フェイクニュース心臓直撃
夕暮れの縁側。茶をすすりながら、原田・斎藤・永倉・沖田の四人が腰かけていた。
原田が、ふと思い出したように小声で聞く。
「最近体調はどうだ? 噂を聞いたんだが…」
「え〜? なにそれ?」
「どうも、お前が心臓に問題があるとかって…」
「え? 心臓?」
「うん。近藤先生が付き添って、心臓の検査を受けたって聞いたぞ」
「あー、あれね。違う違う違う!」
総司は慌てて両手を振る。
「井上さんの誤解なんだよ。俺めっちゃ健康!
ただ、のぼせ防止のために“幕府大学病院ヒートショック外来”の安全入浴講座に行っただけなの」
「入浴講座? それがなんで心臓病とつながるんだ?」
「その講座の資料にね、
“風呂で心臓発作で死なないために”って、おっきく書いてあったんだよ」
「あー、なるほどな」
「ほっとしたよ。土方さんがかなり狼狽してたらしいから、オレも心配してた」
原田が胸を撫でおろす。
総司は、ふいに周囲を見回して声をひそめる。
「……ねえ、もしかして、その“心臓に不安説”って……
屯所全体に広まってたり……してないよね?」
斎藤と永倉が、そっと目をそらした。
「あー……いや、その……どうかな……」
「……たぶん、手遅れだな」
「うわーーっ! 勘弁してくれ!」
総司が頭を抱えた。
***
だが噂は、すでに全力で蔓延していた。
巡察に行けば、
「走っちゃダメです!」
「階段降ります? 手、貸します!」
「冷えると心臓によくないって聞きました!」と羽織を掛けられ、
昼になれば、
「沖田さんのお昼は“消化に優しいお粥”にしておきました!」
さらに道場では、
「今日は座って見ててくださいね」と椅子が用意され、
もはや“超特別扱いモード”。労られまくりである。
イライラしながら椅子に座っていると、奥から永倉が現れた。
「……おお、噂の“心臓弱い若手ホープ”」
わざとらしくニヤッと笑う。
「聞いたぜ。すっげぇ面白いことになってんじゃねぇか」
総司がウンザリした顔をすると、
「まあ、いいじゃねえか。やろうぜ」
永倉は竹刀を肩に担いだ。
***
――さすが永倉新八と沖田総司。
新撰組が誇る看板剣士コンビ。
派手な立ち会いを繰り広げ、切り結ぶ音が稽古場に響く。
総司の剣はキレッキレ、息ひとつ乱れない。
“病弱説”を笑い飛ばすように、全力で、軽やかに。
その姿を見て、ようやく誤解は解けた。
***
縁側へ戻ると——
総司「……ほんと勘弁してほしい……」
永倉「いやぁ、心臓に悪いぐらい笑ったぜ」
読んでくださってありがとうございます!
ヒートショック外来の話から、どうしてこうなった?
……という“誤解の連鎖”編です。
総司の「もうやめてくれ〜」感と、
永倉さんの楽しそうな悪ノリを、楽しく書かせていただきました。
次回は、また別のところで起きる“やらかし”へ。
引き続きゆるくお付き合いくださいませ。




