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エゴイスト・ヒーローズ  作者: 神楽 悠人
エゴイスト・ヒーローズ1
5/9

  6


 教室の扉に鍵を差し込みひねると、カチャン、というロックが外れる手ごたえを感じた。

 鍵を引き抜くと扉を開ける。

 いつも賑わっている教室は静まり返っていた。

 当然だ。

 日曜日で生徒は誰もいないのだ。

しかし、あのにぎやかな教室が日曜日になるとここまで静かで気味の悪いところになると思うと驚かずにはいられなかった。

守は中にはいると、真っすぐ自分の机に向かい、机の中を探りお目当ての参考書を取り出す。

なかなか体験できない夜の教室なので、もっとゆっくりしたかったが、あまりの気味が悪さに素早く教室をでた。

 借りてきた鍵で再度扉をロックする。

 これであとは鍵を返せば終わりだ。

 時間的に今日はお開きだろう。

 日本史やりたかったなぁ、と内心で落胆しながらも自分のミスのせいで時間がなくなったので仕方がない。

試験まではまだ時間がある、と自分に言い聞かせる。

「さて、戻りますか」

そう言って透に連絡をしようと携帯を取り出した。

その時だった。

ずんっ、という音と共に世界が変わった。

正確には何も変わってない。

しかし、守にはそう感じられた。

根拠はない。

ただ、違和感があるのだ。体が妙に重く、そして、空気が濁っているようなこの感覚。

自然と汗が噴き出てきて、心拍数が上昇していくのがわかる。

明らかに普通じゃない。

守は小さい頃から妙に勘がよかった。

――だから、この感覚もきっと気のせいじゃない。

守は携帯の画面を確認した。

アンテナは……圏外。

ためしに電話をかけてみるが、お馴染みのメッセージ音が流れるだけ。

「となると、あとは……」

守は外に視線を向けた。

「…………っ」

瞬間、その違和感が勘違いではないと確信した。

外は明るかったのだ。

しかし空の色は赤。

夕日なんてレベルではない。

どす黒い、赤。

絵の具の赤と黒を交えたかのようなどす黒い赤が空一面を覆っていた。

守の手から参考書が落下し、地面にあたって乾いたような音を響かせた。しかし、守はそんなことに気を留めなかった。留められなかった。

さっきまで空は真っ暗だったのだ。それが教室を出た途端にどす黒い赤色に覆われている。

――異常気象?

そんな単語が脳裏によぎる。

地球環境はここ数年で劇的に変化している。人間が生活するために木を伐り、山を切り拓き、海や空気を汚し、一部の生物を絶滅まで追いやった。

だから普段起こらないような現象が発生しても不思議ではない。

しかし、暗かった空が赤くなる現象は環境破壊によるものとは思えなかった。

色は光の波長によって決まる。

人間の見ることのできる光は、可視光線とよばれ、波長の長さがおおよそ決まっている。人間が視認できる範囲で、波長が短いものは青色系に見え、波長が長いものは赤色系に見える。そして人間には見えない光――不可視光線という――の中で長いものを赤外線、短い光を紫外線とよぶ。

つまり、前提として光が必要なのだ。だから、太陽に何か変化が生じた、もしくは第二の太陽が現れでもしない限り、突然空の色が変わるなどありえない。

――いや、そもそもこの色自体がありえないか……。

守は唾をのんだ。

背中を冷たい汗が流れるのを感じる。

「……とりあえず生徒会室に戻るか……」

こんな事態になっているのだ。生徒会室の三人も混乱しているだろう。いや、むしろこの町の人全員が混乱しているに違いない。

守は携帯をポケットに戻し、落とした参考書を拾う。

そして、生徒会室に向かって歩きだした。

しかし、すぐに足を止める。

「……なんだ、あれ」

廊下の奥に何かが見えたのだ。

距離があるためか、はたまた、この異常事態のためか、はっきりとは見えないが廊下の奥に黒く、大きな塊のような物があるのだ。

サイズは廊下を完全に塞いでしまうくらい大きい。

横幅は4メートル。

縦幅も4メートル。

この位置からでは正確には分からないが、奥行きもそれなりにありそうだ。

さらに、その巨大な塊には三つの光点がある。色はすべて赤く、二つは時々点滅していた。

――あんなもの、この学校にあっただろうか……。

守は空の一件ですでにパンク気味の脳みそに、さらなる負荷をかけて記憶を辿る。

しかし、当然ながらあんなものは記憶に存在しない。それ以前に、自分の教室に来るときにこの道は通っている。もし、あんな大きな塊が道の真ん中にあれば、絶対に気づく。

つまり、あれは守がこの道を通ってから置かれた、もしくは現れたということになる。

――赤黒い空。

――巨大な塊。

この得体の知れない二つのものが、同時に出現した。

この塊が、空の異常に関係している――もしくは空がこの塊に関係している――ことは明らかだった。

「……近づいてみるか」

好奇心か、もしくは冒険心からか、守は道を塞ぐ大きな塊に歩みを進めた。

距離は二十メートルほど。

ゆっくりだが確実に塊に近付いていく。

十五メートル。

まだ全貌が見えてこない。

普通なら見えてきてもいい距離だが、塊が出しているのか、靄のようなものがかかっていてまだ見えない。

十メートル。

ここでようやく全貌が見えてきた。

そして、同時に守は近づいたことを後悔した。

 大きな黒い塊についていた赤い光源、あれは二つの眼だったのだ。

 点滅していたのは、瞬き。

 十メートル先にいるそれは、まだ守に気づいてはいないが、完全に生き物だ。

黒い大きな体、両手についている大きな鋏、尻尾の先端にある鋭い針、その姿は完全にサソリだった。

人間の大きさをはるかに上回るサソリがそこにはいた。

全身から汗が噴き出るのが分かった。

――これは……

そこまで思考した段階で、守は動いていた。

サソリに背を向けて走り出していた。

 逃げ出す時に悲鳴を上げなかったのは奇跡といってよかった。

 目の前にあんな化け物が現れれば、普通の人間なら腰をぬかすか、悲鳴を上げて逃げるかする。

 そのどちらも行わず逃げることを選択できたのは完全に偶然だ。しかし、その偶然のおかげで、守はサソリに見つかることなく逃走することができたのだ。

 サソリは相変わらず動かない。

 これなら簡単に逃げ切れる。

 守はそう確信した。

しかし、その油断が命取りになった。

 廊下に放置されていた掃除用具に蹴躓いたのだ。

 掃除用具は激しい音を廊下に響かせた。

 その音に気が付いたのか、遙か後方にいるサソリがこちらに向かって動き出していた。

 守は痛い膝を押さえながら、サソリの反対方向に逃げる。

 あのサイズの化け物に捕まれば命はない。

 しかし、転んだ際に痛めたのか、動こうとすると足首に激痛が走った。

 その痛さに耐えられず、思わずしゃがみ込む守。

 ズボンの裾をまくり、痛む足首を見ると、

「な、なんだよ、これ…………」

 守は声を震わした。

 足首は大きく腫れていたのだ。

 まるでボールでもうまっているのではないかと思えるほど腫れた足は、どんどんと青くなり、そして痛みはましていく。

 ――まさか躓いたときに?

 腫れの度合いからして靭帯、もしくは骨に異常があるかもしれない。守は、怪我の知識は一般人となんら変わりはない。しかし、昔、稽古中に同じような症状になっていた人を何人か見たことがあった。

 もし、骨折をしていれば逃げることはできない。

 守は顏から血の気が引いていくのを感じた。

 後ろから迫る怪物。

 腫れて動かせない足。

 これが意味するのは死。

 ――やばい……やばい! やばい!

 守は必死に頭を働かせて策を練る。しかし、パニックに陥っているせいか、怪我のせいか、はたまたその両方か、いくら考えてもまともな考えが思い浮かばない。

 ――おちつけ、おちつけ!

 何度もそう自分に言い聞かせる。

 けれども、そんな願いとは裏腹に心拍数はどんどんあがり、ただただ焦りだけが増していく。

 ――死ぬ……このままじゃ……ほんとに……

 頭の中を恐怖が支配し始める。

 もう守の頭は全く働いていなかった。

ただ、怖い、死にたくないという思考がひたすらに頭の中を掛け巡る。

しかし、ここであるものが視界に入った。

「あ……」

視界に入ったものはダストシュート。

最上階から一階までつながっているそれは、かつてゴミを1階に送るために用いられていた代物だ。

しかし、最近ではほとんど見ない。

誤って転落して怪我をするという事故が絶えなかったために採用しない学校が増えているのだ。だから、それを採用しているこの学校は、それほど古くからあるのだろう。

ダストシュートから落ちれば一階まで移動できる。そうすればあの怪物を振り切ることができるだろう。そうすれば身の安全は保障される。しかし、この階から落ちれば守自身もただではすまない。最悪、死ぬ可能性もある。けれども待っていれば確実に死が待っている。

 ――こんなところで死ねるか!

 悩んでいる時間はなかった。

守は痛む足を引きずるように、使える両手と片足で移動を始めた。

 ダストシュートの扉を開け、中を覗き込む。

 中から風の通り抜ける音がした。

中は真っ暗で底は当然の様に見えない。

 守は息をのんだ。

 落ちれば最低でも怪我、最悪の場合は死。

「……っ」

 正直、怖い。

 できればこんなことはしたくない。

 しかし、後ろから迫る足音に背中を押されたかのように守はダストシュートに飛び込んだ。


 運がいい人間とはどんな人間だろうか。

 と、たまに考えることがある。

 宝くじに当たるような人だろうか。

 それとも、もっと地味に遅刻したときに人身事故があり、遅刻扱いにならなかった人間だろうか。

 もしかしたら、両方とも運のいい人間なのかもしれない。

 程度の差はあれ、どちらも偶然が自分に良いことをもたらした。ただ、本来ならマイナスに作用するものがプラスに作用した人間を人は「運のいい人」というのだろう。

 ならば――

「いってー……」

 ダストシュートから飛び降りて、怪我なく一階に到着できた守は、本当に運がいい人間なのかもしれない。

 この高さから落ちて怪我一つなかったのは本当に運がいいとしか言えなかった。そこには生ごみが山ほど溜まっていたからだとか、男の守には狭すぎて、引っかかりながら落ちたからスピードが上がらなかったからだとか、様々な偶然が重なったからだが。

 なにはともあれ、怪物から逃げることができたことに安堵のため息をついた。

 まだ、心臓が激しくなっている。

 こんな怖い思いをしたのは、小さい頃にうっかり日本刀を振るっている父親に近付いてしまったとき以来だ。

 あの時は本当に死んだと思った。

目の前の巻き藁と、自分の前髪が数本、地面に落ちた時は思わず首を触って、体とつながっていることを確認したくらい焦ったのを覚えている。

守は大きな深呼吸をした。

息を吸い込むと、埃とバナナとプリンの香りが同時に鼻の中に入ってきて盛大にむせ返った。

誰かが食べたものだろう。

この歳にしてゴミ捨て場で深呼吸をしてはいけないという教訓を得た。

守は呼吸を落ち着かせると、痛む足を引きずるように立ち上がる。

ここはおそらく校舎の裏側なので校門とは真逆に位置している。学校の敷地面積を考えると、最低でも五百メートルは移動しなければならない。

守は痛む右足首を見る。

今は裾に隠れているが、明らかに腫れている。もしかしたらさっきより酷くなっているかもしれない。

しかし、ここで待機していても助かる見込みはないうえ、最悪の場合、サソリが追いかけてくるかもしれない。

守に選択の余地はなかった。

「くっそ……」

守は落ちていた柄のない傘を杖代わりに、痛む足を引きずりながら校門を目指した。


  ○


突然、空が赤くなった。

さっきまでは真っ暗で、しかし、星が輝いていて綺麗だった夜空が真っ赤に染まっていた。

「え……なんで? どうして?」

恵は動揺を隠せなかった。しかし、同じ部屋で勉強をしていた二人はいたって冷静だった。透は変わらず参考書を指先でくるくる回して遊んでいるし、優香は何事もなかったように本を読んでいる。

自分がおかしいのだろうか。もしかして、こういう天体現象? などと思考を巡らせるが、そんなニュースはなかったし、そもそもこんな天体現象はない。

「あ、あの! え、えっと……」

恵は必死に言葉を口にしようとするが、適切な言葉が見つからず、「あの」や「その」といった言葉が口から出るだけ。

そんな恵をみてか、透が口を開いた。

「大丈夫だよ、ここにいれば安全だから」

その口調は子供をなだめるような、優しいものだった。

――何を根拠に?

そう思ったが、透の眼は真剣で冗談を言っているようには見えなかった。

「そ、そう? ならいいんだけど……」

恵は透のその言葉を受けて、椅子に腰かける。

こんな状況は初めてだ。

夜空が真っ赤になるという状況も、そしてこんな事態になっても慌てているのが自分だけという状況も……。

恵が口を閉じると、生徒会室は水を打ったかのように静まり返った。

時々、優香の本のページをめくる音だけが響く。

「あ、あの……」

この変に静かな空間に耐えられなくなり、恵はすぐに口を開いた。

しかし、この言葉に対してまさかの回答が来た。

「初めてじゃないよ」

返事をしたのは透だった。

「え……」

早すぎる回答に思わず戸惑う。

――二人はこういう経験あるんですか?

と尋ねようとしていたからだ。

質問より先に回答がくれば誰でも驚く。

「あ、えっと……」

「俺たちがあまりにも落ち着いているから気になったんでしょ? 分かるよ、その気持ち。俺も初めて見た時は困惑したからね」

相変わらず、何も言っていないに話を続ける透。

しかし、困ったことにその返答が恵の聞きたかったことなので口をはさめない。

「でも、安心して。俺たちがいる限りここは安全だから」

そういうと今度はにこりと笑う。

「…………」

聞きたいことを先に全て話されてしまい、話すことがなくなってしまった恵は口を閉じるしかなかった。

「優香、そろそろ頼めるか?」

透が優香にそう指示を出すと、優香は本を閉じて立ち上がった。

「え、どこか行くんですか? 一緒にいないと危ないんじゃ――」

しかし、その恵の言葉が言い終わる前に優香は生徒会室から出て行ってしまった。

その無愛想な優香の姿を見てなのか、透がため息をつく。

「ごめんね、山下さん。優香は少し照れ屋さんなんだ。だから返事とかあんまりしないけど悪く思わないであげて」

優香の代わりに頭を下げる透。

その姿はまるでお父さんのようだった。

「あ、ううん! なんとも思ってないから大丈夫だよ」

恵は慌てて返事をする。

クールな子だな、という印象はあるが、嫌悪感を抱いているわけではない。

「それはよかった」

透は微笑んでから椅子に腰かけた。

――片山君ってこんなに大人びた人だったかな?

そんな疑問が脳裏に過った。しかしある事に気が付き、すぐに思考を切り替えた。

「ところで、風見くんはどこ行っちゃったんだろ?」

今更ながら大切なことを思い出した。

こんな意味の分からない状況だ、皆で固まっていた方がいいに決まっている。

「ああ、それも大丈夫だよ」

「え?」

「守はこっちにはいないから」

恵は透の言っている意味が分からなかった。

――こっちにいない?

「それってどういう……」

「文字通り、いないんだよ。だから、こっちで何が起こっても彼には被害はない。だから安心して」

大丈夫な根拠も何もない。

しかし、彼は大丈夫だと何度も繰り返す。

この状況を理解していないから変に不安になっているだけなのだろうか。実際は何ともなくて、ただ一人で焦っているだけなのだろうか。

分からないことばかりで頭の中がモヤモヤする。

しかし、いくら考えても結論がでないのは明白だ。

「そ、そう……」

引き下がる他なかった。

正直、納得がいかない、というのが本音だ。

でもこの状況に慣れていると思われる透が大丈夫というのだから大丈夫と思うしかない。

落ち着かない気を紛らわそうと窓の外に目を向けた。

相変わらず赤い空。

しかし、それ以外はなにも変わらない。

いつもの学校のグランドがそこにあるのだ。

隅っこに設置された古びた焼却炉も、鉄棒も、陸上部がつかっているのであろう砂浜も、そこにはあるのだ。

――ほんと、なんなんだろう、これ……。

そんなことを考えていたときだった。

あるものが視界に入った。

片足を引きずるように歩く人影。

「あれ? あの人、風見くん?」

その言葉を発した瞬間、透の先ほどまでの笑顔が消えた。


   □


それは普段ならなんとも思わない距離だった。

 学校から家までの距離より短い距離。

 しかし、今の守にはそれが途方もない距離に感じられた。

 守は一歩一歩、ゆっくりではあるが確実に歩みを進める。

 たまに痛めた足に激痛が走り、そのたびに座り込んでは悶えては、また立ち上がり、痛めてはまた座り込み、これをひたすらに繰り返していた。

 校門まであと五十メートルほど。

 あそこから出れば助かる。

 そう思った。

 あと四十メートル。

 足に痛みが走る。

 三十メートル……。

 しかし、移動するペースは変えない。

 二十メートル……。

 再び足に激痛が走る。しかし、守は気にならなかった。

 ――あそこから出れば助かる…………。

 あと、十メートル……。

 ――助かる!

 あと一メートル……………。

 そして、気が付いた。

「な、なんだよ、これ……」

 守の声は震えていた。

 目の前には校門。

 いつも、潜り抜けている校門がある。

 しかし、さらにその奥。

 黒々とした物体……いや、怪物。

 大きくて黒々とした胴体に八本の脚。

 ――蜘蛛。

 そうとしか表現できない化け物がそこにいた。

 全身を覆う毛はナイフの様に鋭く、そして輝いている。

 すぐさま引き返そうとした。

 しかし、足が動かない。

 守は足元に視線を落とした。

 銀色の、針金を編み込んだかのようなロープが広がっている。そしていつの間にかそれが足に絡みつき、縛り上げていた。

 蜘蛛の巣だと、守は直感した。

 蜘蛛が守の方を向く。

 ――ああ、そうか。

 守はその場で膝から崩れ落ちた。

 蠍に殺されかけ、命からがらに逃げてきて、そして今度は蜘蛛の巣に捕まった。

 もう限界だったのかもしれない。

 ――俺は蜘蛛の巣にかかった一匹の虫だったんだ……。

 いつも当然のように見てきた景色。

 虎が鹿を捕まえて食べる様子。

 カマキリが蝶を食べる様子。

 そして、蜘蛛が巣に絡まった虫を食べる様子。

 まさに今がその状況だった。

 不思議と頭は冴えていた。

――俺は死ぬのか……。

 守はまだ、人の死というものを真に理解していなかった。

 家族の死も、親戚の死も、友人の死も、何も知らない。

 辞書的な意味でしか、ドラマや漫画で見た死しか知らないのだ。

 だから、死というものがどういうものなのか、守には分からなかった。

――そっか……。

 蜘蛛が近づいてくる。

 守はその様子を傍観者のように見ていた。

 蜘蛛が一歩、また一歩と近づいてくる。

 そして、守の目の前で止まると大きな口を開けた。

――死ぬってこんなにも……

 

 怖いんだ…………。


「うわああああああああああああああああああああ!」

 守の悲鳴がグラウンドに響き渡った。

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