表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/46

はらはらチョコの日

 前回、ご主人様は先輩とクリスティーナとお酒の力に背中を押されて、課長にチョコを渡す事を決意した。酔っ払った上での覚悟なので、一晩経ったらやっぱり無理だとか何とかごちゃごちゃ言うかと思っていたけど…

「やっぱりいきなり手作りは重過ぎるかな…お、駅前のショッピングモールでバレンタインフェアやってる。予算どうしよう…根本的な問題だけど、課長って甘いもの平気かな?毎年配って回ってたチョコ食べてくれてたっけ?」

 ブツブツ言いながら、スマホで色々リサーチしている姿はガチのやつだ。どうやら今年は本気らしい。

 カレンダーには、今日までの日付のところにバツがつけられている。ハロウィンの時もそうだったけど、ご主人様は全力でイベントを楽しもうとする。ご主人様の精神年齢は、小学生のまま止まっているんだと思う。

「ううーん、本気のバレンタインなんて学生以来だからなぁ。イマイチ何がいいのかわからないや。こうなったら、色んな人の意見を聞いてみよう!」

 そんなわけで、ご主人様の"あなたのハートをロックオン♡私の想いを受け取って!"作戦が動き出した。作戦名?もちろんご主人様が考えたよ。



「バレンタイン?まあ、好きな人への本命チョコレートなのね⁉」

「そ、そうなんです。大金さんって、旦那さんにあげたりします?」

 お散歩中にバッタリ会った大金の奥さんに大金家のバレンタイン事情を尋ねるご主人様。大金の奥さんはすごく興奮してるけど、話を聞く相手が悪すぎるとおいらは思うんだ。

「そうねぇ。ウチはどっちかっていうと主人がプレゼントをくれるから、私がチョコを渡した事はないわねぇ」

「あ、そうなんですね」

「《パパはいつもグッチョやロイ・ヴァトンのバレンタインモデルのお洋服やおリボンを贈ってくれるのよ!今年のデザインもすごく素敵だから楽しみにしてるの!》」

「《それ、いつものお土産と変わらないんじゃないの?》」

「《んもう、バレンタイン限定の特別仕様なのよ⁉そういう限定品を持ってるのが、セレブのステータスなんじゃない!》」

 セレブ面倒くさい。要するに高くて貴重なものなら何でもいいんじゃないか。

「あ、でもおすすめのチョコならいくつか紹介できるわよ!お相手の好みはわかるかしら?」

「あー、それがそもそも甘いものが得意かどうかもわかんなくて…」

「あらそうなの?だったら男性受けするビター系なものか、それともお酒の入った大人向けのものがいいかしら。アレルギーはない?」

「あ、はい。それは多分なかったと思います」

「なるほどね。それなら…」

 ご主人様から話を聞きながら、大金の奥さんはスマホでおすすめを選んでいく。

 全然関係ないんだけど、真っ赤なコートがこんなに似合うのすごいな。マロンも今日は赤いリボンで、お揃いにしたのかな。話が長くなりそうだから、絶対口にはしてやらないけど。

「ん-、そうね。大体この辺りがちょうどいいんじゃないかしら」

 そう言って、大金の奥さんはご主人様に画面を見せる。

「うわあ、美味しそう」

「でしょう?まだお付き合いをする前だから、あんまり高価なものを贈っても気を遣わせてしまうけれど、これくらいなら大丈夫だと思うわ」

「な、なるほど。確かに、いきなり高いものをプレゼントされたら困っちゃいますよね。これなら、これ…ん?」

 初めは目を輝かせて画面を見ていたご主人様だけど、ある事に気づいたのかピシッと固まってしまった。真冬だっていうのに、汗がダラダラ流れてる。

「あ、あの、これって、全部でこの値段なんですか?」

「あらやだ。いくら気を遣わせない程度のお値段って言っても、そこまでお安いものじゃ逆に気持ちが伝わらないでしょう?一粒でこのお値段よ」

「ひ、一粒で、この、値…」

 一体いくらのものを(すす)められてるのか知らないけど、大金の奥さんに相談した時点でこの展開は目に見えてたと思うんだ。ご主人様の事だ、ここのところ苦手意識が薄らいでたから、この人がどれほどのセレブかを忘れてたんだろうな。



「そう、やっと告白する気になったのね」

「こっ、告白はしないですよ!チョコを渡すだけです!日頃のお礼をですね…」

「クスクス、はいはい」

 慌てふためくご主人様に、みっちゃんさんがわかってるわよって笑いながらカフェオレのカップをカウンター越しに出す。

「みっちゃんさんは、旦那さんにチョコとか渡すんですか?」

「ええ。最近はお店で買っているけど、息子がまだ子供の頃なんかはケーキやクッキーを焼いていたわ」

「まさかの手作りですか⁉」

「これでもカフェのオーナーよ?それくらいできなきゃね」

 おいらも驚いたけど、言われてみればそりゃそうだ。そういうのが好きじゃなきゃ、カフェを開こうなんて思わないよね。みっちゃんさんのおやつ、美味しいもんなぁ。

「でも美奈海ちゃんの言う通り、いきなり手作りのものを渡すのはやめておいた方がいいかもね。他人が作ったものが食べられない人もいるから」

「やっぱりそうですよね」

「すーさんは手作り全然オッケーだけどね」

「えっと、はい、考えときます」

 ご主人様の隣で親指を立てるすーさんに、ご主人様は軽く返す。っていうか…

「みっちゃんさんが言ってた、ワンちゃん好き仲間のご縁ってすーさんの事だったんですね」

「そうそう。すーさんが物件を紹介したり、各方面の手続きやら何やらをお手伝いしたんだよ」

「会う度に謎が深まっていく」

「イケてるダンディっていうのはそういうもんだよ」

 腕を組んでうんうんと頷いてるすーさんは置いといて、ご主人様はみっちゃんさんにアドバイスを求める。

「ぶっちゃけ、どんなチョコがいいと思います?」

「本人を知らないからあんまり軽々しくこれとは言えないけど、シンプルなものが無難ではあるとは思うわね。あとは美奈海ちゃんが一生懸命選んだものなら、ちゃんと受け取ってもらえるんじゃないかしら」

「そっかぁ。そうですね…うん、そうしてみます!」

「ちなみにすーさんは、意外とポアロチョコなんかが一番嬉しかったりするよ」

「えっと、はい、参考にさせて頂きます」

 前から思ってたけど、ご主人様ってすーさんの扱いひどいな。



 そして運命の日が訪れた。

「スーツよし、化粧よし、髪よし。ちょ、チョコよし!」

 いつもより早起きをしたご主人様は、朝からシャワーを浴びて、スーツとシャツにアイロンをかけて、念入りに化粧をして、ちょっと手の込んだヘアスタイルをした。大きな紙袋には、営業部やその他お世話になってる関係各所に配って回る用のチョコ。そしてカバンの中には、ショッピングモールで吟味に吟味を重ねた課長専用のチョコが入っている。ご主人様は開店に間に合うように出かけていって、閉店するまで帰ってこなかった。それだけこのチョコにはご主人様の想いが込められている。

 ご主人様はめちゃくちゃ緊張した顔をしている。緊張しすぎて、せっかくきれいにした顔の色が悪く見える。そんな顔より、いつもみたいな力の抜けそうなヘラッとした顔の方がよっぽどご主人様のいいところを引き出してると思うよ。

「だ、大丈夫だよね。変なとこないよね」

「わふっ」

 大丈夫だよ、ご主人様。緊張でわけがわかんなくなったら、おいらの事を思い出して。

「あ、そうそう。忘れちゃダメだよね」

 何かを思い出したご主人様が、チョコを買いにいった時に一緒に持って帰ってきた白い箱を冷蔵庫から出した。

「はい、とむ!ハッピーバレンタイン!」

 やったー!忘れられてなかった。バレンタイン仕様の犬用ケーキ。美味しそう。おいらは笑顔を浮かべて、ありがとうを伝えた。

「じゃあ、いってくるね!矢尾美奈海、当たって砕けてきます!」

「キャン!」

 砕けちゃダメだと思うけど、まあいいや。家を出ていくご主人様に、おいらはいっぱい頑張れを送った。


はらはらチョコの日、おいらも応援。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ