱戦ではもはや不利だ。まずは耐えるぞ』
戦場開始からすでに数時間。ようやく、部隊が合流した瞬間だった。その時、全員が聞きなれたヘリのローター音が戦場に響いた。そして、通信機にこれのまた聞きなれた声が入ってくる。
『ギリギリセーフ、かな? こちら、《グレイプニル》。聞こえるかい?』
『カエデ!? ジンは!?』
『期待に添えなくて悪いんだけど、《フリズスヴェルク》はもう降ろしたよ』
「どういうことかな?」
『残念、説明は後にしようか。迎撃準備。新手が来るよ』
そして、カエデのヘリが捉えた情報はデータリンクを通して、彼らの元へと送られる。映し出されたのは、街道をまっすぐにこちらへ向かって高速接近する光点。
『高熱源体接近!? これってまさか……団長機!?』
『正解だよ。前門の虎、後門の狼ってところかな』
『まずいな。散開しろ!』
『散開っていっても、どうすれば……!?』
『うーん、まずいね、これ』
『ひっ……か、囲まれて』
『くっ……強行突破しかないね。回収ポイントを送る。各自そこに辿り着いて!』
ディヴァインが指示を出すが、すでの遅い。騎士団のMCは、すでに彼らを囲むように配置され、一方向、団長機の迫る方向のみを開けている。
カエデから回収ポイントが送られてくるが、この囲みを抜けてそこまで辿り着くのは無茶というものだ。とはいえ、運び屋である彼にそれ以上にできることはない。
『フハハハハ! 貴様らが噂に聞く革命団とやらか! 吾輩は、コルベール家が誇る蛇炎騎士団が団長、ダニエル・クレセント・ド・コルベールである! 吾輩の騎士団に喧嘩を売って生きて帰れると思ってもらっては困るぞ!』
まっすぐに突っ込んでくる機体は、見かけない機体だった。棘状のスパイクを散らした球状のハンマーに、大型の盾。そして、機体サイズそのものも、一回りほど通常のMCより大きい。
余計な装飾なく、鈍色に輝く装甲は、単純にその強度を物語っている。そして、何より、早い。重装歩兵といった趣見た目ながら、その移動速度は、第三世代機の〈ファルシオン〉にも匹敵するものだった。
『我が〈レギオニス〉の前に粉砕できぬものなし!』
盾を前に突き出し、そのまま突進をする構えの〈レギオニス〉に退路を断たれたレナード達は何もできない。だが、ディヴァインだけは、レナード達を守るように前に立ち塞がった。
『ディヴァインさん!? 無茶ですよ!』
「正気かい?」
『ディヴァインさん!』
『俺がいくしかないだろう?』
全員が引き留める中、ディヴァインは〈ヴェンジェンス〉を駆って、自ら、突進する〈レギオニス〉へと突貫する。
『その度胸や良し! だが、〈レギオニス〉は城塞! 砕いてくれよう!』
『ふんっ!』
〈ヴェンジェンス〉と〈レギオニス〉の盾がぶつかる。十分に加速をつけた〈レギオニス〉の前では、旧型、それどころか型落ちの機体である〈ヴェンジェンス〉など紙屑にも等しい。
しかし、ディヴァインは持ち堪えていた。押し込まれ引きずった足が、舗装したコンクリートを削り、跡を残す。重圧に装甲とフレームが軋み、砕ける。
『なんと!?』
だが、それでも耐え切った。ディヴァインは、機体に残されたエネルギーを全て使い切るつもりで、リミッターを外し、見事、〈レギオニス〉の突進を防いでみせたのだ。
しかし、機体はもう限界だった。リミッターを解除された電気系統は焼き切れ、ひしゃげたフレームはもはや用を成さず、〈ヴェンジェンス〉はその場に崩れる。
『フハハハハ! なんとも命知らずな騎士よ! だが、認めてくれようぞ! 貴様の蛮勇! せめて楽に逝くがいい! さらばだ、勇気ある騎士よ!』
「させないよ」
振り終え降ろされた戦鎚を受け止めたのは、いつの間にか〈ヴェンジェンス〉の側まで移動していたレナードの〈アンビシャス〉だ。
『レナード!?』
ティナが叫ぶが、レナードは無視して、戦鎚を受け止めている手と反対の手で、〈ヴェンジェンス〉に触れた。通信は死んでいるが、接触回線は生きているらしく、ノイズがあるものの繋がった。
「大丈夫かい? 《スレイプニル》」
『ああ、なんとかな。だが、機体は保たん』
「多少は構わないよね?」
『構わん。邪魔になる気はないのでな』
「助かるよ」
レナードは、〈ヴェンジェンス〉の腕を掴み、手早く後ろに投げ捨てる。そして、槍を再度構え、〈レギオニス〉を見据える。
『ディヴァインさん!?』
「《フェンリル》は周りの連中をなんとかして。双子ちゃんは《スレイプニル》の救出。分かった?」
『『りょ、了解です!』』
慌てて動き出す二機の〈ヴェンジェンス〉。それに追従するように動きながら、ティナはレナードに言う。
『レナード! 撤退しないと!』
「撤退?」
レナードは異言語を聞いたかのように、理解できないといった様子で首を傾げると、獰猛に笑んだ。
「何言ってるんだい? 撤退なんかしないよ」
『何言って……』
「最近、ジンにいいとこ持っていかれっぱなしだったからねぇ。ここらで差を詰めとかないと。気に食わないんだ」
『ふざけてるの?』
「いや、いたって本気さ」
レナードは全周波通信をオンにして、目の前の騎士へと話しかける。
「じゃあ、脳筋騎士。一騎打ちといこうか」
『なんだ貴様は!』
「僕かい? ただの狼さ。キミの血に飢えた、ね?」
戦鎚を弾きかえす。機体コンディションは最悪。武器は絶賛劣化中。だが、それでもレナードは負ける気がしなかった。
「じゃあ、始めようか。這い蹲らせてあげるよ」
『調子に乗るなよ! 小僧!』
戦鎚と槍が火花を散らし、騎士団とレジスタンス、異なる立場にある者達が見守る中。その決闘は幕を開けた。
9/10(木)
誤字修正。追記。




