猫と原田左之助と夜更けの神社
疲れも酒もたまった原田左之助を、沖田総司と斎藤一が見守る夜の神社。
この晩、思わぬ“守護者”たちが現れます
最近、土方歳三がやけに細かい。
規律だの隊規だの、重箱の隅をつつくように口うるさく、
今日も原田左之助は、どうでもいいことで長々と叱られていた。
「……まあ、気にすんなって」
そう言って肩を叩いたのは沖田総司で、
その横で斎藤一が、いつもの無言のまま、軽くうなずく。
気晴らしに、と三人で飲みに出たのは、
ほんの軽い気持ちだったはずだ。
だが左之助の鬱憤は思った以上に溜まっていたらしく、
酒はどんどん減り、声はどんどん大きくなる。
帰り道、左之助は突然立ち止まり、
「だからよぉー! 俺は――!」
と何かを叫んだが、
途中から何を言っているのか誰にも分からなくなった。
「うわ……左之さん、重い!」
「見た目より重い!」
「太ってないのに重い!」
一人では無理だと判断し、二人がかりで何とか支える。
とにかく危ない、と近くの神社まで引きずっていき、
石段に座らせたところで、斎藤が辻駕籠を探しに走った。
――だが、見つからない。
夜は深まり、風は冷たい。
原田の酔いも心配だったが、
それ以上に沖田が気がかりだった。
少し調子が悪そうだったなあ。
とりあえず戻るか、なんとか原田を起こして…
ダメなら必死で担ぐしかあるまい。
神社に戻ると――
ーーー猫!?
いつの間にか、原田の周りに
原田の上に、猫が集まっていた。
一匹、二匹……三匹、四匹。
どこから来たのか分からない。
原田の膝や腹、背中に丸くなり、ぴったりと体を寄せている。
原田本人は、それに気づくこともなく、すやすやと眠っていた。
「……なんで猫」
沖田はニヤりと笑い、懐から小袋を取り出す。
「……鰹節?」
斎藤が戻ってきたとき、原田の胸元には、なぜか鰹節がふりかけられていた。
「総司、お前……」
沖田はしれっと言う。
「いや、なんか持ってたんだよねえ」
原田は酒のせいか、猫に守られているせいか、穏やかに熟睡中。
揺すっても叫んでも、起きる気配はない。
「いいなあ、猫、あったかそうだねえ」
隣の沖田は唇を青くしてガタガタと震えている。
斎藤は何も言わず、いつものマフラーを外して沖田の肩にかけた。
だが沖田は、それをそっと原田にかけ直す。
「……左之助さん、ここに置いて帰ろう」
…原田には悪いが、総司もやばそうだ。
結局、斎藤は震える沖田を連れていったん屯所に戻り、
すぐに永倉新八と島田魁を連れて再び神社へ戻った。
そこには――
猫が、さらに増えていた。
神社の石段は完全に猫だまりとなり、
原田左之助はその中心で、まるで炬燵の主のように眠っている。
「なんだこりゃ……」
永倉が呆然と呟く。
「ふとん猫だな」
「左之助、あったかいから寄ってきたのかなあ。」
「またたび酒でも飲んだんじゃないですか」
島田が真顔で言った。
なぜなのかは謎のままだが、
こうして猫に温められた原田左之助は、
翌朝くしゃみ一つせずに目を覚ました。
なお、沖田総司は――
その晩、きっちり風邪をひいた。
この晩の神社は、猫の体温と原田の酒気で、ほんの少しだけあたたかかったかもしれません。
静かで不思議な夜の一幕です。




