新撰組の縁側 恋愛会議
屯所の縁側。
穏やかな昼下がり――の、はずだった。
原田左之助、永倉新八、斎藤一の三人はのんびりと茶をすすっていた。
その隣で、団子を頬張っていた沖田総司が、何気なく口を開く。
「僕さ――人生で一度も、女の子とお付き合いしたことないんだよね」
「…………は?」
原田の声が、間の抜けた音を立てる。
「お、お前が!?」と永倉。
「……嘘だろ」と斎藤。
三人の反応など気にも留めず、沖田は団子をもぐもぐしながら続けた。
「いやー、なんでかなあ。
こんなに可愛いのに?」
「自分で言うな!!」
見事に重なる三人の声。
沖田は不思議そうに首をかしげる。
「だってさ、道を歩けばよく話しかけられるし、
子供とかおばあちゃんにはすごく懐かれるし、
“可愛い”ってよく言われるんだけど……
町娘とは、まったく縁がないんだよね」
原田が頭を抱える。
「いや、そりゃあ……なんつーか……
お前、可愛いっていうか……その……」
永倉が身振り手振りで続ける。
「そうそう! あれだよ!
可愛いんだけど……可愛いんだけどさ……
こう……近づくと、シャーッてやられそうな……」
斎藤が静かに結論を出す。
「……猫だな」
沖田が目を丸くする。
「えっ、僕ってニャンコか何か?」
「違うけど!」と原田。
「なんかこう……無意識に威嚇してる感じがな……」
沖田は手の中の団子を見つめ、串をくるりと回した。
「でもさ……
僕も、こう見えて……ちょっとは恋してみたいんだけどなあ」
あまりに素直な声だったので、三人は一瞬、言葉を失う。
しかし次の瞬間。
「任せろ!」
原田が勢いよく立ち上がり、沖田の背中をぱん!と叩いた。
「左之助兄ちゃんが、モテ指南してやる!」
「いや、お前が指南するのか?」と永倉。
「……不安しかないな」と斎藤。
沖田はぱっと笑顔になる。
「じゃあ三人とも先生で!
僕、恋愛デビューしたいので、ご指導よろしくお願いします!」
三人、同時に心の中で叫ぶ。
(急に責任が重い!!)
そのとき。
廊下の向こうから、規則正しい足音が近づいてきた。
「騒がしいな。何の話だ?」
現れたのは、土方歳三。
沖田は間髪入れずに言った。
「副長、僕、恋してみたいんです!」
「やめとけ!!」
即答だった。
「即答!?」と原田。
「迷いがなさすぎる……」と永倉。
斎藤は静かにうなずく。
土方は額を押さえ、深いため息をついた。
「ただでさえ厄介なのに……
お前が色恋なんぞ始めたら、隊が持たん」
「……災害級だな」と斎藤。
「僕ってそんな扱い!?」
沖田が抗議する横で、土方は小さく呟いた。
「……自覚がないのが、一番厄介なんだ」
誰も、否定しなかった。
縁側には、妙に重い沈黙が落ちる。
ただひとり――
当の本人だけが、きょとんとして団子をもう一本取っていた。




