連鎖 -butterfly effect- 27
『さて、そこの二機、邪魔だから退いてくれる?』
「レナード!?」
本来ならいないはずのレナードが突然現れたことに驚愕するティナに対し、レナードの口調はいたっていつも通りで落ち着いたものだった。
『あれ? その声、ティナちゃんかい? ってことはそっちはジンか』
『おまえか。なるほど、革命団も動いたか』
ジンが納得したように言うと、
『はっ、無様だねぇ、ジン。騎士団長如きにやられるなんて、エースの名が泣くよ?』
『ならさっさと倒したらどうだ?』
なぜこの二人はいきなり喧嘩腰なのだろうか。
誰がどう見てもそんな暇はないだろうに。
「ちょっと、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
ティナが文句を言うと、レナードはため息を吐いて、分かりやすく、やれやれといった態度をとった。無駄に腹が立つ態度である。
ーーうん、殴っていいかな? 後で。
『これ、重要な話なんだよ? っと!』
そのタイミングで棒立ち気味だったレナードに〈レギオニス〉が斬り込み、レナードの〈アンビシャス〉は、左手の大盾を使ってそれを防いだ。
『貴様、何者だ?』
『ははっ、芸がないねぇ。人にものを尋ねる時はなんていうか、親に習わなかったのかい?』
だから、なぜ煽りに行くのか。
騎士団長の答えは無言で振るわれた大剣だった。
レナードはそれを危なげなく防ぐと、
『お名前を教えてくださいだろ? 騎士団長様?』
鋭い槍の一閃を突き出した。
いや、だから、なぜ煽るのか。
しかし、相手は騎士団長だ。滑るように槍を回避し、逆に大剣を振るい、槍を叩き砕こうとする。
『くだらん問答に付き合う気などない。斬り伏せてから聞かせてもらうまで!』
『はっ、軽い頭も下げられないようじゃ、器が知れるね』
次の瞬間、レナードの持つ槍が火を噴いた。騎士銃槍のもう一つの武器、騎士散銃と同様の散弾砲である。
しかし、〈レギオニス〉は、手首を捻って振っていた大剣を横倒しにして槍をかち上げ、散弾のほとんどを上方に暴発させ、残りを大剣の腹で受けて無力化した。
『ちっ……いつまでぼけっとしてる気だい? 早く退がれよ、邪魔だ』
「ふぇっ?」
いつの間にか、目前で行われる攻防の傍観者になっていたティナに、レナードの冷ややかな言葉が突き刺さった。
突然現れたレナードに気を取られて、戦場のただ中で気が抜けてしまったらしい。前回の時もそうだが、絶体絶命のピンチを回避すると、安堵のせいかなんなのか、腑抜けてしまうようだ。
改めて周囲を見れば、そこにはレナードと共に追い付いてきたのであろうシェパードの指揮のもと、騎士団と交戦する〈ティエーニ〉の姿があった。どうやら、フォローに入っていたらしい。
自分から契約を吹っかけておいてーーいや、吹っかけたのはジンなのだがーー情けない限りである。
反省と共に、両頬をばちんと叩いて気合いを入れ直したティナの耳に、何かがぶつかる音が届いた。
「ひゃっ!?」
初めは、なんの音かと思ったが、よく聞くと、それは一定のリズムのある音だった。革命団で使っている暗号だ。
ーーアケロ
「あっ……」
慌ててコックピットのハッチを開くと、いつの間にやら〈ティエーニ〉の手に乗り移っていたジンの不機嫌そうな顔が現れた。
ティナが誤魔化し笑いを浮かべると、真紅の瞳に呆れを宿し、ジンは素早く腕を伝って開いたコックピットに飛び込んでくる。
「……自殺志願は他所でやれ」
「……ごめん。って、その……怪我、大丈夫?」
「問題ない」
本人はそう言っているが、ジンには、それなりの怪我にも関わらず、平気そうな顔をして最終的に血を吐いた前科があるので、信用は出来ない。
思わずじと目を向けるが、そのタイミングに合わせたようにレナードが口を挟んだ。
『茶番はいいから退がってくれないかなぁ?』
「援護が必要に見えるが?」
ジンの言う通り、互いの武器を叩きつけ合う〈レギオニス〉と〈アンビシャス〉だが、レナードの〈アンビシャス〉が徐々に押されてきているのが現状だった。
以前戦った騎士団長ーーダニエル・クレセント・ド・コルベールよりさらに凄腕らしい。あの時でさえ、疲弊していたとはいえ、ほぼ相打ちに近い勝利だったことを考えると厳しいに違いない。
しかし、レナードはあくまで強気な態度を崩さない。
『はあ? この程度、ボク一人で十分さ。主役は主役なりの装いをしてこいって言ってるんだよ』
ティナにはまるっきり意味不明の言い草だったが、隣に座るジンは、それだけでレナードの言わんとしていることを理解したらしい。
ジンは一言、端的に尋ねた。
「……どこだ?」
『あの真面目な作戦司令官殿なら一番に着くように手配してるだろうさ」
「了解した。五分耐えろ」
ジンはそう言って、後方に退がれ、とティナに短く命令を下した。
状況を理解しかねたティナが何を言うより先に、
『はっ、甘く見ないで欲しいね。10分で十分さ』
「…………」
ジンは答えず、反応の鈍いティナを軽く小突いた。
「急げ、退がって輸送ヘリを探せ」
「え?」
「早くしろ」
「う、うん!」
苛立たしげなジンに、うなずいたものの、こう乱戦の状況下では後退するのも一苦労である。
どうするか迷っているティナの〈ティエーニ〉の背後から敵の〈エクエス〉を切り裂き、飛び出してくる影があった。
こちらも見慣れた黒のMC。〈ヴェンジェンス〉である。
『すいません、遅れました!』
『《フギン》および《ムニン》、参戦します!』
『鴉の割には目聡さが足りないねぇ』
『先輩がせっかちなんです!』
突っ込んできた二機の〈ヴェンジェンス〉のおかげで、乱戦の中にわずかな隙間が空いた。抜け出すなら今しかない。
「ちょっとの間、任せたからねっ!」
『ぼけっと突っ立ってただけの癖によく言うよ』
「うっさい」
「急げ」
「はいはい、わかりました!」
ティナは〈ティエーニ〉を操り、小さな間を抜けて、戦場から離脱する。後方に遠ざかっていく仲間たちのMCの存在を意識しつつ、街道を駆けるティナは、すぐ側にいるジンに尋ねた。
「ヘリを探せばいいんだよね?」
「ああ」
思ったより声が近くから聞こえ、驚いて小さく身動ぎしたティナは声の方をうかがい、今度は顔が近かったことに慌てて目を逸らした。
「どうだ?」
「え……? あっ、うん、いないけど……」
その時、ティナは、街の入り口付近に立つ一機のMCに気が付いた。
革命団の黒いカラーリングをした機体。〈アンビシャス〉だ。
相手もこちらに気付いたのだろう。臨戦態勢ではないが、いつでも対応できるように剣を抜いた。
すでに戦場にいるメンバーを除いて考えれば、あれに乗っているのは一人しかいない。
ティナはいくつかの操作をして、革命団の使う通信コードを入力すると、
「ディヴァインさん? 聞こえますか?」
『……その声、ティナか?』
一瞬の沈黙の後、男の声が返ってきた。それはやはり、ティナたちMC部隊の副隊長であり、実質的なまとめ役であるディヴァインのものだ。警戒を解かぬのは、不測の事態に対応するための、騎士としての姿勢だろうか。
「はい」
『無事だったか』
「いえ、レナードたちに助けられました」
『俺は置いていかれたようだがな。戦場には遅れたらしい』
「あはは……」
どちらかと言えば生真面目なディヴァインが、そんなレナードような冗談を言うと思っていなかったティナは、反応に困って愛想笑いを返した。
「俺の機体はどこだ?」
『ジンもいたか。無事でなによりだ』
いや、頭から血を流しているので、あまり無事とは言えないと思うのだが。
「もう一度聞く。俺の機体はどこだ?」
『〈ガウェイン〉か? 俺は聞いていないが……』
ジンは露骨に舌打ちを漏らした。仮にも年上に対して、ずいぶんな態度である。
というか、レナードが言っていたのは〈ガウェイン〉のことだったらしい。あれだけの会話で通じた理由がよく分からないが、ジンとレナードは、互いの態度の見かけよりは仲がいいのかもしれない。
しかし、対するディヴァインは、そんなジンの態度を咎めるどころか小さく笑い、
『だが、案ずることはない。俺たちのリーダーは、貴様の知る《テルミドール》は、ここ一番でその切り札を切らないほど愚かか?』
その時ーー
その言葉を証明するように、空に現れた一機のヘリから、渋みのある男の声が響いた。
《テルミドール》。熱月の名を負う、彼らのリーダーの声だ。
『アガメムノンの諸君に告ぐ。我々は革命団。我々は、貴族支配の脱却を求める者だ。そして、同時に君達の不満の、悔恨の、怨嗟の、憤怒の代弁者でもある。
さて、君達に選択肢を与えよう。新たな権力を前に平伏すか、我々と共にその牙を研ぎ澄まし、革命への道を突き進むか、その選択肢を』
それは、奇しくも数時間前に行われた、ルイーズ・マルグリット・ラ・マレルシャンと同じ宣布であり、しかし同時に、新たな道を示すものであった。
年末までに終わる詐欺でした、すいません。
完結まであと数話お付き合いください。




