表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

沖田総司 誠の剣士に 脂肪はいらない 事にした。

新選組・屯所の早朝。

土方歳三は帳簿とにらめっこしていた。


その縁側の向こうから——


「副長ーー! おっはようございまーす!

今日も絶好調でーす!!」


元気すぎる声が飛び込んでくる。


眉をひそめた土方の前に、

眩しいほどの笑顔の沖田総司がダッシュで現れた。


「見てください副長、このツヤ! この血色!

昨日は坂の上まで十往復、捕縛任務も完璧!

でも僕、息ひとつ乱れませんでした!」


「……誰も聞いてねぇ」


だが総司は止まらない。


「さらに早朝剣術稽古三時間!

食べてもつくのは脂肪ばっかりですし——

ああ、僕、いま人生で一番健康です!」


「だから誰も聞いてねぇって言ってるだろ」


土方がうんざり顔になる頃、

総司は満足そうに胸を張った。


「副長、心配しなくても大丈夫ですよ?

僕、絶賛・健康体です!

脂肪なんて、この沖田総司には不要なんです!」


——と、きっぱり言い切った。


その声に、井戸端で洗濯していた隊士たちが、ひそひそと囁き合う。


「また始まったよ、沖田さんの“超・健康自慢”……」

「昨日なんか“胃腸も快調”って三回言って帰ってったぞ」

「スリムでも健康!って、アピール一生懸命だな」


「あれ? 沖田さん、頑張って食ってたんじゃ?」

「ああ。太れなかったらしい」

「体質だしな。べつに、なあ」


そんな声を背に、沖田はすっと土方の隣に立った。


「副長、肩でも揉みましょうか?

最近、脂肪多めじゃ……」


一拍置いて、にっこり。


「……いや、太ってませんけどね?

でも筋肉、落ちてません? 事務作業ばっかだから。

筋肉は大事ですよ〜」


「……お前に言われると腹立つんだよ!」


「ふっふ〜ん♪

それより副長、お腹、立ててる場合じゃありませんよ〜」


総司の指が、そっと土方の腹をつつく。


プニョ。

プニョプニョ。


「ほらほら、肥満とは言いませんよぉ?

でもねぇ……」


そう言いながら、総司が取り出したのは——

沖田手作り『健康管理月報・副長専用』。


体重欄は、なぜか“筋肉の硬さ”に書き替えられている。


「これからは僕が、“副長の筋肉管理”してあげますから!」


「断る!」


「チッチッチ。ダーメでーす。

さあ行きましょう? ——真・まことランニング!」


土方は帳簿を閉じた。


「……おい待て、俺の意志はどこに行った」


しかし沖田はすでに外で、満面の笑みで待っている。

さらに追い打ちをかけるように——


「おーい、歳ィーー!」


と、近藤勇のご機嫌すぎる声が響いた。


土方は額に手を当て、深くため息をつく。


「……局長、どうしてここに」


「何を言っている!」


近藤は胸を張り、朗々と声を上げた。


「歳が新撰組の士気を高めるために走るというのだ!

ならば局長自ら、率先して応援せねばならん!!」


その手は天へ伸び、

まるで天下国家の一大事を論じるかの如き堂々たる気迫。


「まさに素晴らしい!

副長が先頭に立ち、皆を導くその姿勢……実に模範的だ!

我が新撰組に、新たな風が吹いておる!!」


(……いや、腹の贅肉を落とす話だったはずなんだが?)


思っても言えない土方の横で、近藤の演説はさらに熱を帯びる。


「副長のその姿こそ、隊士たちにとって最も大切な手本となる!

これが一番大事なのだ!!」


「さすが局長! さすが新撰組の統率者!」


沖田がにこにこと拍手し、さらに大げさに乗せてくる。


「応援だけとは言わず、近藤先生も一緒に走りましょうよ。

誇り高き副長と局長が並んで走れば、隊の士気は最高潮ですよ!」


「おうとも! これが我らの精神だ! なあ、歳三!」


(……何の精神だよ……)


近藤の善意は、やはり暴風のように止めようがない。


「お二人とも、走るの久しぶりですよねぇ?」


沖田が屈託なく続ける。


「ちゃんとストレッチしてくださいね。

走る前に倒れたら困りますから」


土方の眉間が、ぴくりと寄った。


(……おい総司、確信犯だろ)


ガタガタと心が揺れる土方の横で、

近藤はもう準備万端、足踏みまで始めている。


「よーーし! 行くぞトシ! 総司!

夕日が沈まんうちに出発だ!!」


「はーい、局長」


沖田は軽く足首を回しながら、

ふっと副長の背中にだけ聞こえるように囁いた。


「——武士の情けで、少しだけゆっくり走ってあげますね」


にこ、と柔らかい笑顔。


(その“情け”が一番ムカつくんだよ……!)


夕日の中、三人の影が長く伸びる。


——おしまい


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ