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エゴイスト・ヒーローズ  作者: 神楽 悠人
エゴイスト・ヒーローズ1
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1/9

プロローグ&1

 西暦2022年。

 日本は深刻な問題を抱えていた。

 国内での行方不明者の数が2020年、オリンピックを皮切りに増大しているのだ。

 かつて日本では毎年10万人前後の行方不明者がでていた。

 この数値は世界基準で見ても高いとは言えない。しかし、オリンピックの翌年からこの数が倍近くにも増大した。

 警察は原因を不明とし、現在調査中とのこと。

 専門家は次のように語る。

 ――日本では毎年行方不明者がでます。しかし、今の状況ははっきり言って異常です。失踪している人間に共通点はなく、一流企業の社長、政治家、一般家庭の大人子供に至るまで、ありとあらゆる人間が忽然と姿を消しているのです。正直、理解できません。一般家庭の人間ならいざ知らず、一流企業の社長や今の日本を支える政治家たちが姿を消すという状況が。その理由が。そして、それだけ目立つ人間にも関わらず目撃情報が皆無ということが。私は何らかの事件に巻き込まれているのではないかと考えています。

 

 現在、日本では行方不明者が増加している。


 プロローグ


 風見守は走り出していた。

 頭で考えるよりも早く、体が先に動き出していた。まるで、細胞の一つ一つが反応するかのように。

 目の前の怪物から逃げるべく、校舎の廊下を走った。

 普段使わない筋肉をフル稼働させ、出口へと向う。

 顏から、全身にかけて嫌な汗が噴き出してくる。

 剣道や古武術をやっていたので汗をかくことに対して抵抗はない。しかし、この汗にはとてつもない嫌悪を感じていた。心拍数も普段では考えられないくらい高い。

 守は暴れる心臓を押さえこむように右手で胸元を鷲掴みにしながら、ひたすらに走った。

 見慣れた景色が猛スピードで後ろに流れていく。

 守は走りながらも、横目で後ろを確認した。

 奴はまだこっちに気づいていない。

 ――このままなら逃げ切れる。

 そう確信したがスピードを緩める気にもならない。

 普段なら緩めていたかもしれない。

 しかし、この現実離れした異常な状態で、そんなことをする度胸を守は持ち合わせていなかった。

 黒光りした巨大な胴体、何でも切断してしまうであろう巨大なハサミの型をした両手、そして先端から怪しげな液体で光らせた鋭く尖った尻尾。その姿の動物を守は知っていた。

 ――サソリだ。

 しかし、後方にいる怪物は守の知るそれとは明らかにサイズが異なる。

 サソリは大きくても十センチくらいだ、と守は認識していた。けれども、後ろにいる怪物の成りは明らかにサソリのサイズを逸脱している。

 今、遙か後方で暴れている怪物の体長は、ゆうに体長が五メートルを超えていた。

「なんなんだよ、あいつは……」

 守は無意識のうちにそう漏らす。

 ロボット? それとも地球外生命体? 

 いくら考えても答えはでない。

 しかし、自分の理解の外側にいるそれが気になってしまう。

 今は逃げることだけを考えるべきだ。

 頭ではそう理解しているのだが、後ろが気になる故にチラリラと後ろを確認しながら走っていた。

 これが致命的なミスだった。

 何かが足に当たり、そして上体が前方に大きく傾いた。

「!」

 転がっていた掃除用具に気づかず躓いてしまったのだ。

 派手な音を鳴らして転がるバケツとモップ。

 そして勢い余って盛大に転がる守。

「いって……」

 体の至る所に痛みが走る。

 しかし、守は怪我の具合を確認するよりも先に後ろを振り返っていた。

「あっ……」

 そして最悪な光景を目にした。

 遙か後ろにいる怪物がこちらに向かって走り出していたのだ。


   1


 守は特撮が大好きだった。

 弱い者を悪から守る。

 自分の正義を貫き、悪を倒す。

 そんな真っすぐさが、幼い頃の守の心を揺らした。

 守が古武術、剣道を学んだのも半分はそれが理由だった。

 ヒーローが日本刀を振り回すのは如何なものかと思ったが、当時の守はただ強くなりたい、特撮のヒーローみたいになりたい、この一心で刀を振り、技を、型を身に着けた。

 しかし、ある程度成長し、歳を重ねて現実を知ると自分の行いが馬鹿らしく思え、剣道をやめた。

 きっかけは些細なことだった。

 6年生になったばかりの頃、集団に虐められている子がいた。見るからに体が弱く、体育の授業でもすぐに息を切らしてしまうような子だった。

 それを見て、守は迷いなく飛び出した。

 彼を守らないと!

 そんな正義感で頭の中はいっぱいだった。 

 彼らの間に割って入り、落ちていた長めの棒で相手を牽制した。

 相手は守が剣道をやっていることを知っている。

 だから子供ながらに相手は逃げてくれる。

 そんなことを考えていたと思う。

 しかし、いじめっ子の一人は守と同じように落ちている棒を持ち、突っ込んできたのだ。

 動きは明らかに素人だった。

 すでに六年間も竹刀を振っている守からしたら、素人の剣など赤子のパンチよりも劣る。

 守は仕方がなく……というより、防具もつけていない人間に面を打つ度胸がなかったので、相手の刀、もとい、棒を避けて小手を打った。

 加減はした。だから、骨を折るようなことはない。

 棒を落とし、打たれた手首を押さえてうずくまるいじめっ子。

 これでいい。

 そう思っていた。

 しかし……。

 翌日、保護者を交えた会議が行われた。

 内容は剣道の経験者が素人相手に棒を用いて暴力を振るったというものだった。

 守は何度も説明をした。

 虐められていた子を助けただけだ。先に攻撃してきたのは相手だと。

 けれども、大人たちは口をそろえてこう言った。

 どんな理由があろうとも、先に怪我をさせたのは君だ、と。

 怪我をさせた君が悪い。

 素人相手に武術を用いた君が悪い。

 武術を身に着けた人間が武術を用いたらいけない。

 ――だったら、自分が続けてきた剣道はなんだったんだ。

 弱い者を守るために剣道を習ったのに。人を守るのに剣道を用いたら駄目だというなら、剣道は、武術は、何のためにあるのだろうか。

 日本で刀を振る機会など基本的にない。仮に刀を取るような事があったとしても、日本ではそれが許されない。

 悪に優しい法律。

 それが日本の現状だった。

 どんなに相手が悪くても、先に暴力を振るった方が悪い。

 日本では技を磨き、強くなっても意味がない。

 だから守は剣道をやめた。


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