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武田観柳斎 覚醒

薄暗くなってきた屯所の回廊。

廊下を歩いていたのは、武田観柳斎。


頭も切れ、口も回り、剣も立つ。

――そして何より、妙に洒落ていて器用な男。


ふと、

部屋の戸の隙間から――

若い隊士たちがリップを回し塗りしている光景を目撃してしまう。


中では原田が叫んでいた。

「なんでオレだけ似合わねぇんだよ!!」


斎藤は無表情のまま鏡を見ている。

「……こういうものなのか」


永倉は頭を抱えていた。

「なんか……俺、変わんねぇ……!」


そして中心で、にっこにこしているのは沖田。

「ほらほら、左之助さんもう一回! 血色大事!」


――その瞬間。


観柳斎の目が、きらりと光った。


観柳斎は扇子で口元を隠しながら、じっと眺める。


「隊務中の男たちが、べにを回し塗る……」


ぞくり、と震え、目の奥に光が宿る。


「……非常に興味深い」

「いや、実に興味深い。ムフフ」


「記録しておく価値がある♪」


懐から帳面を取り出し、さらさらとスケッチを始めた。

扇子をたたみ、満足げにうなずく。


「ふふ……これは――」


その背後――


土方

「おい、何を描いている」


観柳斎

「あっ。」


ドスン、と腰が抜ける武田観柳斎。

大事な髪の毛が、少し減っていく気がした


リップ事件から数日後。

屯所の一角に、妙〜に静かな部屋が一つあった。


そう、武田観柳斎の部屋である。


扉の前を通りかかった永倉が、足を止めた。


「……なんだ? 様子が変だな」


そっと障子を開けると――。


観柳斎

「むふふ……よし、ここはもう少し色を強く……

 左之助は“血色暴走”気味に……

 永倉君は……そのままでいいかな」


永倉

「そのまま!? なんだそれ!」


しかし観柳斎は振り返らない。

目を輝かせながら筆を走らせている。


永倉が覗きこむと――


◆そこには巨大な錦絵


『新撰組若手隊士 艶色口紅の図』


唇ほんのり紅色、背景に桜が舞っている。


薄紅の唇が影に映える男――沖田に似ている。

月を背に立つ静かな男――斎藤に似ている。

炎を背負う荒々しい男――原田に似ている。

町屋を背にした男――永倉に似ている。


やたらと出来がいい。玄人はだし。


永倉

「おい! こりゃいったい」


観柳斎は満面の笑みで筆を止めた。


「おや、永倉君。

いやぁ……実は私、昔から絵心がありましてね。

あまりにも素晴らしくて

錦絵にしてみました」


永倉

「してみました、じゃねぇ!!」


そこへ原田も来る。


原田

「何騒いで……うわっ、武田さん。

この“炎バックの、オレ”?」


観柳斎

「君は、こういう派手なものが似合う」


原田

「あちゃ、やっぱ俺か〜?」


さらに斎藤も来て、絵を見て固まる。


斎藤

「……武田さん。これは何だ」


観柳斎

「芸術です」


斎藤

「……そうか」


そこへ総司が走ってくる。


「観柳斎さん、聞きましたよ! 絵〜!」


総司が自分の部分を見る。


「……あの……僕、これ……」


一瞬の間。


「やば、最高じゃん」


観柳斎

「ふふん、まあ、私にかかればこんなものですよ」


みんなでぎゃあぎゃあ騒ぎ出したその瞬間――


土方「おい、何を騒いで……」

眉がピクリ


「あっ」手が刀の柄に近づいている〜


観柳斎

「あ、あの副長……これはその、芸術で」


土方、深くため息。


「外に出すな……」


観柳斎「えっ、それは、どういう…」


総司

「よかったね〜武田さん、

ここだけの話、

あれは 土方さん 気に入っているって顔ですよ」


観柳斎

「おお…」


原田

「俺は!? 炎の背景どうすんだよ!」


斎藤

「うむ」


永倉

「観柳斎さんよー、俺の扱い 、雑じゃないかい?」


こうして――武田観柳斎、絵師としても才能を開花した事件は、密かに新選組内で語り草となったのであった。


その錦絵は現在、

副長室の奥に厳重保管されている。


理由は誰も知らない。


ただ、時々――


夜中に副長室から

「くくっ……」という笑い声が聞こえる

という噂がある。

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