唇に色を 健康隊士たちの挑戦
土方に睨まれながら、
総司は没収されまいと、リップをぎゅっと握りしめた。
沖田
「えっと、
これは“僕だけの問題”じゃないと思います。
色の薄さで損してる人って、実はいっぱいいるんじゃない?
男にはさー、誰でも血色が必要なんだよ。」
原田
「いや必要か? 男に?」
斎藤 「うむ、言われてみれば、 やばい色の隊士
けっこういるかもしれん」
沖田
「じゃあさ、試すしかないよ。
とりあえず ここのみんなでさ」
三人
「えっ」
土方
「やめろ」
しかし、もう遅い。
総司は満面の笑みで言った。
「ほら、左之助さんから!」
原田は自信満々でリップを受け取った。
原田
「まあオレなら似合うだろ。
なにせ“新選組の美男子枠”だからな!」
ぬり。…ぬり。
原田
「どうだ?」
……沈黙。
三人
「…………」
沖田
「……左之助さん?」
永倉
「……なんか……ケンカ直後みたいな顔になってる……」
斎藤
「殴られた風だな」
原田
「おい!!?」
総司が深くうなずいた。
沖田
「たぶん左之助さんは顔が濃いから……
唇にポイントができすぎて、変に映るのかも……」
原田
「誰が顔濃いだ!!!」
土方(小声)
「似合わねぇことは確かだな……」
総司は次に斎藤へリップを渡した。
斎藤は無表情のまま、すっとひと塗り。
ぬり。
……。
沖田
「……おおっ」
永倉
「……なんか……」
原田
「……似合ってる!?」
斎藤
「似合ってるとは?」
沖田
「なんていうか……
血色が戻っただけのはずなのに……
妙に美形感が跳ね上がったっていうか……」
永倉
「顔の影がやわらいで……
目が強いぶん、バランスが整うんだな」
原田
「なんだよオレより似合ってんじゃねぇか!」
斎藤
「……褒められているのか?」
土方(心の声)
(可愛いとかじゃなくて“美男方向”なのがズルいなあいつ……)
沖田
「じゃあ次、新八さん!」
永倉
「え、オレはいいって……
ほら……なにもせずとも健康的だし」
原田
「逃げんな!!」
斎藤
「公平に試すべきだ」
永倉
「うう……じゃあ一回だけだぞ」
ぬり。
……。
しーん。
沖田
「………………」
原田
「………………」
斎藤
「………………」
土方
「……あー……」
永倉
「おい、なんだよその沈黙は!!」
原田
「いや、悪くはないんだけどな?」
斎藤
「だが特に何も起きないというか……」
沖田
「“長倉さん”って感じのままというか……」
永倉
「それ褒めてる? けなしてる!? どっちだ!!」
土方(心の声)
(完全に“いつも通り”で何も変化ねぇ……言ってやれねぇ……)
総司はリップを握りしめて総括した。
沖田
「……つまり!
左之助さん → 濃い顔にポイントが増えて混乱
斎藤さん → 静かな色気が爆誕
新八さん → そのまま健康体
僕 → 可愛くなりすぎて困る」
斎藤
「うむ、概ね合ってるな」
原田
「副長は試さねぇのか?」
土方
「……試す必要がねぇ」
総司
「つまり似合うんですね?」
土方
「黙れ総司」
土方
「よし、やはり、リップ没収だ」
沖田
「えぇぇ!? なんで!?」
土方は全員の顔を見渡し、ため息をついた。
土方
「これ以上、混乱させる気か。
ったく、お前ら……」
原田
「けど副長、総司の唇に色がないと――」
土方
「そっちのがいい。
色が付くとややこしい。
特に総司はな」
沖田
「僕だけ!?」
抵抗もむなしく、リップは土方に没収されてしまった。
だが――
(今度は、自分で買おうかな)
密かにそう思う、沖田総司であった。




