prologue
俺は覚えている。
他の誰が忘れようとも、俺だけは覚えている。
忘れようもない。
あの日以来、『僕』だった頃のすべては終わり、現在の『俺』のすべてが始まったのだから。
そう、それは、『俺』にとっても、『僕』にとっても、始まりで、終わりだった。
「これは、粛清である! 我らの安息の地を穢した、下劣な者共を断罪する、裁きである!」
遠く響く声。後に続く歓声と拍手喝采。
見えているのに、すぐ近くにあるのに──
なぜだろう? それは、すごく遠くから聞こえた気がした。
「我々は断じてこのような暴挙を赦すわけにはいかない。悪しき愚民どもに与えられるべきは、死である! 唯一、死のみである!」
豪奢な服を身に纏い、処刑台の周りに集まった人々を煽る声。
ついこの間まで味方だった彼らは、その声に賛同するように、処刑台に座らせられた者たちに罵声を浴びせた。
ふざけるな……
どいつもこいつも日和見主義で、目の前のことしか考えちゃいない。
貴族は既得権益を守ることだけを
平民は自分たちの命と生活を守ることだけを
奴隷共はなんとかして奴隷から抜け出すことだけを
馬鹿にするにも程がある。
こんな奴らのために、こんな屑共のために、彼らは処刑台に送り込まれたというのか。
「そして、我々は彼らの死を以って、王への忠義とし、彼らの行いを未来永劫、赦さぬことを誓う!そうだ、我等こそが正義、絶対的主導者である!」
だというのに、処刑台に固定され、ギロチンの刃が落ちる瞬間を待つだけの虜囚と化した彼らの顔は、幾たびもの拷問の末、傷だらけになり、ぼろ布同然の服に身を包み、おおよそ、生気というものが感じられない目をしながらも、どこか満足げでさえあった。
そして、それは、彼の両親も同様だった。
理解できない。こんな、意味のない死のどこに、納得できるというのか。
『僕』を残していくくせに──
「さあ、ジェジュを! 彼らに裁きの鉄槌を!!ノブリス・オブリージュゥゥゥ!!」
処刑台の上で、激淡に罰を語った男が、さっと、上げていた腕を振りおろすと同時──
鋭くも荒々しく、刃が落下し、鼓膜を貫くような、けたたましい音を響かせた。
日の光が、飛び散った紅に光沢を与え、そして、留めなく溢れ出して、処刑台を、広場を紅に染め、汚していく。
『僕』はただ、それを見つめるだけしかできなくて……
そして、何が何でも生き残って、復讐を果たすと決めたあの日。
『僕』は『俺』になった。
……………………
『史上最悪の反動勢力、革命団のお披露目だ。諸君派手に行こう』
どこかで声が聞こえる。
その声に、閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
「ジン!」
「…………」
「もうすぐ作戦開始よ、準備はいい?」
「……ああ、行こうか。この腐った世界を壊しに」
だから俺も足掻きながら、もがきながら、苦しみながらも越え続ける。
ただ、あの日の全てを意味あるものにするために。
これから、しばらく毎日一話ずつ投稿します。
一応、2章までは書き上がってるので、そこまでは毎日、0時に更新予定。
なお、題名は章名+番号という簡素なものになっていますが、いずれサブタイトルをつけるかもしれません。