職業:ボス猫
朝のHRは一転した。
見慣れた教室はヨーロッパの古城の大広間のようなところに変わってしまった。
1-Bの学生達は状況もわからず、ざわめいている。
ついさっきまで朝の教室で、席に着いていた筈なのに、皆、いつの間にか立っていた。席を立った記憶も無い。
机も椅子も無く、見知らぬ場所に立っていることに混乱していた。
経験の浅い副担任どころか、ベテラン教師の担任すら、状況を把握できていない。
金糸をあしらった服やビロードの服やら鎧の西洋人に囲まれている状況を正確に把握できているものは、西洋人達しかいなかった。
そして、白を基調としたローブを纏った男は言った。
「あなた方はこの世界の勇者なのです」
■□□□
1-Bの面々は、翻訳機能やらを付与した身分証となるプレートを渡され、次々と白いローブの男の前に並ばされる。
この男は神官だそうだ。
神官は召喚と職業の判定とプレートを記載する為にここにいた。
混乱している1-Bの面々はプレートを渡され、並ばされ、すっかり召喚者たちのペースに乗せられていた。互いに小声でしゃべっているが、「トリップ来たー!!」とか「テンプレ来たー!!」などと口にするよりも、これからのことを案じていた。職業を判別されても、聖騎士や大魔術師と判別されても、「俺TUEEE!!」と騒ぐこともなかった。皆、粛々としていた。
1-Bの学級委員長である鈴木市朗は眼鏡越しにプレートに刻まれている職業欄を眺めていた。
職業:ボス猫
それは職業どころか、人間ですらない。
判定されるまでは、市朗は薬師か呪術師、医師になると思っていた。
運動音痴だった市朗は、そのことで友達に馬鹿にされることがあった。しかし、小学校に上がる前のある日、草で指を切った友達の手当てを母親がしていたように野草で行って尊敬の眼差しを得て以来、薬草を使った医療に携わりたいと思うようになった。
そんな市朗の目標は漢方医、ハーバリスト、医師の3つの免許を取得することだった。
そして、薬草や人体の仕組みを密かに勉強していた市朗にとって、薬師、呪術師、医師、もしかしたら魔女という判定が出るのではないかと思うのは、自然なことだった。
何の関連も無い、ましてや人間ですらないものが職業になるとは、晴天の霹靂だった。
神官は淡々と判定作業をしている。
学級委員長である市朗は一番最初に判定してもらった。
まさかの人外判定に対して、神官は何も言わなかった。市朗も何も言わなかった。
市朗は学級委員長だ。クラスを纏めるのであって、動揺させてはいけない。それは初めて学級委員長になった小学1年の時に誓ったことだ。それ以来、代々の担任は市朗が学級委員長をするクラスを担当したがった。何故なら、市朗は学級崩壊を許さないから。
「委員長。委員長の職業なんだった?」
男子学生の中井に声をかけられ、市朗は笑顔を見せる。
「中井君はどうだった?」
「俺?俺はね・・・ふふふ」
不気味な笑い方をした中井は、得意気にプレートを掲げる。
「じゃーん、死霊術師!」
「・・・」
市朗は反応に困った。
あまりにも一般的ではない。どのような修行をするのか、思い付かない職業だった。
ここは剣と魔法の世界っぽいことはわかったが、中井の職業を修行できる場所が容易に見つかりそうにないことだけは、市朗にもわかった。
そして、中井が本当に死霊術師なら、ホルマリン漬けのナニカに興味あるのではないかと疑った。
また、自分の判定もおかしいので、判定が間違っている可能性にも気付いた。
「うわー、中井、お前根暗だったのか?」
「中井君コワーイ」
他のクラスメイトの反応は至って、平和だったことに、市朗は安堵した。
市朗はささやかな願い事をした。
僕や中井君みたいにおかしな職業がこれ以上出ませんように。




