筋肉エリートたちのダイエット計画地獄
沖田総司と近藤勇が楽しく通う安全入浴講座は 一緒に受講するのは優しいご長寿さんばかり、
今日も 若く親切な近藤勇は 人気者。いっぱい美味しいものいただいて 気づけば とんでもないことになっていた
近藤勇が太った。
この腹で、斬り合えるのか。
道場で構えた瞬間、腹が張り出す。剣は正しく構えている
だが、身体が剣に追いついていない。
永倉新八は目を伏せる。
原田左之助も歯を噛みしめる。
太鼓腹は、隠せない。
隊服の上からでも分かる。
なんとかするしかない (だれが?)
「俺の体重、管理任せたぞ 」ーーと 当たり前にように言われた土方歳三
美食に興味などない
規律と鍛錬と剣と煙草と酒で生きてきた男だ。
ダイエット? 知らん。
(俺は常に飢えている側だ。痩せる努力などしたことがない)
「で、何すりゃいいんだ」
「さあ? 走るとか? 甘いもん減らすとか?」
「“とか”で人は痩せねえんだよ!!」
──が、ご長寿さんからいただくお菓子は、今日も山のようである。
その全てに礼儀だの誠の心だのを見いだす男、近藤勇。
土方は例の「酒量管理帳」に、
おやつ欄・体重欄を追加し、血走った目で数字を書き込んだ。
「そのお菓子は今日の飲食予定に入ってないぞ、食うな!」
「あ、これはさっきご長寿さんにいただいたやつだ。ありがたくいただくのは誠の礼儀だ。よろしくたのむ」
「よろしくじゃない!!」
土方は膝から崩れ落ちそうになる。
数字がどんどん崩壊していく。
そこへ沖田総司が冷静に口を挟んだ。
「土方さん、数字を書いても近藤先生はやせませんよ。
ただの“観察日記”になります」
土方、机に頭を打ち付ける勢いで震える。
「じゃあ……ダイエットって、どうすればいいんだ……!!」
みんなが顔を見合わせた。
確かに体重はあるが、それは見事な筋肉。
余分な脂肪とは無縁の原田・永倉・斎藤。
放っておくと勝手に痩せる沖田。
まあまあの土方。
──太った経験のない男たちである。
ダイエットの仕方など知るはずがない。
鍛錬された男たち。
食えば力、走れば速くなる。
減らすという発想が存在しない
………
「簡単だ、局長! 一日六里(約24km)走る!
倒れたら担いでやるから安心しろ!」
「担がれる前提か……?」
「左之、お前は風邪ひいて高熱でも稽古してる馬鹿なんだ。局長を巻き込むな」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは!」
永倉が呆れながら続ける。
「俺は剣の腕も上がって痩せられる方法だ!
素振り一万本!」
「い、一万……!」
腕が震える近藤。
その横で沖田がにっこり微笑んだ。
「ぼくは簡単にします。
夕飯をなしにして、間食ゼロ。
差し入れのお菓子も禁止です」
近藤、真っ青。
「しかし……いただくものを断るのは……」
土方が小声で囁く。
「局長、それ一番効くやつです……精神に」
近藤は今日もお菓子を頬張りながら言う。
「土方、今日はどうすればいい?」
完全にお任せモード。危機感はゼロ。
土方は机に突っ伏した。
「お前は何も考えていないのに……
なぜ俺だけこんなに悩まねばならんのだ……!!」
***
そのころ、ご長寿さんたちは今日も近藤にどっさりお菓子を渡していた。
「あ〜ら、ぜんぜん太ってなんかいないわ〜。平気よ〜」
そう言われてニッコリ受け取る近藤。
土方の絶望はさらに深まる。
***
しかし、事態は思わぬ方向から動いた。
安全入浴講座に通う近藤と一緒にいた沖田総司が、
そっとご長寿たちの前に立ち、
「ご隠居さんたち、おくさまたち……
近藤先生は、ぼくのために講座に付き添ってくれて……
おいしいものをたくさんいただいて……大変感謝しているのですが……
じつは太ってしまって……医者に叱られたんです」
「ぼく……このままじゃ近藤先生、早死にしちゃう気がするんです……」
声を震わせ、涙までこぼした。
しん……と静まるご長寿さんたち。
それからは、
近藤には野菜や煮物が配られるようになった。
「ありがとうございますー!」
無邪気に受け取る近藤。
その後ろで、沖田はこっそり目を伏せて微笑んだ。
土方は計画表を前に、ふっと肩の力を抜いた。
「……計画は空振りだったが……
まあ……少しは救われたのか……」
近藤は相変わらず自由だが、
体重増加はゆるやかに止まりつつあった。
少なくとも――今日のところは。
※結論:
筋肉エリートにダイエットを任せてはいけない。次回も、やらかします。




