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とある夏の午後のこと



 あいつは、暇で暇で仕方がなくなったときを見計らったかのようにやって来る。



「よお」


「何の用」


「うっわ冷たいオコトバ。理由なんてねーよ。なんとなくだ」


「うざい。人口密度が高くなって暑いから帰って」


「クーラーでも入れろ。てか一人も二人も変わるかよ」


「電気代が高くなるからやだ。暑くなるっての心情的に。とにかく帰れ」


「どうせ暇だろうが。ついでに俺手土産持参だぞ。しかもアイス。偉いだろ」


「……食べ終わるまでならOK」


「それ酷くねぇ?まーいーや。んじゃあがるぞ」



 無駄な会話のせいでちょっと溶けかけたアイスを二人で食べる。



「これどこで買ってきた?」


「そこらへんのコンビニ」


「あっそ。なんでこんなに買ってくるわけ」


「だって暑いだろーが」


「限度って言葉を習ってこい」


「知ってるからいい。お、新商品発見」


「買ってきた当人が覚えてないってどうなの」


「手当たり次第に取ってきたからな」


「金がある奴はイイですねー、何も考えずに買い物できて」


「お前と違ってな。うらやましーだろ」


「あーハイハイ羨ましいですとも。こちとらただの貧乏学生ですから」



 心の中で盛大に罵りながら、残りのアイスを冷凍庫に納めた。



「もう食わねーの?」


「夜に食べる。……なに、まだ食べる気?」


「いやいい。つーかこの部屋暑い。よく生活できるな」


「夏中クーラーかけっぱなしのアンタの部屋と比べればそりゃ暑いだろーね」


「文明の利器があんだから使やいいのに」


「さっきも言った。電気代が高くなる」


「一日くらいいーだろ? それともそんなに貧乏だったか?」


「これくらい我慢できるし。この部屋の暑さに文句あるならさっさと帰りなよ」


「外のが暑いからお断り。涼しくなったら帰る」


「うわ迷惑。言っとくけどお茶も菓子も出ないから」


「最初から期待してねーよ。アイスあるし」


「そーですか。とりあえず退け。邪魔」



 フローリングに寝転んだあいつを軽く蹴る。ふざけて『ぐえ』とかうめいたが無視だ。



「床冷たくて気持ちいいんだよ」


「だったら床と結婚しろ」


「それは勘弁。つまんねーし」


「つまるつまらんの問題なわけ? それは」


「俺にとっては」


「ならお笑い芸人とでも結婚しろ。もしくは変人」


「それもお断りー。俺お前としか結婚したくないしな」



 一瞬何を言われたか分からなかった。



「でもまだ結婚はイヤだな。色々面倒だし。籍だけ入れるにしても、夫婦ってなるとなんか若々しさが足りない気が」


「ちょっと待って。何言ってるか理解できないんだけど」


「俺の結婚のイメージを語ってる」


「それも含めてその前になんか変なこと言わなかった?」


「変なこと? 俺がお前としか結婚したくないって言ったことか?」


「……そうそれ。なんでそうなるわけ」


「だってお前といると楽だし。つーか他の女みたいにうざくないし」


「アンタを好きな子たちに聞かせてやりたい。その科白」


「それはそれとしてだな。今すぐ結婚しろって言ってるわけじゃねぇんだしよ。ま、候補ぐらいに思っとけ」


「それプロポーズ? ……あーもう意味わかんない。ていうか結婚したくないし」


「きっつー。俺恋人としても旦那としても最高だと思うんだけどな。炊事洗濯家事全般出来るし金持ちだしついでに浮気OKだぜ?」


「そういう問題じゃない。それ以前に浮気OKてどうなの」


「束縛しねーって言ってんだよ。あ、もしかしてお前束縛されたい派? ならするけど」


「だから、今まで恋愛対象に見てなかった奴にいきなり結婚とか言われても」


「今から考えろよ。俺気ィ長いから待ってやる」


「無茶言うな。……はぁ。とりあえずからかってるとかじゃないわけね」


「冗談でこんなこと言うか。それもお前相手に」


「そりゃそうだけど。……アンタいっつも突拍子もないことしか言わない気がする」


「柔軟な思考を持て。頭固いと将来苦労するぜ?」


「なんか違うっしょそれは。てかさっさと帰れ。もう夕方だっての」


「めんどい。夕飯作ってやっからもうちょい居させろ」


「じゃあなんかイタリア系のやつ」


「りょーかい」



 突飛な言動も結局夜まで居座るのも、言ってみればいつものこと。

 そんなあいつとの夏の午後。



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