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noblesse;oblige  作者: 夏桜羅(原案・設定協力)、雪羅(原作・執筆担当)
第9章 因縁 -the prisoner of past-
251/300

epilogue-02

連続投稿八話目。 読み飛ばしに注意!

 ザビーナ・マーシャル・ラ・オルレアンは、顔をしかめ、小声で


「成金趣味め」


 と吐き捨てる。最も、それは苛立ちをぶつける対象としての言葉であり、実際の現実とは少々、趣きを異にしていた。

 その部屋は、確かに宝石で飾り付けられた剣や壺などの少々──言い方は悪いが──下品な品が置かれている。しかし、一つ一つとってみれば装飾過多で、うるさい印象を受ける品々も、部屋全体としてみれば調和し、一つの美の形を作り上げている。

 決して、それを成金趣味と謗ることはできないだろう。もっとも、ザビーナ・オルレアンという、財政難の家の客人を迎えるにあたって、それは少々嫌味であると言えるのは事実だったが。

 まあ、それ以前にこの屋敷の主人からすれば、そういった品々など、端金程度のものでしかないのだろうが。ことさら、金があることを主張しているつもりもないのである。

 ザビーナ自身もそれを知っているが、つい吐き捨てるように言ったのは、八つ当たり以外の何者でもない。


「ちっ……」


 ザビーナは舌打ちする。その舌打ちは主に、自分の不甲斐なさへの苛立ちであった。

 ザビーナは、真新しい騎士服に身を包んでいるものの、襟元や袖元からは、真っ白な包帯が覗いている。

 先の戦闘で〈ガウェイン〉に敗れた彼女は、命に関わるほどではないものの、重症を負っていた。

 ザビーナは苛立たしげに、その凛とした美しさを魅せる顔に、斜めに横切る傷を撫でた。

 この傷をつけたのも、敗北したのも、全く同じ相手だった。アルカンシェル、あるいはジン・ルクスハイト。

 ジェラルド・カルティエに師事した、もう1人の双剣の騎士にして、革命団(ネフ・ヴィジオン)の快進撃を支える竜の片翼。

 ザビーナの全ては彼が現れてから、変わってしまった。

 円卓の騎士(ナイツ・オブ・ラウンズ)としてのプライドを砕かれ、傷を負わされ、領地での立場を失い、機体さえも失った。

 珪化木(ペトリファイドウッド)めいて色合いを変える瞳に、憎憎しげな光が宿る。

 その思考は、たった1人の少年への憎しみで支配されていた。


「ルクスハイトだと……革命に囚われた亡霊が……!」


 再び吐き捨てる。13年前、ルクスハイトの関係者が全員処刑されたのを、ザビーナは覚えていた。ザビーナより5歳ほど若く、当時は幼かったシャルロットは覚えていないようだったが、ザビーナはその時のことをよく覚えている。

 オルレアン伯爵家は当時、法廷における裁判官の役を担っていた。その縁で、父が関わったその事件のことを覚えていたのだ。

 あの日、ルクスハイトの関係者は一族郎党処刑された。だが、ザビーナは後に、父が話しているのを耳に挟んだことがあった。

 そう、叛乱の首謀者として公開処刑に処された、ヴァン・マクシミリアン・ルクスハイトの1人息子が行方不明のままである、という事実を。

 ザビーナもあの時執り行われた処刑現場には、オルレアンの関係者として出席していた。そこで、少年を見かけた記憶は、ある。

 そう、処刑が終わり、荒れ狂う民衆に、気味の悪さを覚え、席を外していた時に、真紅の瞳を激情に燃やした少年が駆け去っていくのを見た。

 先の戦いで、コックピットの中に見えた少年の瞳。真紅の瞳に地獄の業火の如く燃え盛る、憎悪と憤怒と殺意。それはまさしく、あの時、見送った少年だった。


「ぐぅ……」


 身体が痛む。だが、身体以上に、ザビーナを苛むのは精神(こころ)だった。その感情は恐怖。理解できぬものへの恐れ。本能的に感じる嫌悪。

 ザビーナは知っている。一度でも恐怖に囚われたものは、敗北する。そう、かつての〈パロミデス〉の前任者がそうであったように。


「私は……!」


 分かっていた。あの瞳に射竦められた瞬間、ザビーナ・オルレアンは、騎士から、狩られるだけの狐に変わったのだ。

 ザビーナは恐怖を振り払うように首を左右に振る。しかし、脳裏にこべりついた眼光からは逃れられなかった。

 その時、応接室の扉が開き、1人の男が姿を見せる。豪奢な貫頭衣に身を包んだ、その欲深さで身を鎧うかのようにでっぷりと太った男。だが、その紫水晶(アメシスト)の瞳は、そんな印象を覆すほどに理知的で、それでいて、恐ろしいほどの深淵を秘めていた。

 そう、彼こそが、この屋敷の主である、セレーネ公爵である。

 ザビーナは、苛立ちを押し殺しつつも、臣下の礼を取る。しかし、セレーネ公爵は、返礼もしなかった。

 言うまでもないことだが、目上の者が過剰に礼を尽くすのは非礼であるが、礼に対して礼を返さないというのは、それ以上に無礼である。

 それはすなわち、相手のことを敬意を払うに値しない相手だと表明していることと同義だからだ。

 ──馬鹿にしてくれる……!

 ザビーナが内心で憤慨していると、セレーネ公爵は一言、


「つまらぬ礼など良い。我は貴君の答えを聞きにきたのでな」

「私の答え、だと……!?」


 礼を逸した言葉遣いにも、セレーネ公爵は気にした風もなく続ける。


「左様。貴君も己の立場くらいは分かっていよう? オルレアン伯爵家における貴君の立場はもはや、存在せぬも同義だとな」

「ぐっ……」


 痛いところを突かれた。そう、ザビーナ・オルレアンは、コロッセウムを主催するオルレアン伯爵家の騎士にして、円卓の騎士(ナイツ・オブ・ラウンズ)の一柱。その立場は揺るがぬものだった(・・・)

 コロッセウムでの敗北、そして、漆黒のMC部隊による領都の混乱を未然に防げなかったこと、さらには賠償金で財政が悪化していたこのタイミングでの出兵とその失敗。

 度重なる失態で、オルレアン伯爵家におけるザビーナはもはや、路傍の石とも変わらぬ程度の扱いでしかない。

 そう、ザビーナは全てを失ったのである。


「オルレアン伯は、貴君の身を他家に渡すことで、支援を得ようとしておったようであるがな」

「なっ……!」


 当主である伯父にすら見放されていたとは思っていなかったザビーナは絶句する。


「手当たり次第に縁談を申し入れるあたり、貴君にも女としての価値はあると思うたのであろう。円卓の騎士(ナイツ・オブ・ラウンズ)でありながら、凛々しき美女とあらば、その手の趣味の人間に貰い手もあろう。肥えた変態はどこにでもいるものであるからな」

「ふんっ、ならば、貴様がその肥えた変態か、セレーネ公爵」


 吐き捨てるように言ったザビーナに対し、セレーネ公爵はくつくつと喉を鳴らす。


「我が、そのような愚か者と思われておるのは心外であるな。貴君を女として使うなど、愚昧の極みとであるぞ」

「ならばなぜ私を呼んだ?」

「貴君に雪辱を晴らす機会を与えるだけのことよ」

「なにっ!?」


 ザビーナは食らいつくような勢いで立ち上がった。それはすなわち──


「ルクスハイトの小倅と〈ガウェイン〉。貴君にとっては、縁ある相手であろう?」

「…………」


 ここにきて、ザビーナはようやく冷静さを取り戻していた。相手はセレーネ公爵。辣腕で知られる、楽園(エデン)でも指折りの策謀家だ。冷静さを欠いたまま、相手の思った通りに動かされるのは、ザビーナ自身にとっても、オルレアンという家にとってもまずい。


「私に戦わせる理由があるのか? ローゼンクロイツ卿でもカルティエ卿でも容易く奴は討てるだろう。2度敗北し、〈パロミデス〉を失った私を選ぶ理由などあるまい」

「くくっ……少しは頭が冷えたようであるな」


 見透かされている。ザビーナは内心舌打ちを零す。元よりザビーナは策謀家ではなく、騎士だ。腹芸で勝てる道理もあるまい。


「貴君が望むだけで良い。我はすでに〈パロミデス〉の再生産の準備は初めておる」

「今回の介入といい、負けることすら予想済みだったとでも言いたげだな……!」

「くっくっくっ……手は打っておくのが当然であろう?」

「くっ……だが、それでも私を使う理由などあるまい」


 そう、ザビーナである理由はないのだ。〈ガラハッド〉、〈アグラヴェイン〉、〈ケイ〉、ザビーナより格上の円卓の騎士(ナイツ・オブ・ラウンズ)が3機あの場にいたのだ。その気になれば、革命団(ネフ・ヴィジオン)を壊滅させることさえも容易だったはずだ。

 〈ガウェイン)とジン・ルクスハイトを討つのであれば、ザビーナである必要性がない。もっと楽に討ち果たせるものはいくらでもいるのだから。

 つまり、ザビーナにさせたいのは〈ガウェイン〉を討つことではないのだろう。


「それは否定せぬ。だが、貴君は黙って見ていられまい。その傷を消さぬことこそ、その証拠よ」

「…………」


 図星を突かれたザビーナは黙り込むしかない。このくらいの傷であれば、楽園(エデン)の最先端の医療技術を用いれば、傷痕も残さず治せる程度のものだ。あえて残したのは、ザビーナの〈ガウェイン〉とジン・ルクスハイトへの執着に他ならない。


「それとも、逃げを打っておるのは、恐怖から逃れられぬだけか?」

「──っ!」


 ザビーナは息を飲む。瞬時にそれを否定できなかったのは、心にまとわりつくそれ(・・)から目を逸らせなかったからだ。

 確かにザビーナは恐怖していた。ジン・ルクスハイトという獣に。燃え盛る憎悪の劫火に。

 しかし──

 否、だからこそ──


「奴は必ず倒す。貴様の指図は受けん!」

「くくっ……それで良い」


 満足げに笑うセレーネ公爵に、乗せられたことを悟ったザビーナは唇を噛む。思うがままに人を操る、と言われる人心掌握術の一端を見せつけられた気分だ。

 もちろん、ザビーナ自身、分かりやすく乗せられやすい、いわゆる騎士──悪い言い方をするなら、脳筋──であるという自覚はある。

 セレーネ公爵は、笑みを引っ込めると、さらに続けた。


「それに、楽園(エデン)はまもなく、大火に見舞われるであろうからな。貴君のような騎士を遊ばせておくわけにはいかぬ」

「どういうことだ……?」


 ザビーナが尋ねると、セレーネ公爵は、少し驚いたように息を吐いた。だが、その瞳にあるのは計算高い色だ。

 ザビーナが知らない、という小さなことすら、このセレーネ公爵にとっては、なにかを思考するための材料であるらしい。


「ほう、気付いておらぬのは、貴君の愚鈍か、それとも部下の愚鈍であるか……まあよい、近く、教会とフロイス伯爵が動く。その時、何もせぬわけにはいくまい」

「…………」


 ザビーナは黙り込む。それが事実であるとすれば、楽園(エデン)に起きるのは内乱だ。革命どころの騒ぎではない。

 それは、革命団(ネフ・ヴィジオン)以上に民を傷つけ、楽園(エデン)を揺るがす事態になる。

 そんな時、黙って見ているのをザビーナ・オルレアンという騎士は許容できるだろうか。答えは言うまでもなく、否である。

 しばらく考え込んでいたザビーナは、居住まいを正し、口を開いた。


「……公爵閣下」

「うむ」

「閣下が望むことはなんでしょうか?」

「くくっ……貴君に望むことなどない。我は貴君に再戦の機会を与える以外のことはせぬ」


 つまり、それだけで目的は達されるということだろう。掌で踊らされるのは癪だった。だがそれでも──

 思い起こされるのは真紅の瞳。そして、その内に燃ゆる炎。

 竦みそうになる心を抑えつけ、ザビーナは騎士としての礼を取った。


「我が剣をあなたに捧げる。その代わりに、私に戦場を与えていただきたい」

「よかろう。ザビーナ・マーシャル・ラ・オルレアンよ、貴君の望みを叶えよう」


 セレーネ公爵は、メフィストフェレス笑みを浮かべる。それは悪魔との契約。契約者は願いを叶える代わりに身を滅ぼす。

 だが、ザビーナはそれでも、己の脳裏にこびりついた真紅を振り切ることはできなかった。

 これを断ち切らない限り、ザビーナは囚われ続けるのだ。故に、呪われた因果であると理解しながら、ザビーナは進むことを選ぶしかない。

 そして、ザビーナ・マーシャル・ラ・オルレアンは、その日以降、オルレアン伯爵領に戻ることはなかった。

第9章完結です。2ヶ月くらい間が空いたりもしましたが、なんとか完結できました。

主な原因はなかなかモチベが上がらなかったことですね。リアルが忙しかったのもあるのですが……

また、完成してないのにまとめて投稿しようするのもよくありませんね。

次章からは、試験的に投稿形式を変更して、一章まるごとではなく、区切りまで言ったら上げていこうと思います。(気に入らなかったら戻します)

作者の話はこれくらいにして、本編について


ティナ以外の専用機に出番を与えたかったので、専用機VS円卓の騎士の構成になっています。まあ、まだまだギミックとか使えていないのはあるのですが……

そして、各メンバーの過去から続く因縁という今まで色々張っていた伏線を回収した形です。これからの物語にも関わっていく予定なので乞うご期待。


最終的に、全体としては11万字ほどで、合計がギリ100万に届かないくらいでした。次章で100万字到達ですね。我ながらよく書いたものだと思います。(クオリティはともかく)

一応、物語としては一区切りで、次章からは楽園(エデン)内乱編、という形で、長期に渡る続きものになります。色々黒い動きをしてた人達が動き出す予定です。

以下、詐欺もあるよ、な次回予告。


年の終わりも近づいた冬の頃。楽園(エデン)では、聖誕祭と呼ばれる、天聖教の始祖、ケルビムを讃える祭事の時期が近付いていた。

領民たちの生活基盤の安定に努める革命団(ネフ・ヴィジオン)の元に、ある情報が届く。

それは、聖誕祭に際して行われる、貴族のパーティー会場の座標。

そのパーティーには、多くの好位貴族が参加することも記されていた。


「これは……」

「ふむ、だが……」


そんな中、新たな反動勢力が旗揚げする。彼らの名は、『清浄の国(アルビオン)』。


「我らは『清浄の国(アルビオン)』! 楽園(エデン)の腐敗を断罪し、あるべき白き世界を取り戻すのです! 今こそ、我らが始祖に捧げましょう! 全てを白く染め上げる、鎮魂歌(レクイエム)を!」


ジン・ルクスハイトは、パーティーの招待者に記されたある少女の名前を見つける。

クロエ・カルティエ。ジンと共にあった、守ると誓った少女。


「行くの?」

「ああ、約束は守る」


そして、ジンは革命団(ネフ・ヴィジオン)ではなく、ただのジン・ルクスハイトとして行動を開始する。

そして、薔薇咲き誇る庭園で、1人の青年もまた、立ち上がる。


「ふっ、ならば、僕も征くとしよう」


そしてもう1人、狼の名を持つ青年もまた、その場所へと向かう。


「やれやれ……身代わりってかい? 肝の小さい男だねぇ」


聖誕祭の夜に鳴り響いた一発の銃声と、元老の死で、パーティーは終わりを告げ、混迷への輪舞曲(ロンド)が鳴り響く。


「急げ! 脱出する!」

「おっけい!」


清浄の国(アルビオン)』による浄化が始まり、戦端が開かれる。


「レーヴェルの名にかけて! ここから先は通しはしないさ!」

「ふふっ……せっかくのパーティーですから、ダンスのお相手をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「我こそは十戒騎士にして『慈愛』を司るものなり!」


「我は『沈黙』の十戒も守りし者! いざ、参る!」

「くだらない茶番だな。消えろ」


そして、激闘の中、かつて交わした誓いは儚くも崩れ去る。


次回、第10章 決別 - lost engage-

順次公開予定。

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