接触 -Fate- 08
その夜。ジンはノックの音で目を覚ました。
「ジン様、夜分遅く申し訳ありません。まだ、起きておいででしょうか?」
「ああ、なんだ?」
「いえ、賊を捕らえましたのでご報告に」
「なぜ俺に報告する?」
「ジン様のお知り合いとのことでしたので、旦那様に報告する前に、真偽を確かめたいと思いまして」
「……鍵はかけてない。入っていい」
ジンは一応、ナイフを手首に仕込んでから、そう答える。しかし、失礼します、と老執事が連れて入ってきた人物を見て困惑する。
入ってきたのは、黒髪に黒目、服装も真っ黒という、とにかく黒い少女だったのだ。残念ながら、ジンの知り合いではない。
「誰だ、それ?」
「おや、お知り合いではございませんでしたか?」
「……心外」
喋り方に心当たりがあるが、そいつは機械の合成音みたいな声だった気がする。しかもよりにもよって、心当たりは革命団のメンバーである。
「いや、知り合いの可能性が出てきた」
「……そこは認めるべき」
「……セレナだったか?」
「……正解」
心当たりの名前を口にすると、少女はこくりとうなずいて肯定した。
確か、《メスィドール》直轄の諜報部隊に所属するメンバーで、いつもは黒装束で人相を隠していたはずだ。その隠密としての能力は高く、帝都での任務に就いているとの噂だったのだが、帰ってきていたようだ。
《テルミドール》の許可を得てここにいるジンのもとを、わざわざ尋ねたということはつまりーー
「休暇は終わりか?」
「……そう」
「仕事の関係者ということでよろしいのでしょうか?」
「ああ」
老執事はそれ以上はなにも言わなかった。おそらく、何か思うところもあるのだろうが、あえて口にしていないのだ。問い詰められたら誤魔化し切れる自信はないので、その気遣いはありがたい。
「で、仕事は?」
「……明日、領内の詰めどころに」
「了解」
「……伝言は以上。じゃ」
セレナはジンに伝えることだけ伝えて、さっさと逃走を図ろうとするが、どこからともなく伸びてきた腕に拘束される。
老執事はいつも通りにかしこまった表情をしているが、その目はまったく笑っていなかった。
「申し訳ありませんが、不法侵入について少し説教……いえ、ご注意をさせていただきたいのですが、構いませんね?」
「……無理」
「ご遠慮なさらずに。旦那様には黙っておきますから」
「……助けて」
ジンは無視した。残念ながら、あえて助ける理由が見つからなかった。わざわざ夜中に侵入してきた挙げ句、捕まった隠密を助けてやる義理はジンにはない。そして、そこまで親密でもなければ、必ず助けなければ次の作戦に支障が出るということも一先ずはない。
「ジン様、それでは失礼します」
「……死にたくない。助けて」
「いえいえ、ご安心を。客人には失礼のないようにするのが我が家の方針ですので」
「……へるぷみー」
じたばた抵抗しながら引き摺られていくエマが、なにやら捨てられた子犬のような目で見てくるが、まったく罪悪感が刺激されない。この家はいろいろと規格外なのだ。一言で言ってしまうならば、つまるところ、こういうことだった。
「そいつに喧嘩を売ったおまえが悪い」
「……否定できない」
「ちなみに、なんで気付かれた?」
「……不明。どこからともなく現れて拘束された」
「……おまえ何者だ?」
「一介の執事にございます。それでは、失礼いたしましす」
パタンと無慈悲にドアが閉じられ、セレナと老執事は消える。どうやら、革命団の隠密部隊筆頭は、カルティエ家の老執事には敵わないらしい。
「さて」
ジンはここ数日の腑抜けた気分を全て切り捨て、酷薄さを感じさせる歪んだ笑みを浮かべた。
そこには、この場所で彼が見せていた柔らかな感情は感じられない。それどころか、その真紅の瞳は、ただ血に飢える獣めいていた。
「叛逆の時間だ」
9/10(木)
キャラクターの名前を変更及び、それを踏まえて追記。
エマ→セレナ




