沖田総司 春の香り、梅干しの記憶
京の空はやわらかく晴れていた。
八坂神社の境内を抜けると、梅の白が目に入る。
沖田総司が、ふと手を伸ばした。
白く咲いた梅の花を、そっと摘み取る。
花びらが指先で震え、やわらかな香りがふわりと漂った。
「……美味しそうな匂い」
そのまま、ぱくりと口に入れる。
「残念。甘くないや」
「馬鹿か」
斎藤一が静かに言った。
「花はそんなものだ」
沖田は少し考えてから、空を見上げる。
「でもさ。いずれ散って、実になるんだよね」
その言葉に、三人が一瞬だけ黙った。
梅の花のように一瞬を美しく生きる――
そんな生き方もあるのだろう。
だが沖田も、斎藤も、永倉も、原田も、まだ若い。
意味もなく散る気など、さらさらない。
原田がにやりと笑う。
「その実もな、そのままじゃ食えたもんじゃないぞ」
「え、そうなの?」
「青いままだと腹を壊す。毒があるって話も聞くな」
沖田は目を丸くした。
「へえ……」
「梅の実 といえば思い出すのは梅干しだな、 」
「梅干し!?」
「ああ、試衛館の頃な」
沖田が懐かしそうに笑った。
「ふふ、周斎先生の奥さん、毎年梅を買ってきてさ。
途中で投げ出すんだよ。
結局、井上さんが漬けてた。名人だったなあ」
「周斎先生?」
「俺たちの師匠だよ。試衛館の主さ。
面倒見がよくてね――そのぶん台所はいつも火の車だった。
麦飯に梅干しだけ、なんてザラだったな」
「近藤先生が所帯を持ってからは、おつねさんが作ってくれた。
……あれも、美味しかった」
「うん。…やっぱり江戸の梅干しが恋しいな」
「お前、京のも毎日うまそうに食ってるじゃないか」
「そうなんだけどさあ」
沖田は少しだけ照れたように笑う。
「井上さんや、おつねさんの梅干し、また食べたい」
斎藤が静かに言った。
「江戸でも京でも、梅干し作りは手間がかかる。ありがたくいただけ」
「梅酒もいいぞ」と原田が続ける。
「今はまだ花の時期だ。酒の話は早い」
斎藤の一言に、四人は顔を上げた。
風に揺れる白い花びらが、ひとひら落ちる。
梅の香りの中、
彼らはしばらく何も言わずに立っていた。
梅の季節なので、四人に春を愛でてもらいました。
梅干しの思い出って、なぜか懐かしくなりますね。




