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猫の愉悦  作者: ْ
4/7

4

「ね、猫宮くん!奇遇だね!?」


その場で智絵は誰よりも早く、発言をした。猫並みの反射速度を持つ猫宮から先手を取ったのは天晴れと言えた。


だが、人の家のインターホンの前で二人でわちゃわちゃしていたのに、奇遇とはこれ如何に?


「?学校の人?」


猫宮は疑問を呈した。流石に自分が昨日まで居た学校の制服の女子だという事くらいは彼にも分かる。


「そ、そう!隣の席に居た井上!……井上智絵です。覚えて……るかな?」


「猫ちゃん猫ちゃん、私は一条りお。で、賭けをしない?」


「賭け?どんな?」


自己紹介したーーと言っても元クラスメイトであるーー二人だったが、りおは、棒付きキャンディを転がしながら突拍子ないことを言い出す。


「猫ちゃんは、私らを覚えていないっしょ!」


りおはベットした。


「この賭けの勝者は……!」


それに猫宮は乗った。ノリが意外といい猫だった。


「一条ちゃん!おめでとう!」


りおは賭けに勝った。そして、智絵は負けた。三日間隣の席に居たのに認知されてなかった。女として負けた。


「いぇーい!楽勝っしょ!」


りおと猫宮はノリでハイタッチを交わす。コミュ強のギャルと人たらしの猫は一分で意気投合していた。


「覚えてなかった……やっぱり覚えてなかった……」


「ともっち。これは仕方ないっしょ。猫ちゃんだし」


りおはフォローを入れる。この猫は典型的な周囲の人間からは印象に残るけど、本人は周りをほとんど覚えていないタイプだ。


「で、何か用?」


猫宮が用件をのんびりと聞いた。彼は住所を教えてもいない元クラスメイトが突然家に来る事自体は特に思う所はないらしい。


「えーと、猫宮くんもどこか行く所だったの?」


そして、智絵は、連絡先教えて下さい。今度遊びに行こう。と言う機を逸してーー心の準備が出来ていかなかっただけだがーー質問を質問で返す悪手を取った。


「コンビニ!ファミチキ食べたくなったの!」


ぐ、と智絵は鼻白んだ。


可愛い。


この猫は無邪気で、楽しげで、可愛いのだ。人間は結局、猫の可愛さに勝てない。


「ファミチキいいねー。私も好きだよ」


りおが同意すると、猫宮はぱっと顔を輝かせた。


「ね!コンビニのホットスナックは結局ファミチキが最強だよね!ポテトも美味しい」


あ、可愛いわ。これ。りおも内心認めざるおえなかった。


猫宮は会話を終わらせぬまま、ぬるりとした何処か気持ち悪さのある滑らかな歩みで進みだしたので、智絵とりおは顔を見合わせてとりあえずついていく事にした。まだ目的は済ませてないからだ。


三人は猫宮宅からすぐ近くのファミマに訪れた。猫宮はモンスターエナジーを手に取りすぐレジに向かう。


「ファミチキ四つとポテト下さい」


結構買うなぁ。と思いつつ、りおと智絵は適当に飲み物を買った。りおは緑茶。智絵はデカビタCだった。


そのまま、猫宮はついてこいとも、来るなとも言わずにコンビニを出る。智絵とりおは、連れ立って着いて行く。


「猫ちゃん、昨日退学してから、何してたん?」


「ご本読んでたよ。後寝てた」


りおが話しかけると、ぼんやりと答えた。


「はいどーぞ、上がって」


猫宮は二人を家に招くと自室にあげた。


「わぁー……」


「こりゃまた、一筋縄でいかないねぇ」


唖然とした智絵に対して、りおは棒付きキャンディを咥えながら何処か楽しげ言った。


書架に床にまで溢れる、大量の書物。壁には、真剣、真槍、薙刀、木剣、模擬刀、契木、陣鎌。様々な武具が掛かっている。テーブルすらないが。床にの真ん中にはクッションが置かれた猫の寛ぎスペース。


何処から突っ込んだらいいか逆に分からない部屋である。


猫宮は買ってきた食糧をガサガサ漁っていた。


「猫宮くん……あれ本物?」


壁に掛けられた白鞘の一口を指差して、智絵は言った。


「真剣だよ。あれは、新刀。筑後守包則。二尺二寸」


「えっ!銃刀法違反?」


ガリっとキャンディを噛み砕きながら、りおは言った。


「あー、よくある勘違いだねー。教育委員会が発行している登録証のついた刀剣の売買、所持は幼稚園児でも出来るよ」


「えっ、そうなの?」


智絵は典型的な、何かしらの許可がいると漠然と勘違いしていたタイプだった。


「というか、そうでなかったら古くから続く日本刀剣という文化財を引き継ぐ担い手がいなくなっちゃうよ。何万口とある刀の担い手がいなかったら伝統文化として終わるでしょ?」


「あー、まぁ言われてみれば確かに」


りおは頷く。興味のない分野だから深く考えた事はなかったが、論理的に言われると最もな話だった。しかし、だからといってこの部屋の異質さが解消されるかと言うと、それも別の話だったが。


「はい、ファミチキ」


猫宮は二人に一つずつファミチキを渡した。四つ買っていたファミチキのウチ二つは二人の分だったようだ。


「え、くれるの?何で?」


「さっき一条ちゃんに賭けで負けたから、勝ち分」


確かに先程、りおは、猫宮が二人とも覚えていないという方にベットして勝った。猫宮は律儀に賭けの負け分をファミチキを奢って支払うようだった。律儀な猫である。


しかし、お遊びで賭けたりおの勝ち分を、連れの智絵と共にファミチキで何故支払う事になったのか?その猫理論は猫のみぞ知る。もしくはこの猫は何も考えてないだけかも知れない。


「お、ありがとう!いただきます」


そこはコミュ強のギャルのりお。深くは考えずにファミチキをサクッと食べる。このギャルは猫のように何も考えてないと言うわけではない。考えるべき事と考えない方がいい事の取捨選択が上手いのだ。


「い、いただきます」


智絵もとりあえず受け取る。幸い飲み物は先程コンビニで買ってきたから軽い間食にはちょうど良い。


猫宮も寛ぎスペースで、モンスターエナジーを開けて、ポテトとファミチキをもぐもぐと食べ始めた。


あ、食べてる所、子猫みたいで可愛い。と智絵は早速拗らせていた。

 

しかしまぁ、それにも理由があった。智絵は猫宮が学校にいた三日ーー三日目の朝で帰ってしまったから実質二日かーー見ていた所、猫宮は昼休みにも食糧を口にせずに本読むか寝るかで、せいぜいクラスメイトの女子からちょっと卵焼きと唐揚げを分けて貰っていた所しか見てないため。ちゃんと食べてるのか心配だったのだ。身体の線も細い。


だが、ちゃんと食事ーーコンビニのホットスナックとエナジードリンクを、ちゃんとしているかと言うかは議論の余地があるがーーを少なくとも取っているのを見て安心した。


実際の所この猫は、誰も見てないと、水だけで二日過ごす事もある奴である。ファミチキ食べたくなった。も気まぐれであろう。


「で、猫ちゃん猫ちゃん!実は猫ちゃんにともっちがお願いがあるんだって」


「何?」


りおが言うと、猫宮はファミチキを食べながら小首を傾げる。あざとい。こいつ絶対自分がかわいい事知ってるだろ。


そして、りおの発言は明らかに智絵を焚き付けていた。さっさと目的を済ませろと言外に言っていた。


智絵は、口を開き掛けで、どう言えばいいかわからず、言葉が出ず、軽く百面相状態になる。


「ともっち、どうどう。落ち着いて。女は度胸っしょ!」


りおに発破をかけられで、智絵は言った。


「猫宮くんのLINEアカウント消えてたから、連絡先教えて!」


「いいよ」


目的は二つ返事で達成された。

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